第四十一話 売掛金の未回収は営業マン最大の恥なので、王都を必ず奪還します。
洞窟の外に丁度フレアが到着した。
「ケンイチ?どうしてボクより早いの?」
「ちょっと魔法を使いました。疲れてませんか」
「ケンイチ魔法が使えたの?ボクは大丈夫だよ。体が温まったから、すぐにでも飛べるよ」
俺はフレアの鼻先を撫でる。
始めのうちは怖がっていたドワーフたちも、フレアの羽根や胴体を撫でている。
フレアはどこに行っても人気者である。
「では、少し無理をさせますが、この武器を持ってオークの里まで飛べますか」
「うん。大丈夫だよ」
「ここからオークの里まで飛ぶのは初めてですが、方向はわかりますか」
「うん、東に進めばいいんだよね。ボクは飛んでても方向がちゃんとわかるんだよ」
なるほど、『地磁気感知』ができるのか。
ならば安心できるだろう。
「頼りにしています。フレア」
フレアの表情が華やいだ。
頼られるのが嬉しいのだろう。
俺は再び鼻の頭を撫でてやる。
飛び立つフレアを見送り、再び万能地図を立ち上げる。
『わいはいつまでこのままや?』
iPadに戻して気付いたのだが、どうやら専務が言語変換を自動でやってくれていたようだ。
この状態だといちいち『言語選択』を切り替えなくてはならなく、多少めんどくさい。
「もう戻っていいですよ」
画面から白狐専務が飛び出し、くるっと回るとiPadは消えていた。
なるほど、こうやって化けていたのか……。
定位置にされてしまった頭上に飛び乗り、眼前に『万能地図』が展開される。
俺は迷わず、第7魔道特区エル・ハブの森深くを選択した。
――第7魔道特区エル・ハブ
「なんや?またロムウェルに会いに来たんかいな?実はお気に入りか?」
そんなわけないだろう。
「借りたい物とやらせたいことがあります」
相変わらず可愛らしいファンタジーな家の周りをSFが飛んでいる。
その目玉のような監視カメラを一体捕まえた。
開けっ放しの玄関から入っていく。
一瞬綺麗になった部屋は元通り、魔道具に溢れていた。
ソファで眠るロムウェルの布団を引き剥がす。
「ふぁ?なっなに?またお前かよ!なんなんだよ!もう!!」
「お願いがあってきました」
「ダメだよ!!僕三徹目なんだから、もう寝かせてよ!」
そう言って毛布を取り返そうと引っ張る。
そもそも、二徹は自分のせいだろう。
「この魔道具は映像が映るんですか」
「え?急に話し始めるじゃん。こわっ」
そう言いながら、棚からゲームのコントローラーのようなものを取り出す。
その中心にあるボタンを押すと白い壁に映像が映し出された。
「自由に動かせますか」
「え?うん。まぁできるよ。なんなのさ」
「この映す方を移動することは?」
「それは無理じゃない」
欠伸しながら指さした先には、業務用コピー機のような魔道具があった。
「私がこれを王都アステリアに持って行けば映像をここで映すことはできますか」
「ん?やったことないけど、スペック的には可能だよ。何急に?」
「じゃぁ寝ずに協力してください」
「はぁ?!ヤだし!寝るし!!帰って!おやすみ!!」
ロムウェルは毛布に包まって、背中を向ける。
俺はそっと耳元で囁いた。
「実は、今回の件でフローラさんを食事にお誘いしているんです。もちろんロムウェルさんも一緒にと伝えているのですが、どうしますか?」
ロムウェルが勢いよく起き上がる。
苦虫でも噛みしめた顔で睨みつけてきた。
「お……お前悪魔かなんかの生まれ変わりなの?いいよ!やればいいんでしょ?!その代わり、ちゃんと連れていってよね!!」
「もちろん、私は約束を必ず守りますから」
「で?僕は何をすればいいわけ?」
「今、王都アステリアが隣国から襲撃されています。大切なお客様も巻き込まれており、王都奪還計画中です。この部屋から映像で確認し、その指揮をお願いします」
怪訝そうに眉を顰める。
「僕には、お前が人のために動くタイプには見えないんだけど?何血迷ってんの?ってか人間っていっつも戦争してるよね。そんなんだから発展しないんだよ。馬鹿らしい」
本当にクソ生意気な天才である。
戦争ビジネスが、どれほど大きな利益を生むか知らないらしい。
まぁ打撃も大きすぎるので反対派ではある。
「で?君は何のために、首を突っ込もうとしてんの?絶対善意じゃないでしょ」
「皿の金額を回収できていませんので」
「バカじゃないの?!ありえないんだけど?それいくらなのさ」
「金貨十二枚です」
「はぁ?そんなの僕が立て替えてあげるよ。はい!解決!おやすみ!」
「ダメです。これはプライドの問題です。貴方がたとえ立て替えたとしても、皿の代金を受け取っていない事実に変わりはありません。営業マン人生でたったの一度たりとも『売掛金の未回収』など、他の誰かが許したとしても、俺は絶対に許せません」
「えぇ怖い。なにその発想。こっわ……狂気じゃん。戦争起こってんだよ?回収できなくて当たり前じゃない?」
「例え地獄の沙汰でも回収いたしますので」
「えぇ怖い。いいよ。全然理解できないから、もうやってやるよ。その代わりフローラとの食事忘れないでよね」
何に納得したのかはわからないが、とりあえずやる気になったようなので、通信機を渡した。
フレアがオークの里に着くまで、約二十分。
まだタスクが残っている。




