第四十七話 王都奪還費用をご請求いたします。
「何故このような暴挙に及んだ。グラステラ王よ」
半分屋外となった玉座の間で、アステリア王は跪くグラステラ王へと問いかけた。
危険なので外で話した方がいいのではないだろうか。
見栄とは、人によっては命をかける価値があるようだ。
俺はそっと、一番外へ近い場所に陣を取る。
見栄に殺されたくはないものだ。
「一時期王都を獲れたとしても、すぐに他貴族が王都奪還に現れただろう。浅はかとしか言いようもない」
鋭いアステリア王の声が石壁に反響する。
「……それでもよかったのだ」
全身に鉄球を付けられたグラステラ王の声はか細い。
「王都を獲れれば、国倉庫が使える。一時的にでも国民の腹を満たしてやることができただろう」
「一時の救済になんの意味がある!浅慮甚だしい」
アステリア王の怒号に、グラステラ王の嘲笑が重なった。
「何がおかしい!」
「貴様は本当に飢えを知らないのだ。火山灰まで喰らって生きる我らの気持ちなど、わからないだろう。ただ、一握りの握り飯さえ食えれば、それだけで死ぬことすら厭わぬのだ」
側近や騎士達が声を殺し泣いている。
「貴様らにはわからんのだろう」
「グラステラ王よ。確かに我らにはわからぬのかもしれん。しかし、アステリア王がこの場で話を聞くのは、死の土地で暮らす其方たちへの同情であるとも知れ」
「やめよ、レオナール。誇り捨てた者に、何を言っても無駄よ」
『死の土地』とは、どこの話だ?
まさかグラステラ公国じゃないだろうな。
俺から見れば宝の山だが。
グラステラ王が、その言葉を聞き頭を下げる。
額は石床に擦りつきそうなほど深い。
それに従うように側近も騎士たちも頭を下げる。
「このような大罪を起こしておいて、調子のよいことではあるが、我らの命と引き換えにグラステラ公国を領土に加えてはくれまいか。頼む」
アステリア王は紅潮した顔で、玉座の肘掛けに拳を叩きつける。
「貴様!侵略しておいて、価値もないグラステラの土地を押し付けた挙句、民の面倒まで見ろと?!虫が良すぎるとは思わんのか?」
価値がない?!
グラステラ公国が?
そんなに押し付け合うなら、ぜひ俺に開発させていただきたい!
「他に方法などもう無かったのだ。頼む。民だけでも、民だけでも救ってくれ」
グラステラ王の声は掠れていた。
「お父様……」
ロザリアがアステリア王に懇願するように手を差し出す。
その手を叩き、厳しい声が飛ぶ。
「ならん!」
俺は、グラステラ王の前へと進み出る。
できれば崩れかけた玉座の間の中央には居たくないのだが、致し方ない。
「アステリア王様、ひとまず私の話を聞いてはいただけないでしょうか」
アステリア王の表情は厳しく、誰がなんと言おうと意見は変えないと言いたげだ。
ここで俺がグラステラ王につけば、振り上げた拳を下ろすタイミングはこないだろう。
まずは、拳を下ろさせるところからだ。
「民間人が口を出してよい問題ではない。下がれ」
「私がお話したいのは、今回の『民間軍事サービス調達費』についてです。――こちら、今回の業務に関する御見積書兼ご請求書でございます」
俺は懐から、完璧に帳簿計算された羊皮紙を差し出し、淡々と読み上げ始める。
「一、特殊作戦用「対黒魔術・高伝導性ミスリル製特殊兵装」の緊急調達および装備一式費用。(ミスリル武器調達費)
二、王都制圧作戦における「精鋭民間兵力(オーク・キング以下数十名)」の戦術派遣・労務管理費。(オーク兵派遣費)
三、前線への戦略物資および兵員輸送に関する、超高速飛行・ロジスティクス交通費一括。(交通費)
四、アステリア王都奪還・王族救出オペレーションにおける、総合安全保障戦略コンサルティング・業務完遂成功報酬。(戦略コンサルティング料)
五、戦時リアルタイム暗号通信網「魔導通話機」の緊急端末調達費、および通信回線利用料。(通信機発注・利用料)
六、オーレア平原における避難民暫定収容施設の「防衛インフラ(橋梁爆破等)構築」、および緊急大工職人の技術派遣・労務費。(避難民保全作業費)
七、超大型戦略魔獣の「臨時チャーター料」、および前線への派遣費用。(ドラゴン四躯派遣料)
八、グラステラ製『呪詛』に対する「対抗魔導兵装」の緊急製造ライン確保、および防呪アセスメント費用。(黒魔術対策費用)
九、特殊民間兵力の戦術派遣費用、および戦地最前線における、特別危険手当(危険手当)
十、二十四時間即応・戦時タスクフォース運営維持費(深夜早朝割増適用)
十一、アステリア王族八名の『生命インフラ価値・救出コンサルティング成功報酬』(王家救出費)
十二、アステリア王都全域における主権回復、および治安維持オペレーション完遂成功報酬。(アステリア奪還報酬)
以上十二項目に照らし合わせまして、金貨五万枚のご請求をいたします」
王族が揃ってまた間抜けに口を開いている。
何故そこまで驚くのか理解できないところだ。
王都奪還作戦が無料だとでも思っているのだろうか。
「ご、五万枚?!ま、待って!現状その金額を払う余裕は我が国にはない。派遣を依頼した覚えもないぞ」
なるほど、そういうことを言うのか。
俺は営業スマイルを浮かべる。




