第四十六話 『便乗商法』を行うような、詐欺師まがいな営業マンではありません。
『処刑が早まったみたいだよ』
目玉型カメラに括り付けた通信機から、ロムウェルの暢気な声が響いた。
「かしこまりました。では、予定より早いですが作戦を開始しましょう」
『お前、意外とアバウトだよね』
臨機応変と言っていただきたい。
俺とフレア、それにモノクルオーク率いる三十名のオーク兵はサフィア運河側にいた。
オーク・キング率いるオーク兵は正門側だ。
ドラゴンたちは目立つので、少し離れたところで待機している。
フレアの鳴き声で集まる算段だ。
兵の統率はそれぞれに任せ、情報の伝達をロムウェルが行う。
これで俺は王族の救助に専念すればいいのだ。
モノクルオークが狼煙を上げる。
原始的ではあるが、広範囲への伝達速度は最速だ。
簡単な言語のやりとりもできたと聞く。
洗練された情報伝達方法と言えるだろう。
オーク兵が雄叫びを上げながら、城壁へと突っ込んでいくのを見送り、バルトへと合図を送る。
これで作戦に大きな綻びはない。
では俺たちも王都奪還へ向かい、皿の金額を回収するとしよう。
「フレアよろしくお願いします」
俺が鼻の先を撫でると、嬉しそうに目を細める。
「人間に怖がられる悪者になってもらいます。あなたにとっては不本意な役回りかもしれませんが、大一番です。力を貸してください」
「いいんだケンイチ。ボクを怖がらない人がいることも、もう知ってるから……。その人達のためにボク頑張るね」
いい子である。
わしゃわしゃとフレアを撫でていると、頭上から呆れたため息が漏れる。
「佐藤はんは緊張とかせんのか?ホンマに人間か?」
緊張などは飼い慣らすものであり、振り回されるなど三流と言えるだろう。
そもそも緊張したところで、何もメリットはない。
フレアの背に乗り、いざアステリア城へ向かうとしよう。
アステリア城は『黒魔術』により大きく抉られ、建物の半分を失っていた。
なるほど……確かにこれは驚異的な力と言えるだろう。
『呪詛』が無ければ、大型建物の解体やダム建設には使えそうだ。
安全に利用できる方法はないのだろうか。
旋回していると、一際目立つ赤色のドレスが目に入る。
木箱の上に伏せているのは八人。
中央の二人がおそらく国王と王妃だろう。
赤いドレスがロザリア殿下なら、ダリア殿下は王妃の隣にいる女性だろうか。
できればお目通りしたいものである。
「佐藤はん。戦争中やで?」
「存じてますよ」
最近、白狐専務は心を読めるようになったのだろうか。
厄介だ。
フレアが中庭中央へと降り立った。
一緒に乗ってきたオーク二人が、すぐに王族の解放に向かう。
「グラステラ兵はこれだけでしょうか」
フレアが澱みなくグラステラ兵を睨みつけると、騎士団長のような男が前に躍り出た。
その男の目の前に黒い魔法陣が現れる。
皮膚に刻まれた黒い斑点が同時に広がっていく。
なるほど、あれが『呪詛』というわけだ。
その魔法陣から放たれた複数の矢は、フレアの硬い鱗に容易く弾かれた。
代わりにフレアがひと吹き火を吹くと、グラステラ兵は悲鳴をあげて逃げ惑う。
ここはフレアに任せるとしよう。
俺はフレアから降り立ち、王族たちに恭しく礼をする。
「ご無沙汰しております。ロザリア殿下」
ロザリアの表情は柔らかく、微笑みを浮かべていた。
案外元気そうで何よりだ。
「皿の代金をいただきたく、アステリア奪還計画の遂行に参りました」
隣に座るのは、恐らく第一王子のレオナールだろう。
俺は王族たちの表情をくるりと見渡した。
皆、豆鉄砲を食ったような顔をしている。
全くもって『王』とは暢気である。
レオナールには今度、ドワーフの武器でも持ち込んでみようか。
「まぁとても心強いです!私に何かできることはありますか?」
できることがあるか?
あります。
「では、一つお願いしてもよろしいでしょうか。現在同じ陶芸家がティーセットの新作を製作中です。ぜひ一度ご購入を検討いただきたく存じます。もちろん、薔薇のデザインでご用意していますよ」
ロザリアが軽やかに両手を打ちつける。
「あら、素敵!ぜひ見せていただきたいわ」
これは『便乗商法』ではない。
不安を煽ったわけでもない。
全てが終わった後にじっくりと商談する機会をいただいたまでだ。
もちろん、断らせるつもりもないのだが。
「ギィィイィアァァァーーーーンッ!!」
フレアが天を仰ぎ、王都の空気を震わせる大咆哮を放った。
その音はアステリア城の窓ガラスを全て割る。
ようやくその残響と振動が収まる頃、中庭に巨大な影が差す。
もう誰一人叫び声すら出せないまま、大地が巨体を受け止めて大きく震えた。
立っていることすらままならず、その場に皆跪いた。
三躯のドラゴンが、フレアの横に並ぶ。
その姿は圧巻そのものだ。
俺はすぐにフレアのそばに駆け寄り、頭を撫でる。
「ずいぶん早かったですね」
フレアは悲しそうに目を伏せる。
「おじちゃん達、死んじゃうまで戦うのをやめてくれなさそうだったから……」
俺はフレアの背に乗り、状況確認を試みる。
反対側の大地は真っ黒に染まり、そこにいた誰もが、黒点にほとんど全身を喰われていた。
なるほど……本当に死を厭わないのだ。
しかし、さすがに四躯のドラゴンを見て戦意を喪失したのか、全員がその場に座り込んで天を仰いでいた。
「降参していただけませんか」
俺が問うと、騎士団長が必死に立ち上がろうとする。
その腕を、一人の老人が抑えた。
「……我々の負けだ」
「陛下!!」
「我々は負けたのだ」
そう言って背を丸める姿は、想像する王の姿とは乖離していた。




