第二十二話 酒は飲んでも飲まれるな。時に失敗もします。
ドワーフたちが悔しげに、拳を机に叩き落とす。
俺は、机上を滑らすように『加盟登録書』を差し出した。
『頑固親父』攻略マニュアル その五
助けるではなく、助けてください。
スタンスを忘れない。
「実は、最近商売を始めて、まだほとんど仕入れ先を持ち合わせていません。もし、今の行商にご不満があれば、「助ける」と思って、一度だけでも使ってやってはくれないでしょうか」
俺は再び、深々と頭を下げる。
ドワーフたちは各々が、『加盟登録書』と俺の頭部へ交互に視線を送る。
「俺らだけで決められることじゃねぇんだ」
「それに、男が簡単に頭なんか下げるんじゃねぇよ」
太い腕を組んで、長い息を吐き出した。
そっちのタイプだったか……。
「では遠慮なく、私なら今の行商の倍は売ってみせます」
自信たっぷりに胸でも叩いてみよう。
「おうおう!威勢がいいじゃねぇか!」
ドワーフの一人が膝を打った。
その様子を見ていた、もう一人が唸る。
「力になってはやりたいが、そもそも商品がねぇんだよ」
「商品がない?」
「この鉱山はもう素材がほとんど採れねぇんだ」
「仲間も随分減っちまったよ」
なるほど、だから朝っぱらから飲んでいたのか。
「まぁ工具を作るくらいのことはできる。安心して任せてくれ」
「鉋の卸値はいくらですか」
「鉋はいくらだったろうな。たしか銀貨十枚だ」
つまりアステリアでは十四倍になっているのだ。
店主が頭を悩ませていた訳だ。
「私が必要な材料を調達いたします。もちろん素材の費用はいただきますが、他より安く卸させてもらいます。代わりにその材料で作ったモノを私に売らせていただけないでしょうか」
ドワーフたちの目の色が変わる。
どうやら癇に障ってしまったらしい。
頑固親父とはタイプが多い割に、小手先が通用しない。
大変厄介な相手なのだ。
「おい、小僧。できもしねぇことは言うもんじゃねぇ」
胃の奥を震わせるような声。
凄む目は鋭く、一切の揺るぎを持たない。
しかし、俺はすでに勝負に出てしまったのだ。
頑固親父相手にここで謝罪すれば、状況はますます悪くなるだろう。
両眼に力を込めて、ドワーフの瞳を捉える。
「私ならできます」
ドワーフの目がさらに鋭さを増した。
背中に一筋冷たい汗が流れる。
先ほどまでの会話で、情熱的な人間を好むとわかっている。
信念を通すことは、熱意のアピールにもなるのだ。
俺はエールを一気に呷り、勢いよくジョッキを机に置いた。
挑戦するように睨みつける。
「では賭けましょう。私は素人ですから、見極めが必要な素材は難しいです。その中で欲しい素材をおっしゃってください。それを三日後までに必ずお持ちします。できれば先ほどの条件を呑んでいただきたい」
「できない時はどうすんだい」
俺は石机に片腕を乗せ、上半身を前に突き出す。
睨みあう視線がさらに近づいた。
「お好きなように」
「男に二言はねぇだろうな」
「心得ています」
「じゃぁミスリルだ。さすがにわかるよな」
俺は立ち上がる。
足元で白狐専務がスウェットを引っ張った。
「ミスリルですね。承りました」
俺は鞄を持ち上げ、早々に踵を返す。
ドワーフたちの鋭い視線が背中に突き刺さった。
「なに考えとんねん!ミスリルなんか手に入るわけないやろう!」
洞窟を出た瞬間、白狐専務が噛みついてきた。
「問題ありません」
「なんや、なんか宛てでもあるんかいな」
「いえ、発掘できそうなところがわかっているだけです」
「アホかぁお前!!ミスリルっていうのはなぁドワーフでも諦める地中奥深くに眠る伝説級の代物なんやぞ?!三日でなんて到達不可能や!」
なるほど、そういうことか。
実のところ、何が癇に障ったのかわからなかった。
採掘のプロに、軽々しく素材を持ってくるなど口走ったことが不服だったわけだ。
だからこその「ミスリル」である。
俺は外の空気を大きく吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
正直に言おう。
ノープランだ。
まぁ約束してしまったものは仕方ない。
最悪、代替案でも考えよう。
ちなみに『ランチョン・テクニック』で酒を飲んではいけない理由がこれである。
勢いで、分の悪い契約をしたり、契約そのものが流れてしまい関係性を失うことがある。
まさしく今の状況だろう。
「最悪逃げましょう」
「なんやその潔さ」
たまには失敗もある。
ちなみに俺は酒が入ると気が大きくなるタイプだ。
それに、頑固親父との商談では、喧嘩で終わろうが、和やかに終わろうが、大差はない。
『頑固親父』最後の攻略マニュアル
結局、結果でモノを言え。
これが一番得意と言える。
『万能地図』を開き、次の目的地である『グラステラ公国』をタップした。
そこにはミスリルの青白い鉱石や、鉄、銅、銀や金まで、かなり多くの素材が描かれている。
昨夜確認した際、黒金山にはほとんど素材記号がついておらず、枯れているかもしれない……とは思っていた。
つまり、『グラステラ公国』に向かえば必ず素材はあるということだ。
俺は『万能地図』を長押し、『YES』をタップした。
巨大化した専務に飲み込まれる。




