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本当の敵。

 彼女や他の貴族達は、まさに驚天動地といった面持ちだった。

 無理もない。

 私だって同じ立場なら信じない。

 

「エゼル様。私が貴方を唆したという事ですか?」


 彼は答えない。

 顔を伏せたままだ。

 指が震えている。


「どうか私の目を見てくださいませんか?私、びっくりしています」


 柔らかな声。

 罪を自白した彼に対する言葉として、これ以上ふさわしいものはないだろう。

 本当に素敵な人だ、そうとしか思えない。

 でも。


「ライゼリカ、君が、君の眼を見たくないんだ……あの眼が僕は恐ろしい。どうしてさっきまで親しく話した相手をあんな恐ろしい眼で見れるんだ?」


 そう、そうだ。

 ライゼリカは語らない。

 何も指示なんてした事はない。

 ただ、誰にでも好かれる素敵な人が、強烈な殺意を持って他人を見た……それだけだ。

 目は口ほどに物を言う、という言葉があるがまさにそれだ。


「君は、君の眼は確かにさっき僕に『死ね』と言った。あの時、確かにルディアを『殺せ』と言った」


 エゼルの告発にライゼリカは困惑の表情を浮かべていた。

 父親である王は、なぜか俯いている。

 大司教長は他の貴族達と同じく、ただ不安の表情を浮かべていた。

 

「なにをおっしゃっているのか、よく、わかりませんわ……。何も言っていない私が貴方に目で指示して、ルディアさんを殺させたとおっしゃるのですか?いくらなんでもそれは……」

「彼は疲れているのではないか?婚儀はもはや継続は不可能だ。彼の裁判は後日正式に行うとして……」

「ち、ちがう!僕は狂ってなどいない!みんな本当は知っているはずだ!あの眼を!ライゼリカの殺意に満ちたまなざしを!」


 大司教長の中断の提案に、エゼルは激しく拒否反応を示した。

 別に私を思っての行動じゃないだろう。ただ彼女が恐ろしいのだ。

 貴族達は「黙れ!」「罪を認めろ!」「王女殿下に無礼だろう!」と喚き散らしている。


「皆様!どうかお静まり下さい!さあエゼル。私がお連れします。ここから出ましょう」


 ライゼリカの声に野次を飛ばしていた貴族達が不気味なほどに静かになった。

 よく見ると、何人かは顔を伏せている。

 行かせるわけにはいかない。


「いいえ。ライゼリカ殿下。それはなりません。お父様!証人を!」


 お父様の命を受けた使用人が証人を連れてくる。

 ここからが本当の勝負だ。


 連れてこられたのは、二人の男性だった。

 身なりはかなり薄汚れている。


「お二方、自己紹介を」

「私は……元伯爵家、バーサル家のビレムです」

「私は……元候爵家、シードレ家のオルコットです」


 二人が顔を上げる。

 貴族の何人かから「おお……」と声が上がる。

 おそらく顔見知りだったのだろう。

 

「貴方方がなぜこのように落ちぶれてしまったのかお話しください」

「それは、ライゼリカ殿下が私に妻を殺させたからです」

「それは、ライゼリカ殿下が私に妹を殺させたからです」


 誰ももう何も言わなかった。

 私達とライゼリカ以外の全ての人間が固唾をのんで見守っている。

 ライゼリカは……なにも言わずただ困ったような顔をしていた。

 まるで「何を言われてるのかさっぱりわからないわ?」と言った表情だ。

 

 しかし……次の瞬間。

 激しい殺意を持って二人を睨みつけた。


「ひぃ!あ、あの眼です!あの眼で私に指示したのです!あの女を……愛する妻を殺せ!と」

「お、恐ろしい。あ、あぁ……」


 そこで初めて誰もが気づいたに違いない。

 人は殺意を持った眼で人を跪かせ、優しい言葉で支配する事もできるのだと。

 しかし、こんな例は聞いた事も見た事がない。

 確信を持てるのは、実際の被害者と加害者だけだろう。

 そして、加害者には誰も耳を傾けず、被害者は私を除きみんな死んでいる。


「これでもまだ、貴女はなんの関係もないと?言葉を使わなければ誰かに指示した事にはならないとおっしゃるのですか?」


 私は彼女に問うた。

 しかし、彼女はなんでもない涼やかな顔で答えた。


「……そうですよ?当り前じゃないですか。お二人は本当に気の毒。こんな妄想を抱くようになってしまうなんて……もっと王家は貧者の環境に目を配らなければなりませんね」


 一瞬、私ですら彼女が本当の事を言っているように聞こえた。

 内容に説得力があったからではない。

 彼女に全く、一点の曇りも無かったからだ。


「じゃあさっきの眼はどういうつもりだったのですか?」

「目?いやだわ。私、生まれつき目つきが悪くて……少し睨んで見えたらごめんなさい。でもまさかそれを証拠に私が殺人を指示したとおっしゃいたいのでしょうか?」

「そんな言い訳……」

「言い訳?どこが?ひどい言いがかりです。愛する人に裏切られて動揺しているのはわかります。けど、その罪を私に転嫁するのは間違ってます」

「う……」


 今、ここにいる多くの貴族がライゼリカを怪しんでいるのは確かだ。

 にもかかわらず、彼女をこれ以上追及する事が出来ないでいた。


「終わりに……」

「いいえ。終わりにはしません」

「ロータ……」


 ロータが割って入ってきた。

 でも、多分これはもう……。

 

