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第四十八話 死の土地を買い取らせていただきます。

 

「ご、五万枚?!ま、待って!現状その金額を払う余裕は我が国にはない。派遣を依頼した覚えもないぞ」


 なるほど、そういうことを言うのか。

 俺は営業スマイルを浮かべる。


「誇り高きアステリア王様が、まさか命を懸けて王都奪還にあたり、ましてや王族様方の命をお救いした民間人の請求を踏み倒すなど、当然ありはしないと存じております。ただ、今は少し混乱していらっしゃるんですよね。もしよろしければ現実的なお支払い方法のご相談にも乗れますが、いかがでしょうか」


 これはイエス・アンド法(Yes-And法)。

 相手の承認欲求(Yes)を満たしつつ、建設的な会話へ誘導(And)する方法だ。

 使い古された手法ではあるが、プライドの高い人間ほど効果がある。

 これで「払わない」を突き通すことは、もうできないだろう。

 命より大切な『誇り』を捨てるようなものだ。


 未だ困惑しているアステリア王にダメ押しでもしておこう。

 俺は少し横に避け、グラステラ王の前を開けた。

 先ほど散々『誇りを捨てた』と罵ったのだ。

 同じ舞台には立てないだろう。


 アステリア王の眉間の皺が深くなる。


「城や街の復興があり、すぐには難しい。相談に乗ってはくれまいか?」


 よし!では、最高の提案をさせていただこう。

 

「私に金貨四万枚でグラステラ公国を買い取らせていただけないでしょうか。もちろん、お支払いをいただくのはアステリア王ですから、一度国土をアステリアの領地にする必要がございます」


 困惑するアステリア王の横で、ロザリアの楽しげな笑い声が上がる。

 現状到底、五万枚の金貨は払えないのだ。

 この条件を断ることはできないだろう。


 肘を突き、頭を抱えるアステリア王がため息交じりにこちらを睨みつける。


「貴殿は知らぬだろうが、グラステラ公国は国土のほとんどを火山灰が降り積もる『死の土地』と呼ばれておる。買い取ったところで、苦労するのは貴殿だぞ」


「ローム地であることは存じております。よい芋が育ちますよ。秋には甘いサツマイモを献上させていただきます」


 その上火山があるのだ。

 温泉が出れば観光地化もできるだろう。

 鉱山の掘削権もこれで得られる。

 ドワーフとの約束も解決した。

 俺からすれば一石三鳥だ。


 惜しまれては困るので、この辺は黙っておこう。

 来年にはアステリアを超える大国になるかもしれない。


「しかしな……」


 迷うアステリア王の腕をロザリアが握った。


「お父様、これ以上の条件はありませんわ。それとも五万枚も金貨を払えますか」


 ロザリアが楽しそうに国王に話しかけると、とうとう折れて頷いた。

 大きくため息を漏らした。


「わかった。では、本日からグラステラ公国は我が領土としよう。残り一万枚については、支払えということか」


「いえ、もう二つお願いがございます。

 まず、五千枚でグラステラ王とその側近、十数名を私にお預けいただけないでしょうか」


「それはならん!こ奴らは反逆を起こしたのだ。生かして返すことはできん」


「私は商人ですから、あくまで土地の管理はいたしますが、民の管理はいたしません。アステリア王がグラステラ公国全土まで面倒を見てくださるのならば、それでもかまいません」


 俺はあくまで営業スマイルを崩さない。

 しかしこの王は、『呪詛』の遺体が大地を枯らすことを知らないのだろうか。

 そんな特大の廃棄物を出されては困る。

 ぜひ生きて死ぬ間際まで、しっかり民のために働いてほしいものだ。

 

 ここは少しきつめに詰めておくか。


「では、アステリア王が全土を管理してくださると言うことでよろしいでしょうか」


「ま、待て!少し考えておる」


「悩まれているのは、戦争を起こしておいて、なんの罰もなしでは、今後示しがつかない。ということではないでしょうか」


 アステリア王が深く頷いた。


「では、この条件に『戦争賠償』を付けさせていただきます。グラステラ王と側近数名の命を見逃してくださるのなら、今後百年間戦争賠償として、グラステラ公国の税収の5%を献上いたします。しかし、グラステラも復興が必要な状況です。賠償は一年後を目途として開始させてはいただけないでしょうか」


 悩むアステリア王の横でレオナールが進言する。


「国王、これは悪い話ではありません。百年間の賠償が約束されれば、周辺の敵対国にも良い牽制となりましょう。国王の寛容さも民に示せます」


 レオナールの助言に、渋々とアステリア王は頷いた。


「最後のひとつとは何か」


 さて、ここまで何一つ思い通りにいっていないアステリア王は酷くストレスを溜めていることだろう。

 少し持ち上げておくとしよう。

 王族と喧嘩してもいいことはない。


「最後は条件ではなく、心広きアステリア王様へのお願いでございます」


 俺は深々と頭を下げる。

 玉座が音を立てた。

 アステリア王が姿勢を正したのだろう。


「この度、王都奪還にあたり活躍してくれたオーク兵についてです。彼らの仲間は今病床に倒れております。命の保証は私がいたします。どうか優秀な医療チームをお貸しいただけないでしょうか」


「よかろう。すぐにチームを編成しよう」


 アステリア王の満足げな声が壊れた玉座の間に響く。

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