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第十七話 物々交換も商談の一つです。


「なんでそんなに藁が必要なんだい?」


 人の良さそうな農夫が声をかけてくれる。

 俺は頼りなさげに、肩をすくめた。


「いやぁ実はですね、火葬用の窯を作る必要がありまして、腐敗する前に()くってやりたいんですよ」


 目尻にでも涙を浮かべてみよう。

 農夫たちの表情が不信から一変し、同情へと変わる。

 農業とは助け合いの精神だ、こういう情に訴えかけるやり方が一番うまくいくだろう。


 嘘は言っていない。

 ただ埋葬するのがオークと言うだけのことだ。


 農夫たちが互いに目線を交わす。


「で?どのくらい必要なんだい」


 二つは欲しいところだが……


「窯を作るのと、最初の着火に必要な分だけでもいただければ、大変助かります」


「……そりゃ、結構な量になるな」

 

「おい、何考えてんだ。ダメだぞ」


「俺たちだって死活問題なんだ。人助けなんかしてる場合じゃないだろう」


『死活問題』つまり現状困っていることがあるということだ。

 ビジネスチャンスである。


 先ほど畦道を通りながら確認したが、麦の実りは決して良くない。

 土地が枯れ始めているんだろう。

 であれば『藁』だけで、なんとかなる問題でもない。


「『死活問題』とおっしゃいますと……?」


 俺がさり気なく聞くと、農夫たちは顔を歪めて下を向く。

 最初に声をかけてくれた、人の好さそうな農夫が口を開いた。


「最近、畑の実りが悪くてなぁ。藁はそれに使うために取ってあったんだ」


「そうだよ。だからやれないって言ったじゃないかい。さっさと帰んな」


「悪く思わんでくれよ。俺らも生活がかかってんだよ」


「なるほど」と俺は腕を組んで考え込む。

 周りの農夫たちが気の毒そうに俺を見ては首を振る。

 

「畑に灰を撒かれたりはされてますか」


 俺の言葉に、農夫たちは目を瞬いた。


「兄ちゃん、よく知ってるな。灰は撒いてるよ。それでも最近は収穫量が減っていてな」


「堆肥は撒かれてますか」


「おう、もちろんだ。と言っても取れる堆肥の量が少なくてな。収穫量が極端に減った場所に重点的に撒いてるんだ」


「ただ最近じゃどの畑も悪くてなぁ。堆肥も取り合いだよ」


「それで藁まで持っていかれたら、どうにもなんねぇんだ。気の毒だとは思うが諦めてくれ」


 営業マンに『諦める』なんて言葉はない。

 それにこの問題は『堆肥』があれば解決するのだ。

 ならば、なんの問題もない。


「では樽百個の堆肥と藁二束の交換ではどうでしょうか」


 まずい。

 素が出てしまった。

 親しみやすい皮を被り直さなければならない。

 俺は頼りない笑顔を浮かべて、頭を掻く。


「うちの村は畜産を行っておるんですが、石礫地(せきれきち)で農業ができないんですよ。近隣に売ることもあるんですが、余って仕方ない。使ってもらえれば助かるってもんです」


「そりゃぁ助かる!」


「でもそんな大量の堆肥どうやって運ぶつもりだい?」


 運搬方法か……これは新しいタスクだろう。

 『万能地図』でどこまで運べるものか、鞄を覗くと専務は飽きたのかiPadに戻っていた。


「種まきはいつ頃からはじめますか」


「種まきは収穫が終わった後だから、そうだねぇ三十日から四十日後だろうね」


 それならばなんとかなるだろう。


「それなら間に合う。ぜひ堆肥と藁の交換お願いできませんか」


 農夫たちは伺うように視線を交わし合いながら、頷く。


「まぁそれなら、俺らは願ったり叶ったりってもんだよ」


 俺はにこやかに笑い、純粋な青年のように両手を打ち付ける。


「では俺は堆肥を運ぶ準備に入りますね。あと、畦道に紫陽花を植えてみるのはどうですかね」


「アジサイ?そりゃなんでまた?」


「実は灰は撒きすぎると、作物の根を枯らしてしまうんですよ。撒く時期を図るのに紫陽花は最適なんです。赤い花が咲いたら灰は撒かない。青い花なら撒く。こんな風に簡単に土の状態を見分けることができます」


 まぁ実際には他の目的もあるのだが、それは美しく紫陽花が咲く、六月になってからのお楽しみとしよう。


「そうなのかい?そりゃいいことを聞いた」


「最近、根の細っこいのが増えた、と思ってたんだ」


「ありがとうよ!兄ちゃん。えぇっと名前はなんっつったかな」


「佐藤健一っていいます。いいお付き合いができたら嬉しいです」


 ここで名刺を出すのはやめておこう。

 名刺とは礼儀ではあるが、礼儀は時に親しみに盾を張る行為でもあるのだ。

 臨機応変こそできる営業マンである。


 とは言え見ず知らずの人間、なんの証明もなしでは、恐らく不安に思う者もいるだろう。

 俺は鞄から『加盟証明書』を取り出した。

 人の好さそうな農夫の前にそれを差し出す。


「なんだい?これは」


「ギルドの加盟証明書です。番号を控えてくだされば、俺が約束を果たさなかった時に、ギルドに申し立てができます。時間のかかることですから、安心材料として利用していただければと思いまして」


「なんだい、そこまでせんでもいいのに」


 頬を綻ばせながらも、木炭で近くの石に数字を書き込んでいる。

 しっかりしていて何よりである。


 さぁ、これで『藁』は手に入れた。

 ではオークの里にこれを届けるとしよう。

 


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