「この薬を飲んでください。はっきりと、『私はルディアに殺意を抱いてなかった』と誓って」

「あらロータス。でもまたそれ?でも殺意を抱いているかどうかなんて曖昧な誓いは立てられませんわ。それに、私正直人殺し扱いされて怒ってますもの。もし私が飲んで死んでしまってもそれはなんの証明にもなりませんわ」

「いや、それは……」

「その通りだ。ロータス君。君は間違っている」


 割って入ったのはお父様だ。


「誓って貰うのは『私は眼で人を殺した事がない』。これだ」

「!?」


 初めてライゼリカの表情に動揺が見えた。


「でも、お父様。眼や話術の誘導で人殺しを指示をしただけなのでは……」

「違う。これは直接的な殺人だ。そして……」


 お父様がロータから『白の誓約』を受け取った。

 そして誰にも見えるように掲げた。


「この『白の誓約』はそのために造られた薬だ。陛下、貴方ならご存知のはずだ」


 お父様が王を見た。

 俯いたまま黙っていた王は口を開いた。


「あぁ、その通りだ」

「そして王国法では……もう古く誰も使っていない王国法には、『法の守護者』である家の当主だけがこれを罪に問える。そうですな?」

「……あぁ。その通りだ。ディラム・ローレイズ。お前にはその資格がある」

「よろしいのですか?」

「かまわない。私も確かめたいのだ……娘の正体を」


 父上が瓶を取る。

 そして、前と同じように双子の容器に注いだ。

 

「ここに誓う。王土に住まう全ての者のために、全ての公正な法の守護者として『王国法が問えぬ罪を問う』事を」


 そして、ライゼリカに杯を手渡した。

 

「誓って下さい。『私は眼で人を殺した事がない』と」

「……いいでしょう。そんな事あるはずがありませんから」


 私はただ見ているしかなかった。

 いや、誰もがただ見ているだけだった。

 王宮の誰もが感じていたあの違和感と恐怖の答えがこれから示されるのだ。


 ライゼリカは杯をじっと見つめそして……。


「ひっ」


 私は思わず悲鳴を上げた。

 ただ見ていた。

 強烈な殺気を振りまく眼で。

 今までの物とは比較にならない、死をそのまま連想させるような殺意を持った眼で。

 貴族達が怯えて次々に声を上げる。


「な、なんだあれは……」

「ライゼリカ様……なのか?あれが本当に」

「ば、化け物……」


 そしてライゼリカは「化け物」という言葉に反応して、発言した貴族に向き直った。

 

「化け物?嫌ですわ。ひどい言いがかりです。貴方も殺しますよ?」

「え?」

「ルディア、ちょっとゴミ男を使って殺そうとしただけでこんな仕打ちをするなんてひどいじゃありませんか。それにロータスも欲しかったのに残念。結婚しようと思ってたのに」

「ライゼリカ……」


 王の声が震えている。

 今、確かに言った。殺す、と

 しかもまるで何事もなかったのように。

 いつもの優しい聖女のようなままで。


「凄い薬だわ、この薬。ずっと隠してた私の殺しを見破れるだなんて……昔の人も侮れないわ。ねえルディア。良い事を教えてあげる」

「え?」

「エゼルはね貴女がいなくなって欲しいってずっと思ってたの。もっといい女がいないかってずっとキョロキョロキョロキョロ。私、そういうのすぐわかるの。そこのビレムもオルコットもそう。オルコットなんて妹が死なないかずっと願ってたんだから」

「う、嘘だ!」

「そんなわけがない!」

「やめろ!言うな!」


 ライゼリカの追及に三人の男が取り乱す。

 ああ、そうだったんだ。

 本当にどうしようもない奴だったんだなこいつ。

 でも。


「だからって自分の道具に人を殺していいわけないでしょ!貴女は狂ってる!」

「良い目。強い意志を感じるわ。素敵ね貴女。ここに至る道筋も実直そのものだわ。でも傷ついて弱くて守って欲しいんでしょう。ほら震えてる。安心してルディア。もう何もしないから」

「な、なにを……」


 ライゼリカの涼やかな声に私は動揺した。

 だってこの人に憧れていた時は、こんな風に言ってもらいたかったから。

 ……本当にキレイで、素敵な人。


「その代わり今すぐ自殺して」

「え?」

「ルディ様!」

「はっ……」


 気づくと私は自分の首に手をかけていた。

 危うく自殺するところだった。

 あの激しい殺意の『眼』。

 ライゼリカは散々な目に会った私の心の隙をついて自殺させようとしたのだ。


「ダメね……残念。最後に楽しもうと思ったのに」

「捕えろ」


 王が命令した。

 そして、控えていた衛兵達が彼女を拘束し、連行する。

 今度は兵士に何やら話しかけ、懐柔しようとしている。


「口と目を塞げ」


 王がまた命令した。

 ライゼリカはなにやらもごもごと抗議しているかのような声を上げたが、連行されやがてその声も聞こえなくなった。

 そうして、ようやく事件は終わったのだった。


「ルディ様」

「ロータ……」

「これからが本当の貴女の人生ですよ」


 ロータがニッコリ笑っていった。

 本当にそうだ。

 おかしな連中と縁を切れて本当に良かった。

 ……ライゼリカはちょっとおかしなレベルじゃないけど。

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