改名街道
南富山駅前の通りを歩くとその少女に博美は声を「ここなの。」と言った。そして、玄関で靴を脱いで広間に三人で入ると真っ先に、「富山へようこそ。これから親父になる高岡昭和だ。なにか困ったことがあれば相談に乗ってほしい。勤めてるのはJR西日本で、貴女が今乗ってきたはくたか号もそうだし、関西や中国、北陸三県の輸送を背負う会社だ。半年後には北陸新幹線が金沢まで伸びてくるからたのしみにしてほしい。」
続いて博美が「新しく母親になった博美です。富山で暮らしててよくわからない、と思ったことがあれば何でも聞いて。富山地方鉄道という、富山県の東半分の地域の鉄道、バスを担当しているの。」
という感じで自らを紹介し、その可憐な少女のことを一通り尋ねた。最後に、自らの名である姫冠が気に入っているかどうか聞き出した。勿論のことながら、彼女が気に入っているというわけはない。昭和が漢和辞典をおもむろに引き出して夫婦の会話が始まる。
「彼女は、生まれてきたときからずっと権利を喪失した親に虐げられていたんだから、今度は『恵』まれて欲しいと思う。」
「その恵みを『磨』いて、さらに改善して社会に還元できる人になって欲しいね。」
「今の話で、恵、磨、善、と言った文字が浮き上がったけど、どうやって組み合わせて、どう読ませようか。」
「恵を磨く、ということでえま、ってのはどうだろう。」
「俺の会社の上司の娘と一緒だな。字こそ違うけど。」
「私の会社の上司にも居る。」
「ということで、恵磨ということにしよう。」
この後、彼女に了承を取って、正式に改名の申し立ての書類を出した。二日後には認めがあり、正式に名乗れるようになった。市役所に出す書類から、男子用ではなく女子用のスクール水着まで、「高岡 恵磨」と記名した。その一筆一筆があたかも石碑のレリーフに揮毫するかのような重厚さを実感させた。
恵磨は、暴力を振るわれることなどない、と知って、またやっと良好な名前を名乗れるとだけあって、安堵の表情を浮かべた。そして、男子用の水着を着せられて、男子にからかわれることもないと知って思いっきり飛び上がった。
この昭和と博美が議論して決めた名前には、古いゲルマン語で、「全てのもの」と云った意味があるそうです。




