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2.イベント:【星5SSR美少女たちの距離】

『なるほどなるほど、刹那ちゃんも含めた三人デートかぁ。面白そうだね♡』

「デート言うな。僕らは友達だろうが」


 電話越しで弾む声に、ツッコミを入れる。

 硝子さんを送った後、僕は家に帰ってから結香に電話をかけて、綺羅星に言われた『三人で何処かに出かけたい』という要件を伝えた。 


『話は分かったよ。それじゃ何処に行こうか?』

「出来ることなら僕は行きたくないんだけどなぁ……。結香といい、こないだの硝子さんの件といい、全然休めてる気がしない……」

『あははは……それはごめんね……。でも刹那ちゃんに貸しを返さなくちゃいけないんだよね?』

「面倒なことにな。ああぁ……行きたくねぇ……家でのんびりしていたいよ……」

『ふんふん。それならさ、こういうのはどうかな?』

「ん? なんだよ?」



◇◇◇



「で、どうしてあんたの家に来てるのよ」

「僕と結香の総意により」


 月曜日の放課後。

 僕と結香と綺羅星の三人は、学校が終わったその足で、僕の家まで来た。

 平々凡々な一軒家に、綺羅星は呆れて僕を見てくるが、そこに結香がひょこりと頭を出してくる。

 

「七芽くん最近色々と忙しかったらしいからさ、出来るだけリラックス出来る場所にしてあげたかったの。それに刹那ちゃんだって、私と七芽くんのラブラブ関係が気になるってことなら、別に何処でも大丈夫なんだよね?」

「まぁ、そうだけど……」

「それに七芽くん、ものすごく一杯ゲーム持ってるんだよ! だからみんなで一緒にやろうよ、ねぇ?」

「ま、まぁ、結香が満足ならそれでいいわよ……?」


 綺羅星さん、マジチョロいっすわぁ。

 え、なに? 結香に言われればなんでも『はいはい』言っちゃうんですかねぇ? 痛ったぁ!?


「なにローキック噛ましてきてるんだこら!?」

「今むかつくこと考えてたでしょ? その間抜け面に出てたわよ」


 なんて鋭いやつだ……まさか字の文の思考まで読んでくるとは……。

 とっとと要件を済ませてもらって、お帰り願うとしよう。


 僕は二人を家に入れると、部屋の奥から、膝下くらいの大きさの黒い物体が目の前のリビングの扉から飛び出し、真っ先に綺羅星の方向に走ってきた。


 クゥ~ン! クゥン!


「うわっ!? な、なんなのよこの犬は……!?」


 そう、綺羅星に飛びかかって来たのは、一匹の黒い柴犬だった。


「あぁ、母さんケルベロスの家の鍵、閉め忘れたな……」

「え? もしかしてこの子、『路地裏のケルベロス』なの?」 

「ああ、大分前に家で引き取ったんだよ」


 その昔、この犬は『路地裏のケルベロス』と呼ばれる捨て犬であり、そこそこに有名なトラウマの一つだった。

 訳あって家で引き取ることとなり、今では我が家の番犬(?)として住んでいる。

 名前も、過去の二つ名から取ったものである。


「そうなんだぁ~。突然いなくなったと思ったら七芽くん家にいたんだね。久しぶりぃ~ケルベロスぅ~、大きくなったねぇ~♪」

「ゆ、結香! お願いだからこの子をどうにかして!」

「あれ? 刹那ちゃん犬苦手なの?」

「そうよ! だからお願いよ!」


 ほほう、面白いことを聞いたぞ? 今度なにかの時に利用するとしよ痛ったぁ!?


