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第六話 無慈悲なトリアージ、実施します。


 糞尿問題が解決したため、匂いは多少マシになったものの、まだひとつ激臭の原因が残っている。

 それがこの大量のオークの遺体である。


 水源汚染のことを考えれば、やはり火葬がベストと言える。

 しかし、ここから火葬までは、粘土の採取→藁の獲得→大きな窯の構築とロードマップが山積している。

 また大量の遺体を燃やすための燃料にする木材を乾かす必要もある。

 早くても一カ月はかかるだろう。


 俺はモノクルオークへとタスクを書いたノートを差し出した。

 モノクルオークは静かに頷く。


「我々は遺体を埋めるための穴を掘ればよいのだな」


 有能で大変助かる。


 「左様でございます。また、オーク様の選別をお願いしたく存じます」


 「選別と……?」


 正直この話はどう取られるか、不安ではあるが伝えないわけにもいかないだろう。

 俺はトリアージ実施の項目を指さす。


 「今から言う3つのグループに分けて、住む場所を変えていただきたいのです。

 まず、A群は病床に倒れている者。彼らはこのまま洞窟で生活をし最低限の接触を心がけてください」


 モノクルオークの表情が次第に険しくなる。

 

 「B群は歩行困難な者。彼らは洞窟の外で野宿させてください。健康なオークが川の水を運び蹄を綺麗に洗浄してください。

 次にC群、ここは健康な者たちになります。川沿いまで行き基本的な生活はそこで行ってください」


 言ってしまえばこれは『命の選別』行為だ。

 すぐにモノクルオークが頷けないのも納得できる。

 言い難いことからは、アラフォーになった今でも逃げたくなる。

 しかし、ここから逃げれば『戦犯』は俺だ。

 せめて、悩むモノクルオークの答えを待つことにした。


 「それは、私がしよう」


 いい上司である。

 俺は敬意をこめて頷いた。

 時に汚れ仕事をするのも、ビジネスマンの宿命と言えるだろう。


「テントを張るための大きな布地、藁、木を切るための斧などはありますでしょうか」


「斧はある。布地はないが動物の毛皮を繋げればある程度の大きさは確保できるだろう」


「では私が藁と工具を調達してまいります。その間に、埋葬用の穴と粘土の収集、木の伐採をお願いできますでしょうか」


「木はどのくらい必要か」


「まず10本。できれば20本ほどあれば完璧です。切った木は皮を剥ぎ、日光の当たる場所で立てかけて保管ください」


「承知した」


 その短い言葉で俺たちは各々のタスクへと進む。


 さて、ここからが腕の見せどころと言えるだろう。


「専務、今からもう一度灰藍川(アッシュ・ブルー)に戻ります。『万能地図』を開いてもらえますか」


 頭の上で微睡んでいた専務が渋々『万能地図』を投影する。

 そんなに眠いならiPadに戻ってもらえると助かるのだが……

 俺は灰藍川(アッシュ・ブルー)の今度は上流に指を合わせて長押しする。


 白狐専務に飲み込まれたかと思えば、到着している。

 便利である。


「また川なんか戻ってきてどないすんねん」


「商談に向かう営業マンがすることなどひとつですよ」


 俺は鞄より歯ブラシセットを取り出した。

 そう身だしなみを整える。

 これに勝る営業手法は無いと言えるだろう。


 俺は歯を磨き、冷たい水で顔を洗った。

 雪解け水の冷たさが、まとわりついた臭気を清めていくようで気持ちがいい。

 汚れたハンカチを川の水で洗い、顔を拭った。

 服の埃を丁寧にブラシで落とし、川の水を鏡代わりに髪をジェルで整え直した。

 

 そして、最も大切な革靴の手入れへと進む。

 本来水につけてはいけないのだが、ここまで糞尿にまみれてしまえば致し方ないだろう。

 革が濡れないよう慎重に靴底の泥を流していく。

 鞄から『靴磨きセット』を取り出した。

 小さいが内容は申し分ない。


 『人は見た目が9割』俺はこの本が好きだ。

 言葉は嘘をつくが、手入れされていない爪や汚れた靴は、その人の怠惰を雄弁に物語ってしまう。

 身だしなみとは『敬意』だと俺は考えている。


 手鏡に映った姿を慎重に確認する。

 最後にいつもの『営業スマイル』を貼り付けた。

 よし、完璧と言えるだろう。


 身だしなみが整えば、次は資金調達だ。

 俺は背に聳える高い崖へ視線を向ける。

 灰色、青、赤の土が層をなし、不規則な弧を描く。

 

 地層には詳しくないので、手の届く範囲の別の層の土を一掴みずつ取り、紙で巻く。

 指先で土をほぐす。

 この赤は鉄分か?この灰色は粘土質が強そうだ。


 地層から取れるなら、川からわざわざ掬い上げる必要はないかもしれない。

 この辺のことは、また戻った時にモノクルオークへ伝えよう。

 

 準備は整った。

 寝てしまったのか、iPadに戻った専務を取り出し、『万能地図』を起動する。


 開いた画面をじっくりと観察しながら行き先を決めた。

 まず向かうべきは、陶器かレンガの特産地だろう。

 そこならば、この粘土を買い取ってくれるかもしれない。

 兎にも角にも『資金調達』が優先タスクだ。

 

 大きな町なら情報収集も悪くない。

 俺は見つけた皿のドット絵をタップした。

 

 『アルバ・グレイズ

  陶器、レンガ、タイルが特産』


 目的地は決まった。

 俺は地図を長押しし、『YES』を選択する。

 そう言えば白狐専務が眠っている時は、どうやって移動するのだろうか。

 そんなことを考えた次の瞬間、地面が急になくなり黒々しい穴の中へ吸い込まれる。


 移動中のレトロなネオンは変わらない。


 『資金調達』まさに営業マンの仕事と言えよう。

 俺はニヤリと笑い、白い出口へと吸い込まれた。

 


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