表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
34/44

第三十四話 納期は百年。天才魔道具技師は働く気がありません。


 「なんか随分外れたところまで来たけど大丈夫かいな」


 白狐専務が俺の髪の毛を小さな手で握りしめる。

 不安ならiPadに戻ってくれ。


 フローラの地図は、市街地から一時間ほど歩いた孤立した深い森の中だ。

 なるほど、相当の変わり者らしい。


「間違いないと思いますが、一度確認したいので『万能地図』を立ち上げていただけますか」


 その時、草むらが大きく音を立てる。

 現れたのは、車輪の駆動音を響かせるロボットだ。


 目のようなレンズがこちらを一瞥し、すぐに旋回して元の道へと帰る。

 どこからどう見ても人工物だ。


「なんやあれ?あれが魔道具か?」


「わかりませんが、追いかけてみましょう」


 思ったよりもそのロボットの足は速く、次に視界に入った時には建物の中へと消えていくところだった。


 その小さな家は、赤い屋根に白い壁、木の窓枠と見た目はファンタジーだ。

 しかし、その周辺を飛び回る球体はSFの方が近い。

 目のようなレンズがこちらを捉えると、瞬きをするようにシャッターを閉じる。


 不釣り合いが同居した、小さな家の扉をノックする。


「おらんのちゃうか?」


 再びノックをしても、やはり反応はない。

 しかし、中からわずかに音がする。

 飛び込み営業で居留守を使われることなど日常茶飯事。


 こんなところで粘り負ける俺ではない。

 まずは状況確認が必要だ。


 辺りを見回してみると、玄関の少し横に大きな赤いボタンがある。

 インターホンのような配置にあるが、絶対押してはいけないボタンにも見える。

 爆弾が爆発しそうだ。


 まぁ押すのだが。


 赤いボタンを力いっぱい押し込むと、中からベルの音が響いた。

 どうやらインターホンで正解だったらしい。

 しかし、ここだけ異常に発展度合いが高い。


 薄く扉が開き、銀髪が僅かに覗く。

 隈のできた青い瞳が、訝しげにこちらを睨んでくる。


「何か御用?」


「はい。魔道具作りをご依頼したく馳せ参じました」


 営業スマイルで紳士的に話す。

 まぁ扉が開いた時点で話は聞いていただくつもりだ。


「魔道具作りの依頼は受けてないんだ。帰ってくれる?」


 扉を閉めかけたエルフが挟まった足に気付く。


「ちょっ、ちょっとどけてよ」


「紹介状もいただいてきました。お話だけでも聞いていただけませんか」


 話だけで終わらす気もないのだが。


「はぁ?紹介状?なにまた公共関係の仕事?ずっとお断りしてるよね。僕、今ある資金が底を突くまで働かないって決めてるの」


 なるほど、確かに優秀なようだ。

 しかし、公共系の仕事を断るとは随分ともったいないことをする。

 俺なら休み返上でも受けるところだ。


「公的な仕事ではありません。私が個人的にご依頼したい魔道具になります」


「なら、なおさらお断り。どうして僕みたいな天才が個人のために働いてやらなきゃならないのさ」


 大半の場合『自称天才』は天才ではない。

 しかし、ここまでの自動歩行ロボットや球体の監視カメラ、インターホンも含め天才であることは間違いないのだろう。

 ならば、どうしても彼にやっていただきたい。


「あれ?個人ってじゃぁ紹介状は誰が書いたのさ。僕知り合いなんてほぼ現存しないんだけど」


「鑑定士のフローラ様です」


 扉が勢いよく開く。

 中から出て来たのは、恐ろしく顔の整ったまだ幼さの残る男だった。

 

「フローラが僕に紹介状を?」


 ふむ、なるほどこれは使えそうだ。

 俺は紹介状を掲げて、営業スマイルを浮かべる。


「お話を聞いていただけますか」


「仕方ないなぁ。話を聞くだけだよ?」


 扉を大きく開き、家へと招き入れてくれる。

 廊下は魔道具に占拠され、身体を横にしないと通れない。

 短い廊下を抜けた先には、恐らくLDKだ。

 あまりにも物が多く、その部屋の役割を失っている。

 一か所だけ開けた場所はソファとそのわずかな周辺だけだった。

 

 エルフはソファへと寝転がる。


「まぁ適当に座ってよ」


 どこに?

 思わず額を押さえる。

『変わり者』とは聞いていたが、まさかここまでとは……。


「私は立ったままで結構です。ご相談したいのは『通信ができる魔道具』製作です。二つの道具を使って、遠くにいる相手へ情報を共有する。そんな道具を作っていただけませんか」


「ふぅん。できるんじゃない?とりあえず紹介状をちょうだいよ」


 俺は、紹介状を指先で揺らしながら、話を続ける。

 渡してしまえば、この男はこれ以上話を聞くことはないだろう。


 男は不満そうに頬を膨らませている。

 そんな顔で情に揺さぶられる俺ではない。

 

「費用と納期を教えていただけますか」


「僕が作るなら納期は百年。費用は百金貨。絶対ディスカウントしないからね」


 百年……?百三十五歳まで生きるつもりはないのだが?

 いや、そんなわけないだろう。

 魔道具作りがそこまでの時間がかかるものなら、街中にあれほど魔道具が溢れているわけがない。


「申し訳ございません。素人の私にもわかるようにご説明いただけますでしょうか?なぜそんなに時間がかかるのでしょうか?」


「なんで?そんなの気が向かないからに決まってるじゃん」


 なんだコイツ。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