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第十五話 狸親父との化かし合いも醍醐味の一つです。


 商業ギルドを出て、約一時間。

 タスク完了だ。


 成果こそ最大の褒美と言っていいだろう。

 まぁ成果=報酬なのだが。


「ニッコニコやな。気持ち悪いわぁ。あんな純粋な少女に金貨五枚なんて大金払わせておいて心は痛まんのか?」


「何言ってるんです、専務。彼女はこの国の第三王女様ですよ。銀貨八十枚なんて中途半端な商品を売りつける方が失礼と言えるでしょう」


「はぁ?!そんなんいつの間に調べたんや?そんな時間あったか?」


「簡単に隠してありましたが、馬車の後方に国章がついていました。それに王女様は、代々花の名前を与えられると昨夜『万能地図』で確認済みです」


 あぁ、このままキンキンに冷えたビールを一気にいけたら最高なのだが、本日のタスクはまだ終わっていない。


 大きな契約の後こそ気が緩むもの。

 いま一度気を引き締めなければならないだろう。


 俺は急ぎ足でギルドへ向かい、朝と同じ列に並ぶ。

 そちらの方が、話が早い。


「どうぞ」と促した受付嬢の顔に困惑が浮かぶ。


「約束を果たしましたので、ユーグ様、もしくはギルドマスターのアルベルト様をお呼びいただけますか?」


 受付嬢は先ほどと同じように、急いで裏へと走って行った。

 カウンター上の棚には、まだ何も飾られていない。

 もう、そんな対応はできないだろう。

 なんといっても、この皿は『王室御用達』となったのだ。


 先程と同じように、走って戻ってくる受付嬢が、俺を裏へと通してくれた。

 通されたのは、重厚な扉のある応接室である。

 ギルドから見て、俺の立場が変わったことを意味している。

 

 営業マン冥利に尽きるというものだろう。


 受付嬢が「少々お待ちください」と扉を閉めたあと、ガッツポーズを決めてしまった。


 騒々しい足音が二つ、部屋の前で止まる。

 ノックが響き、すぐに扉が開いた。

 ユーグにアルベルトが揃い組だ。

 俺はその場で敬礼をする。


「どうぞおかけください」とユーグが促すので、俺は一礼をして椅子へと座る。

 打ち合わせ相手が来るまで立って待つのはマナーである。

 

「サトウ様、随分と早いお戻りでしたが、まさかもう……」


「えぇ、五枚セットを金貨五枚で販売いたしました」


 俺は机の上にシルクのハンカチを広げる。

 この時ハンカチについた『国章』を相手に向けるのも忘れない。


「商業ギルドの正式な登録をお願いしたいのですが」


「かしこまりました。ユーグすぐに準備してくれ」


 今朝と同じ言葉、違う表情。

 

 ユーグがすぐに立ち上がり、アルベルトは広げられたハンカチに視線が釘付けとなっている。


「失礼でなければ伺いたいのですが、皿を購入されたのはどんな方ですか?」


 恐らく目の前の男は答えを理解している。

 俺はニヤリと口元に笑みが漏れた。

 しかし、今回ばかりは許されるだろう。


「第三王女ロザリア様です。聡明なギルドマスター様であればこの意味がわかりますよね」


 アルベルトは喉を鳴らして唾を飲み込む。

 重い息をゆっくりと吐き出す。

 その顔はすっかり綻んでいた。


「ユーグが鑑定した本来の皿の金額は、銀貨三十枚だったんですよ」


 それは初耳だ。


「正直に言いますと、我々はせいぜい売れても銀貨35枚程度だろうと思っておりました。いやはや、御見逸れしました」


 狸親父め……なかなか気が抜けない。

 さすがギルドマスターにまでなる男と言えるだろう。


「今回は、たまたま運が良かっただけのことです」


「運を引き寄せられるのも、実力のうちでしょう」


 はははっとお互いに晴れやかな笑い声を上げる。

 しかし、その目は互いに笑っていない。

 実にやり甲斐のある相手である。


 そこへユーグが戻ってきた。

 手には正式な『加盟登録書』が握られている。

 アルベルトは、それを受け取り、すぐに新たな指示を出す。


「ユーグ、すまないが今すぐお預かりしている皿を、受付に飾ってくれないか。商人の名前に『サトウケンイチ』、金額に『金貨一枚』と表記してくれ」


 ユーグはすぐに踵を返し、扉を開ける。

 その後ろ姿に、アルベルトがもう一言付け足した。


「ユーグ、盗難防止の魔法をかけ忘れないようにな」


 盗難防止の『魔法』?

 そうか、ここはどうやら異世界らしいし、魔法が使える世界ということか。

 もしかして、俺も魔法が使えたりするのだろうか。


 アルベルトの狸親父が、『加盟登録書』を差し出す。


「長くギルドマスターをしていますが、貴方のような方には初めてお会いしました。何かあれば、まず我々にご相談ください。時間さえあれば、いつでも私が対応しましょう」


 俺は『加盟登録書』を恭しく受け取る。


「アルベルト様がご対応いただけるとは、光栄の限りです。私のような若輩者には、もったいないお言葉ではございますが、甘えさせていただきます」


 俺は握手を求めて、掌を差し出す。

 アルベルトが力強く握り返してくれた。


「今後も期待しています」


 アルベルトの言葉に再び、部屋を笑い声が満たす。

 しかし、やはり二人とも目は笑っていなかった。


 狸親父との一戦も終え、俺は商業ギルドを後にする。

 

 残るは藁の調達だ。

 『オークの里復活計画』へと戻らなくてはならないだろう。


 

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