表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
42/50

第四十二話 営業マンの武器は、人脈です。


 ――オーレア平原 エール工場


 俺はさらに避難民の増えたエール工場を横目に樽の工房へと向かう。

 樽の工房にも人が溢れている。

 その隅にバルトを見つけた。


「バルトさん、ご無事でなによりです」


「おぉケンイチくんか。あんたも無事で本当に良かった」


 俺は座るバルトの前に、膝をつく。


「お願いがあります」


 真剣な声音に、バルトの目が鋭くなる。


「言ってみな」


「私が合図をしたら、サフィア運河にかかる橋を落としていただけませんか」


 バルトは一度大きく目を見開く。

 しかし、口をきつく結んで何も言わなかった。

 ただ、俺の真意を測るように鋭く睨む。


「王都アステリアに入る道は、正門とサフィア運河にかかる橋だけです。王都アステリア奪還後、兵の逃げ道を一か所に絞りたい。お願いできないでしょうか」


「王都奪還……お前さんそれ本気で……!」


 途中で言葉を切り、息を飲んだ。

 皺を深くしながら、杖を握る手に血管が浮き上がる。


 しばらくの沈黙の後、膝を打ち付ける。


「わかった。やってやる」


 その目には確かな闘志が宿っている。

 俺は気付かれないように小さく息を吐き、深く頭を下げる。


「ありがとうございます」


「で?合図はどんなものだい?」


「オーク兵が、このサフィア運河の橋と正門から同時に仕掛けます。オーク兵が全て渡り切ったら、すぐにお願いします」


「わかった」


 バルトは深く頷く。


「他の方への説明を私からもいたしましょうか」


「いや、任せてくれ。必ずやり遂げる」


 俺は再び深く礼を告げて、その場を後にした。


 サフィア運河沿いまで歩く。


「橋なんか落として大丈夫なんか?まだ王都の中に逃げ遅れた住民残ってるんやろ?」


「えぇ、それでも、オーレア平原に兵が流れ込んだら、それこそ手に負えません。彼らは飢えています。どんなことがあっても食物を奪っていくでしょう。避難所になっている以上、ここを守るのは最善手です」


 川沿いまでくると、ロムウェルの通信機に電話をかける。

 預かった目玉型カメラを地面に置き返答を待った。

 

 しかし、聞こえる音が鈴の音では、思わず気持ちが和んでしまう。


『……ふぁい!』


 寝てたな。


「準備ができました。映像は映りますか」


『ふぇ……ちょっと待ってね』


 電話の向こうから、騒々しい音が響き、その後しばらく静かになった。

 それにしても、本当に問題なく声が聞こえる。

 現在の必須アイテムである電話ですら、開発当初は聞き取れないほど音質が悪かったという。

 なのに、このPHS型の魔道具は現代のスマホ並みに音質がいい。

 この才能を生かさないなど、全くもって勿体ない。


『あぁ映ったよ。で?王都に潜入すればいいの?』


「えぇ、何かあれば連絡いただけますか」


『いいけど、音声が聞こえるわけじゃないから、見た情報だけだよ』


「十分です。あっそれとご忠告しておきますが」


『なんだよ。やだなぁ、その入り方』


「こちらが負けた場合、約束は丁寧にお断りしますので、死ぬ気で勝ってくださいね」


『はぁ?そんなの僕のせいじゃなくない?』


 俺はこの短い付き合いでわかっているのだ。

 こいつは『デメリット』を提示しておかないと、真面目に取り組まない。

 ついでにもう一つ追加しておこう。


「ちなみに、作戦中に寝て通信に出ないなんて事がありましたら、「ロムウェル様はフローラとなんかご飯行きたくないと断りました」と伝え、二人で食事に行きますからね」


『最低!!お前絶対地獄に落ち……プツン!』


 通話を切った。

 こちらは忙しいのだ。


「専務『万能地図』を立ち上げてください」


「今、なんか言おうとしてへんかったか?」


 目の前に現れた『万能地図』の灰藍川(アッシュ・ブルー)を選択した。


 ――灰藍川(アッシュ・ブルー)


 少し川上へ歩くとオークたちの拠点が現れる。

 フレアはまだ到着していないようだ。

 少し時間がかかっているだろうか。

 やはり無理をさせてしまっているのかもしれない。


 俺はモノクルオークかオーク・キングを探す。

 

 木の製材をしている集団にモノクルオークの姿を見つける。


「お世話になります。今少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか」


「サトウではないか。今日はフレアは別なのか」


「フレアは後ほど到着します。その前に、オーク・キング様にお目通りをお願いしたく参りました」


 俺の真剣な声音に、何かを察したのかモノクルオークがすぐに案内してくれた。


「おぉサトウ。私に用があるとは何事だ」


 俺は直角に腰を折り、深く頭を下げる。

 オーク・キングとモノクルオークの影が、互いの方を向いた。


「オーク・キング様に、無理を承知でお願いしたいことがございます」


「よい、面を上げろ」


 俺はゆっくりと頭を上げ、真剣な目を向ける。


「今、私の最大の取引先であり、バルトの故郷でもある、王都アステリアが隣国から襲撃を受けております。どうかお力をお借りできないでしょうか」


 二人が大きく息を吸い込んだのがわかる。

 誓約書は出してはいけない。

 脅しのような真似は、するべきじゃない。


 モノクルオークの顔がどんどん赤みを帯びていく。

 誰の目から見ても明らかだ。

 怒っている。


「サトウよ、それは我らに他国の戦争に首を突っ込み、死ねと言っているのか?」


 鋭いモノクルオークの怒鳴り声が、鼓膜を震わせた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