「何変なこと考えてるのよ! この変態!」

「パンチをかますな! 痛い! 地味に痛い!」


 僕は綺羅星パンチを回避すべく、仕方なくケルベロスを持ち上げて綺羅星から離す。

 すると彼女はものすごい勢いで二階まで駆け上がっていった。


「それじゃあ七芽くん、二階で待ってるから」

「ああ、にしてもあいつにも弱点とかあるんだな。当たり前の話だけど……」


 カリスマモデルの意外な弱点を目撃し、僕は情けなくぶら下がるケルベロスをリビングに戻し、お茶やお菓子を持って自分の部屋に向かうため、階段を上がる。


 部屋の扉を開けると、不満そうな顔をして体育座りした綺羅星と、テレビの下にあるゲームカセットを見ている結香がいた。


「あ、七芽くん、お邪魔してま~す♡」


 にしても驚きである。

 僕の部屋に星5SSR美少女が二人もいる。しかも今は二人とも制服姿だ。今の時期にしか見れない、なんとレアな光景か。

 前に一度結香が家に来たことはあったが、あの時は私服(厳密に言えば仕事着)だったし、なんとも新鮮な気分である。


「何突っ立てるのよ、あんた。早く座りなさいよ、落ち着かないでしょうが」


 おっと、また綺羅星に思考を読まれる前に大人しく指示に従うことにしよう。


「はい、お茶と、お菓子な。適当につまんでくれ」

「あ、そうだ! お菓子と言えば私、二人に食べてもらいたくてクッキー作ってきたんだぁ~♡」


 え? マジすか?

 結香は通学用に担いでいたリュックサックの中から、可愛らしい袋に入れられたクッキーを取り出し、中央のミニ机の上に広げた。

 クッキーはハートマークと星マークの二種類があり、そのどちらもちゃんと出来ていて、売っていてもおかしくない見た目をしていた。

 なんともベタなものを……。だがベタではあるのだが、


「すごいな、結香」


 と僕は素直な感想を口にする。


 実際にクッキーを作るとなると、それはとても難しい。

 特にお菓子作り全般に言えることだが、料理とは違い、お菓子作りにはどこまでも正確さが求められる。その領域は科学に近い。

 少しでも分量を間違えれば失敗し、そして尚且つそれなりの時間と労力が掛かる。

 そんな物を平然と作ってきた結香に、今更驚きつつ、僕と刹那はそのクッキーを口にした。

 その、気になるお味は……、


「美味い」

「本当、美味しいわね……」


 美味しい。めちゃ美味い。美味しすぎてついつい手が出てしまう……。

 綺羅星も同じ感想のようであり、僕らはついついそのクッキーに手を伸ばしてしまう。

 あ! 今一瞬、結香のしたり顔が見えた!

 くそぉ……悔しい! だが手が止まらない。やめられないとまらない……!


 結局、僕と綺羅星は物の数十秒でクッキーを完食。結香はそれを満足そうに見ていた。


「よかったぁ、二人に喜んでもらえて♡ また今度作ってくるねぇ♡」

「さ、さてゲームでもするか……」

「そ、そうね……」


 恥ずかしさにいたたまれなくなった僕と綺羅星は結香から顔を逸らして、ゲームを始めることにした。


「でも何にするかなぁ……三人でやるとしたらボードゲーム系とかがいいだろうけど、そんなの僕持ってないしな」


 なんせ友達がいないため、持っていても仕方ないのである。

 首を捻り困る僕に、結香があるソフトを出してきた。

 

