18 ポジティブな僕は夢のためなら世界なんてどうでもいい
僕の名前はヨウ・プラララス。
ギルドどころか国からも追放されて、無人島への流刑となった不出来な女だ。
将来の夢は、『国を守る剣』のギルドマスターやインさんのような素晴らしい人間になること。
素晴らしい人間、つまりはどんな人にも温かく接することのできる人間に僕はなりたい。
そもそも僕は、人に対して「温かい」気持ちを抱いたことがない。それどころか人と関わる中で感情が動いたことがほとんどない。子供のときからずっと、皆がどうしていちいち笑ったり泣いたりするのかが理解できなかった。
そんな僕は周囲から忌み嫌われ、迫害されることも少なくなかった。
故郷の町を滅ぼしてしまったのも、まあそのあたりのいざこざが原因だ。
そんなトラブルが今後も続くのは御免被るので、きちんと普通の人のように感情があるように振る舞ってはいるけど、所詮は表面的なものだ。笑顔になったからといって、楽しさや嬉しさが生まれるわけでもない。
僕の中に、嬉しさや楽しさは未だない。
自分すら騙すように、内心では感情があるように思考してはいる。でもこれも結局は表面的なものにすぎない。もしも誰かが僕の思考を読めば、ある程度は感情があるように思ってくれるだろうけど、残念ながら僕は本当にそんなことをいちいち感じているわけではないのだ。そう感じた方が素晴らしい人間に近づけるだろうから、そうしているだけで。
「インさんたちのような、人間になりたい」
僕は温泉に浸かったままで呟いた。
インさんとの子供ならば、そのためのヒントになると思ったのに、インさんには断られてしまった。残念だ、とこういうときは感じるべきなのに、実際僕はそこまで「残念」だとは感じていない。良くないな、早く改善しなきゃ、残念なときは溜息をつくんだ。
さて、インさんは邪神の呪いのせいで子作りは無理だと言っていたっけ。
真偽は不明だけど、もし本当に呪いがあって、そのせいでインさんが爆死してしまっては元も子もない。僕はどうにかインさんとの子供が欲しい。
「じゃあ、やっぱり呪いの根本を断つしかないかなあ」
呪いをかけたのが誰か分からない以上、邪神を殺すしかない。ならばそのためにはまず、邪神の封印を解いて蘇らせなければならない。せっかく僕が封印したのにまた解くなんて、色々と勿体ない気もしてくるな。
「まあ、いいか」
それもすべては夢のため。
もしも邪神のせいで世界が危機に陥っても、それは仕方のないことだ。
邪神の封印を解く方法については、以前の事件のあと、「国を守る剣」から追放されてからこの島に来るまでの道中で調べていた。
邪神を蘇らせるともなれば、さぞ複雑で難解な儀式が必要なのだろうと思っていたけど、意外にもそれは簡単なものだった。
三つの「貢物」を用意さえすれば、幼子にだってできてしまう。
まあ、その貢物の用意が一般的には難しいのだろうけど。
一つ目は、邪神に関する土地。
邪神の伝説が残る地や、彼の者の力の痕跡が残る地などがそれである。今回は今僕たちがいるこの「希望の島」がまさにそれだ。ここは邪神が呪いをかけたという島なのだから間違いなく条件には適しているだろう。ちなみに儀式の際にはその捧げた土地は消滅するそうだけど、些細なことだ。
二つ目は、邪神の力を引く者の血。
かつて存在した、邪神を崇拝する一族というのがそれに当たるらしい。そして僕はその末裔だ。ご先祖様が邪神とどう契約を交わして、どう力を手にしたのかは知らないけど、その力が僕の代まで受け継がれているというのはなかなかありがたい話だ。禁呪を使えることだけではなく、人一倍優れた魔力もその恩恵なのだろう。
三つ目は、よくある話だけど生贄だ。
どのぐらいの人数や質が求められるかは分からない。とりあえず以前の復活の際には5人ぐらい使われたらしい。なら多めに10人程度用意すれば大丈夫かな。今度から、暗殺者さんたちは生け捕りにしなきゃだね。
そして、これらの三つさえ用意してしまえば、あとは本当に簡単だ。
ただ邪神の目覚めを願えば良い。
そうすれば、どこかで眠っている邪神の封印は解け、儀式を行った召喚者の前にその姿を現すのだ。
まあ大抵の場合、召喚者はそのまま真っ先に邪神に殺されてしまうことにはなるようだ。
召喚しても制御ができるわけでもないし、邪神は力の限り暴れるみたいだからそれは当然の話ではある。
だけど、僕は殺されるわけにはいかない。
邪神を殺して、インさんの呪いを解いて、彼と子供を作るのだ。
だが現状、邪神に勝てる見込みがあるかと言えば微妙なところだ。
前回だって倒せるものなら倒すつもりだったけど、あのまさに神がかった再生能力や、力そのものとしか言えない圧倒的な存在感の前では、僕の力だけではとても敵わなかった。贄をあれだけ使った禁呪でどうにかやっと封印できたのだから、倒すともなればさらに多くの贄が必須となる。
「ちょっと難しいかもなあ」
邪神召喚に必要な生贄は人間に限られるが、禁呪を使う際の贄については人間である必要はない。これまで、腕や脚などの体の一部分だけを個別に贄にしていたことからも分かるように、生命エネルギーとも呼べるものが一定量あればいいのだ。
だから、この島にある多種多様な動植物のすべてを贄とすれば相当の力を得られるだろう。色々と繁殖させているから数だけは多い。それで足りるかどうかは、結局やってみないと分からない。
「問題は二つ、かな」
一つ、言った通り、足りるかどうかは本番まで分からない。
どうせ生贄用の暗殺者の頭数が揃うまでは儀式は進められないし、それまでに贄を可能な限り増やすつもりではあるけど、結局のところ十分かどうかの確証が持てない。
二つ、せっかく増やしたとしても、邪神復活の際にこの島は消えてしまう。儀式の貢物にしちゃうからね。だから事前に動植物たちをどこかに移しておく必要がある。できなくはないけど、それもそれで大掛かりな準備が必要だ。どうしても時間がかかる。
でも、やらねば。
僕の夢を叶えるために、ここが踏ん張りどころだヨウ・プラララス。
まあ、きっと何とかなるだろう。
僕はこれまでどんな困難も突破してきたし、今回だって見事乗り切ってみせる。
ポジティブに希望を信じていれば、きっと神様だって力を貸してくれるさ。
「何日ぐらいかかるかな」
僕は夢が叶うその日までの道のりを指折り数えながら、にこりと笑った。
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