第三十五話 引き籠りエルフ、ドン引き必至の限界オタクでした。
「僕が作るなら納期は百年。費用は百金貨。絶対ディスカウントしないからね」
俺は眉間の皺を指先で揉み解しながら、なんとか営業スマイルを貼り付ける。
「気分が乗れば、どのくらいで完成しますか」
「えっ?そんなことあるわけないけど、三日くらいじゃない?」
三日を百年と言ったのか?この男。
あまりにもタチが悪いのではないか。
「では納期は一週間でお願いします」
俺は紹介状を片手で揺らしながら、怠け者エルフを見下ろす。
「やだよ。一週間で作るなんて働きすぎでしょ?僕が過労で倒れたらおじさんどうやって責任とってくれるわけ?ってか仕事なんて人生の一部でしかないんだよ。ワークライフバランスとか考えないの?社会の飼い犬かよ。だっさ」
なんだコイツ。
そして確実にお前の方が年上だろう。
頭痛がしそうだ。
「失礼しました。ただ百年は私には少し長すぎます。もう少し譲歩いただけないでしょうか」
「人間って本当せっかちだよねぇ。そんなんで生きてて楽しいわけ?マジで理解できない。僕が百年って言ったら百年なんだよ。嫌なら他あたってくれない?まぁ僕以外そんなの作れないだろうけど」
………………………………。
殴りてぇぇぇぇ。
なんだこの生き物は?
散々デスクで寝て、ゴールデンウィークには退職代行使って辞めていった新入社員みたいだ。
何故その言い訳が通ると思っているのかお聞きしたい。
「……わかりました。他を探します」
「へへっいい技師が見つかったらいいねぇ」
俺は紹介状を鞄へしまい、踵を返す。
「あっちょっと!話は聞いてあげたでしょ?紹介状は置いていってよね」
「いえ、紹介していただいたフローラ様にはご報告しなくてはいけませんので」
「え…………?なんて報告するのさ」
急に声が小さくなっているぞ。
俺は底意地の悪い笑顔を浮かべて、ソファに寝っ転がるエルフを見下す。
「ありのままを」
「ありのまま……?」
エルフの喉が鳴る。
「えぇ百年の納期と金貨百枚という途方もない条件を付けられたため、商談にはなりませんでした、と……。せっかく紹介してくださったフローラ様の顔に泥を塗ったのですから、今後二度と紹介状など書くことはないでしょうね。そもそも、鑑定士様なら他のよい技師もご存じでしょう。他の方をご紹介いただくお礼に一食くらいご馳走しなければ申し訳ないというものです」
みるみるエルフの顔が青ざめていく。
「では、失礼します」
俺の低い声に、ひぃっと小さく叫び声をあげる。
縋るように俺の服を掴んだ。
「ま!待ってよ。冗談じゃないか!もちろん受けるよ。一週間だっけ?」
「三日です」
「ふ、ふぇ?」
「三日です」
「わ、わかったよ!三日でやればいいんでしょ!だから紹介状ちょうだい!」
「先に誓約書を交わしましょう」
「誓約書?なにそれ」
「羊皮紙はありますか?」
「羊皮紙なんて百年前から使ってないよ。紙でいい?」
そう言って、エルフは奥の部屋から一枚の紙を持って来た。
なるほど、このエルフは時代を五百年は飛び越える技術を持ちながら、一人で謳歌しているというわけだ。
経済の大罪人と言える。
才能の持ち腐れもいいところだ。
全くもって、もったいない。
何とか馬車馬のようにこいつを働かせられないだろうか。
「あっちょっと!なんで僕がお前の言うことを聞くなんて条件書くのさ!いやだからね!絶対!」
「…………。」
「ちょ、ちょっと何か言ってよ!何?その三日の納期を守れない場合、以後どんな依頼も金貨一枚で請け負いますって?!はぁバカなの?!ありえないんだけど?」
「…………。」
「おい!なんか言えって!」
「ここにサインをお願いします」
「はぁ?消してよ後半の二文!」
「サインをどうぞ」
「いやだよ!なんなんだよ!」
「サインできないなら、帰ります」
「お、脅さないでよ!サインすればいいんでしょ?!もう最低なんだけど」
文句をぶつくさ言いながら渋々サインを書く。
そもそも、誓約書というのは最初の条件を果たせばペナルティなどないのだ。
文句を言う方がおかしいと言える。
俺は誓約書を受け取り、紹介状を渡す。
生意気エルフの顔が歪む。
この世のものとは思えないほどだらしない笑顔を浮かべた。
まるで一歩間違えれば生死を分かつかのように、慎重に封を開ける。
仰々しく手紙を取り出すと、それを天に掲げた。
「ほ、本当にフローラの文字だ!し、しかも僕宛て!僕宛ての手紙!!」
その場でぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ。
何がそんなに嬉しいのか、まったく理解ができない。
まぁ一から十まで何一つ理解できないのだが。
そのまま奥の部屋へと走って行くので、後ろを追った。
何か弱みを握れるかもしれない。
扉が開いた、その光景に俺は開いた口を閉じることができなくなる。
壁にはフローラのポスター大の写真、手前には3Dの等身大パネル。
棚の上には、恐らくフローラをイメージして作ったであろうぬいぐるみや、アクリルスタンドのようなものまである。
ロムウェルは、額縁に手紙を入れている。
同じように壁にはフローラから貰ったのであろう書類が額縁に入り飾られていた。
満面の笑みで、その横に紹介状も並べていく。
「き、気持ち悪い……」
というか怖い。
なんなんだ、コイツは?