「それならこれやろうよ! 七芽くん!」


 結香が手にしていたんは、今でもシリーズが続く人気アクションゲームタイトルの一作目だ。

 それって確か……、


「昔、結香とやったやつか」


「そうだよ! 私と七芽くんが始めて会った時にしたゲーム!」


 僕と結香は昔、一度だけ遊んだ経験があり、その時にやったのがさっき上げたソフトなのである。

 懐かしい話だ――と言っても、僕は結香と再会するまで忘れてたけど。


 結香はそれを大事そうに両手で持ち、目を輝かせながら眺めている。  


「ねぇ! 七芽くんこれやろう! ねぇ!」


 確かに僕もそのタイトルは好きだし、ルールも相手を外に弾きだすだけだから賛成ではあるのだが……。


「流石に一作目は古すぎるから、同じシリーズの最新作の方にしようぜ。そっちの方が初心者でもやりやすいだろうし、キャラも多いからさ」

「そうなんだ……ちょっと残念だけどしょうがないね……。刹那ちゃんもそれでいい?」

「私はよく分からないからなんでもいいわよ。勝手に決めて頂戴」

「よし、なら今繋ぐから待ってろ」


 端子を入れ替えてから、僕はコントローラーを接続して二人に渡した。

 僕はその間に対戦モードに入って、キャラクター選択画面まで進める。


「最初は手始めに結香と綺羅星のチームでやればいいじゃないか?」

「そうだね。七芽くんゲーム上手だしね」

「これ、どのキャラクター使えばいいの……?」

「こいつなんか、火力も動きも速いからオススメだぞ」

「あっ、七芽くん私のも選んで選んで!」


 結香と刹那のキャラクターが決まり、僕は三番目に使い手のキャラクターを選び、対戦は始まった。


 時間は無制限。相手を特定の回数吹き飛ばせばいいルールに設定したため、まず二人には操作に慣れるところから始めることにした。

 結香も綺羅星も、色んなボタンを押して、技やジャンプをしたりして確認している。


「これが攻撃? パンチがこれで、ジャンプと」

「慣れない内は攻撃しないから、気楽に練習すればいい――」

「あ、ビーム出た」


 バン!

 綺羅星のキャラクターが打ったビームが、僕のキャラクターに直撃して吹き飛んだ。

 僕は即座に二段ジャンプを決めて、フィールドへと戻る。


「おい僕に当てるなよ」

「仕方ないでしょ。出ちゃったんだから。よっ」


 バン!


「お? お前、今わざと当てたな? おい」

「さぁて、どうかしらね?」


 口元に手を当てて、意地悪そうに笑う綺羅星を見て僕は決めた――こいつ絶対泣かすと。

 そうと心の中で思った時、スデに行動は終わっていた。


 僕は綺羅星のキャラを徹底的にボコボコにし、フィールドの外に叩き出して勝利した。

 その時の綺羅星の悔しそうな顔と言ったら……最高だったよぉ……っ!


「あ、あんた……! 慣れてない内は手を出さないって言ったじゃないの……!?」

「あれ? まだ慣れてなかったのか? あんまりにも僕に攻撃してくるから、てっきりサンドバックになりたいのかと思ったよ」

「あんた……絶対にぶっ飛ばしてやる……っ!」

「おおこいよ、返り討ちにしてやるからよぉ……ッ!」

「二人とも仲がいいね♡」

「「どこがだ(よ)!」」


 その後の勝負も僕の優勢で終わり、綺羅星は何度も何度も挑戦してきては僕に負けていた。

 ははは! 今日中に始めた素人に僕が負ける訳がないだろうが!

 

 などと余裕をかましていた僕だが、第三ラウンドである変化が訪れた。

 僕のキャラクターが初めて、フィールドの外に吹き飛ばされたのだ。

 その時はたった一回だけだったので、その後は僕が押し切り、はじき出した回数の多さで僕が勝った。


 たまたまか? いや動きに無駄が無くなってきてる。

 なんだ? いくら何でも強くなるのが早すぎやしないか?


 疑問は確信に変わっていった。

 綺羅星は、二回、三回と僕を吹き飛ばす回数を増やしてき、なんと十回目の対戦ではとうとう僕に勝ってしまったのである。


「ば……バカな……今日始めた初心者に、僕がたった十回目で負けただと……!?」

「あれぇ? さっきまでの威勢のいい態度は何処へ行ったのぉ? まさかこれがあんたの実力なわけぇ? それなら、すごくウケるんですけどぉ!」

「この野郎っ!? もう一回だ、もう一回! 次こそボコボコにして二度とそんな減らず口が叩けない身体にしてやるッ!!」

「出来るものならやってみたらぁ? サンドバックにしてあげるから……!」


 言ったな! この野郎! 上等だ! 作品一のチートキャラで、お前をコテンパンにのしてやるよォッ!!




 と息巻いた僕だったが、結局その後も綺羅星にコテンパンにされて完全敗北。

 作品随一のチートキャラクターを使っても、綺羅星のキャラクターを外にはじき出す事も出来なかった。


「なんでだ……どうして……ちょっと前まで初心者だったじゃないか……」

「これに懲りたら、私には逆らわないことね」

「くぅ! こいつ……!?」


 などと言っても、別に飛びかかったりはしない。

 膝を抱えて蹲り、綺羅星を睨むだけだ。じぃー……。


「ちょっとそのキモい目つきやめなさいよ……」


 じぃー……。


「やめろって言ってるでしょうが!」


 げふっ!? 顔面を蹴られた。綺羅星の履いたストキングの感触がダイレクトに目元に伝わってくる。

 助けて結香。怖いカリスマギャルが僕をいじめてくるよ。

 そう助けを求めようとするも、結香は席を立った。


「七芽くん、ちょっとお手洗い借りるね」

 

 そう言い残し、結香は扉を閉めて、そのあと階段を降りる音が聞こえた。

 どうして僕がピンチになったときみんなしていなくなるのだろうか? これはあれか? 意図的にやってるのか?


