第四十九話 戦後処理に王女様まで付いてきました。
「空を飛ぶなんて初めてです!すごく気持ちいいんですね」
ロザリアの高い声が青空に響く。
長い銀髪が顔にあたって鬱陶しい。
結い上げてはくれないだろうか……。
「ありがとうございます!フレアさん」
そう言ってフレアの背を撫でるロザリア。
フレアは嬉しそうに「キュー」っと鳴いた。
何故こんなことになっているか、少し時間を戻して説明させていただこう。
――アステリア城 玉座の間。
「よかろう。すぐにチームを編成しよう」
そこまでは良かったのだ。
「お父様、でしたら私が行きますわ!」
ロザリアが両手を軽やかに打ち合わせた。
何故?!やめてくれ、王族なんて気を使ってしょうがない。
「何を言っている。お前は第三王女だぞ」
「でも、医療チームはこの戦争で怪我をした兵士や民の面倒も見なくてはなりません。私なら一人でも治療魔法が使えます」
「ダメだ!オークの里など、可憐なお前がどんな目に遭うか?!」
頑張れ!レオナール!何とか諦めさせてくれ!
しかし、ロザリアは治療魔法が使えたのか。
いいことを聞いた。
「大丈夫です、お兄様。だってサトウ様が安全の保証をしてくださいましたもの。それに私、戦ってくださった皆様に直接お礼が言いたいんです」
「ダメだ!そんな保証に確証などないだろう!」
「あら、それでは、お兄様は確証も持てない場所に民を送ろうとおっしゃっているの?」
おっと、強いぞ、この娘。
さすがのレオナールも言いよどんでいる。
ロザリアがレオナールの両手を握る。
「お願いします、お兄様!私、広い世界が見てみたいのです。お兄様なら私のお願いを聞いてくださいますよね」
おい、そんな小首を傾げただけの仕草で許可なんか出すなよ。
「お兄様ぁ?」
甘い声を出すな。
おい!レオナール!顔を伏せてる場合じゃないぞ!!
「ならば、私も行こう……」
最悪である。
――こうして、お兄様付きのロザリア殿下がオークの里へ降臨となったのだ。
無邪気なロザリアの面倒を見ながら、背後で緑竜に乗ったお兄様に睨まれている。
俺のどこに落ち度があった?
お前がシスコンだからだろうレオナール!!
オークの里は普段よりずっとオークの数が少ない。
半分は王都アステリアに残りしばらくの間、復興を助けることになった。
これで外貨も稼げる。
バルトへの監督費の支払いもできるだろう。
ロザリアは洞窟の前で、一人ずつ丁寧に治療魔法をかけていく。
その間に、レオナールに武器の商談アポイントを取らせていただこう。
俺は、ミスリルの剣をレオナールに差し出した。
疑いの目で睨みつけながら、一応は受け取る。
粗探しでもするように、丁寧に見極めていくレオナール。
問題ない。
なんせ、ドワーフの武器だ。
「うむ。いいものだな」
「ミスリルもまだ少し残っております。よろしければ、後日、多様な素材の武器をお持ちしますよ。王国騎士団も強化が必要でしょう」
レオナールは眉根を歪ませて睨みつける。
そんな顔をしたところで、グラステラに完敗を喫した事実は変わらない。
痛いほどに、この言葉は効いているだろう。
「私はロザリアほど純粋ではない。売り込みたいなら、それなりの覚悟でくることだな」
「心得ております」
俺が敬礼すると、レオナールは鼻を鳴らして、ロザリアへと駆け寄った。
「ロザリア、疲れてはいないか?少し休んだ方がいいのではないか」
と必要以上に世話を焼いている。
妹に反抗期が来なくてよかったな、お兄様。
背後からオーク・キングの、豪快な笑い声が響く。
振り返るとミスリルの武器を構え、満足そうに歩いてくるところだ。
俺はすぐに深く頭を下げる。
「この度は、誠にありがとうございました。オーク兵の皆様に負傷者が出ず何よりです」
「サトウよ、面を上げろ。我は血肉沸き踊ったぞ!こんなに楽しかったのは初めてだ」
なんだろうな、この少し不安を煽る言い回しは……。
戦闘狂にはならないで欲しいところだ。
「また、何かあれば気軽に呼ぶがいい。ゾルタンがなんと言おうと我は出向こうぞ」
豪快な笑い声が木の葉を揺らす。
モノクルオークが嫌がっていたのは、もしかしてこの状況か?
「その時はどうぞよろしくお願いいたします」
俺は営業スマイルを貼り付けた。
そこへ治療を終えたロザリアが、ドレスの裾を揺らしながら、踊るように走って来る。
「皆様、お元気になられました」
「ありがとうございます、ロザリア殿下。こちらがこの森の長、オーク・キング様です」
ロザリアの表情が明るく輝き、オーク・キングの手を両手で握る。
「アステリアを守ってくださり、ありがとうございます!すごく大きな手!きっとお強いんでしょうね」
何を照れているこのオーク。
「オーク・キング様、こちらはアステリアの第三王女ロザリア様です。そして後ろにいらっしゃるのが、第一王子のレオナール様です」
オーク・キングとレオナールがひとしきり睨み合ったあと、何故か熱い握手を交わしていた。
一体何が分かり合えたのかは、謎である。
「さぁ本日中に王都へ帰らなくてはなりません。すぐに出発しましょう」
「あら、もう帰らなくてはいけないのですね。残念です。また来てもいいかしら」
やめてくれ。
俺は無言の笑顔で返しておく。
「では、行きましょう」
ロザリアは俺の手を握って引っ張った。
せっかく王族の面倒も見たのだ。
少しは俺に得があってもいいだろう。
「ロザリア殿下、王都に戻りましたら、ご一緒していただきたい場所があります」
小首を傾げたロザリアは、すぐに花のように笑う。
「ぜひ行きましょう!」




