第四十話 王都陥落。営業マン、現地調査を開始します。
「王家が捕まったぞ!」
勝ち鬨をあげるように叫んでいるのは、鍬を持った農夫のような男だ。
目立つ大通りを走っているのだから、恐らくはグラステラ公国の兵士の一人なのだろう。
しかし、こんな農夫まで借り出しているなら、相手は本当に死に物狂いだ。
iPadが振動する。
『何やってんねん!このままじゃ鉢合わせや!さっさと逃げぇ!』
この時間がロスだと思うのだが、まぁいいだろう。
「せっかくなので、話でもしてみましょう」
iPad内で専務が言っていることを予想しよう。
恐らく『何言ってんねん!はよ逃げぇ!!』だろう。
まぁ答え合わせをする方法はないのだが。
「失礼します。今少しお時間いいですか?」
俺がにこやかに話しかけると、相手は虚を突かれて目を丸くしている。
この状況でアステリアの住民が、殺意もなく話しかけてくるとは思っていないだろう。
その混乱で三分くらいは、こちらが主導権を握れる。
フレアが黒金山に着くまで後十五分ほどだ。
それまでにできる限り情報収集をしておきたい。
「捕まった王家は今後どうなるんでしょうか」
「さっさぁな、話によれば明日の正午に斬首刑ってことだが、俺ら末端には関係ねぇよ。それより、あんた見ない顔だな?どこの部隊だい?」
「ずいぶんと急ですね。普通こういうのは、形だけでも法的処理をするものかと思っていました」
「仕方ねぇさ。他の貴族様が騎士連れて駆けつけたら困る。あんたもわかってるだろう。グラステラじゃ今も飢えで、どんどん人が死んでる。俺らは負けるわけにはいかないんだ」
なるほど、この男もずいぶん瘦せている。
鍬は、こんな怪しい男に話しかけられても、地面にぴたりとくっついたままだ。
振るう力もほとんど残っていないんだろう。
これでも兵として借り出されているなら、内情は目も当てられないはずだ。
「お勤めご苦労様です。私は報告がありますので、王城へ向かいます。ありがとうございました」
そう言って、にこやかに手を振ると、男は頭を傾げながらも自分の任務に戻る。
「民間兵はいいですね。不測の事態へのマニュアルが共有されていない」
『そんなことするんは、佐藤はんくらいやで。わいはもう呆れてなんも言えんわ』
王城に近づくにつれて、喧騒が広がる。
王家が捕まったにも関わらず、未だアステリア軍とグラステラ公国軍がぶつかり合っている。
俺は近くの民家に隠れて、聞き耳を立てる。
『なんや?なんのために戦ってるんや』
「民間人を守っているのでしょう。アステリア兵は勇敢ですね。まぁこれ以上は進めそうにありません。時間も来ましたし、黒金山に戻りますよ」
俺は『Yes』をタップして、黒い穴へと吸い込まれる。
――黒金山
「あるだけ全ての武器を欲しいって?そりゃまたなんでだい」
「今、王都アステリアが隣国に侵略されています。私の最大の取引先で、お世話になった方々がたくさん巻き込まれています。何としても助け出したい。お力をお貸しください。代金は必ずお支払いします」
ドワーフの目が鋭く光る。
腕を組んで、難しそうに眉を顰めた。
「武器があったとして、どうやって対抗する気だ。アステリア軍は昔から連勝の強軍だ。それを抑えたとなれば、相手もかなりの強者だぞ」
あんな痩せ細った農夫まで借り出しているなら、恐らくグラステラ公国の兵力はそこまで高くないはずだ。
そうなると、アステリア軍を抑えた秘訣は『黒魔術』にあるのではないだろうか。
「ご存じでしたら教えて欲しいのですが、『黒魔術』とはなんでしょうか」
「黒魔術?!」
その大声に、他のドワーフ達も「どうした?どうした?」と集まってくる。
「相手は『黒魔術』を使うのかい?なら行くべきじゃない。死ぬぞ小僧」
確か、白狐専務も似たようなことを言っていたな。
「ご存じですか」
「よくは知らんが、通常の魔法では考えられないほどの破壊力があると聞く。アステリア軍が落ちたのもわかるってもんだ」
なるほど、魔法のことは魔法の専門家に聞くとして、とりあえずここでは武器が欲しい。
「それでも私は(売掛金のために)行かなくてはいけません。武器をいただけないでしょうか。私の信用で、借りられる量でかまいません。十本でも五本でも……」
ドワーフたちは顔を見合わせる。
静かな緊張が、洞窟の空気を張り詰めた。
一人のドワーフが、その場を離れる。
呼応するように、一人、また一人と場を離れていった。
相手もプロなのだ。
さすがに『信頼』を担保にはできないか……。
今、俺がドワーフに払える資産、いったい何があるだろうか。
「おい小僧、相手が『黒魔術』を使うんなら、そんじょそこらの武器じゃダメだ。俺が作ったミスリルの武器だ。全部持って行け」
ドワーフの腕には二本の剣が握られていた。
先ほど離れて行ったドワーフたちが、それぞれにミスリルの武器を持ってくる。
集まった武器の総数は二十三本。
剣、槍、ハンマー、盾まである。
「小僧、勘違いすんなよ。これは『信頼』なんて曖昧なもんでくれてやるわけじゃねぇ」
「そうだ。今新しい鉱山のために各地に散らばった仲間を集めてるんだ」
「あんたが死んだら、俺らの生活も共倒れだ。いいな、絶対無理するんじゃねぇぞ」
くっ……俺としたことが、ちょっと泣いてしまいそうだ。
まぁ俺が戦うことはないのだが。