 まあいいや。丁度二人っきりにもなれたし、気になってたアレでも聞いてみることにするか。

 僕は身体を起こしてから、綺羅星に顔を向けた。

 そう不機嫌そうな顔しなくてもいいだろうが……。 


「な、なによ……ま、まさか直接仕返ししようとか考えてるんじゃないでしょうね……!」

「違ぇーよ。てか直接な仕返しをしてきてるのはお前だろうが」

「どうかしら……いまいち信用できないんだけど……」


 なんて失礼なやつだ。だが話が進まないので流すとしよう。


「一つ質問したいだけだよ。なんで今更、僕らの関係を確認したいだなんて言い出したんだ?」

「言ったでしょ、あんたが結香を大切にしてるかどうかを確認するためって――」

「誤魔化すなよ。僕らはバカップルと噂されているほどに関係が知れ渡ってるんだろ? ならわざわざ確認する必要もないだろうが。本当の目的はなんだ。教えろよ」

「んっ……それは……教えない……」

「それはもしかして、結香とのぎこちなさが関係してるのか?」

「……どういう意味よ、それ」

「ある程度のゲーマーはプレイを見ただけで人間関係だったり、その人間の感情が分かったりするものなんだよ」


 将棋の棋士が盤面を見ただけで、指した人間の感情や思いが分かるのと同じだ。

 チームを組ませていたこともあり、綺羅星と結香の関係が何となくだが僕には見えた。


 決して仲は悪くないが、互いが互いに踏み込めない。そんな距離感を二人から感じていた。

 近くにいるのに、遠くにいる。まるでお互い遠くから電話越しで話しているような、その違和感を僕はゲームを通して感じ取っていた。

 そうだから負けたんだ。気が散っていたんだよ!


「僕はてっきり綺羅星は結香とすごい仲良しこよしだと思っていた。でも実際に二人の関係を間近で見ると、何となくそうじゃないような感じがしたんだよ。どこか見えない壁を感じたんだ。綺羅星の本当の目的っていうのは、そこなんじゃないか?」

「キッモ、なによその能力…………でも正解よ、ったく!」


 綺羅星は思いっきり顔を顰めて、そして諦めたかのように言葉を吐き出した。


「私があんたと結香の関係を確認したいって言ったのは本当よ。でもそれは――あんたたちの繋がりの秘密を調べるため」

「繋がりの秘密? どういう意味だ、そりゃ?」

「信頼関係、とでも言った方が分かりやすいかもね。あんたは結香とも、かふぇモカ先生とも深く繋がってる。その秘密を、私は知りたかったのよ……」

「ますます意味が分からん」

「でしょうね……。はぁ、ったく、なんで私あんたにこんなこと話しちゃったのかしら、バカみたいね……忘れて頂戴」

「おい、勝手に一人で締めくくるなよ。気になるだろうが」

「うるさいわね! ここは! 大人しく! 引き下がりなさいよっ!」

「痛った!? おいそんな蹴り噛ましてくるなよ!? 暴力系ヒロインは嫌われるんだぞ!!」

「知らないわよそんなこと!」


 あふあふッ! 助けて! 助けて結香! あ、でもストッキングの感覚いいかも痛っ!?


「ただいまぁ~! ってどうしたの!?」


 綺羅星の連打キックに大ピンチなところでようやく結香が帰ってきて、驚きの声を上げた。

助かった! 結香早くこの暴力の課金をしてくるカリスマモデルを止めてくれ! 


「こいつ、私にセクハラしてきたのよ」

「はぁ!? なにデタラメ言ってるんだお前!? へぶっ!?」

「嫌がることしてきたからそれは全部セクハラなのよ」

「セクハラのハードル低すぎるだろうが!? 小学生でも飛び越えられるぞ!」

「ナナメクン、ホントウナノ?」

「あっ!?」


 その後、結香を説得するのには、三十分ほど時間を要した。

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