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姦~妖華絢爛~  作者: 乙丑
第八話・一目連
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「あれ? 白蔵主?」

 小料理屋[八重楽生礼]へと訪れた葉月たち大宮班のメンバーは、それこそ先に店にいた秋玲と、純の姿があったことに驚きを隠せないでいた。

「こ、こんばんわ」

「もしかしてデート?」

「そ、そうなんでしょうか? でも私デートできるほどのことしてませんし」

 あたふたと恥ずかしそうに言葉を紡いでいる秋玲を見ながら、

「それより、純さん――そろそろお話をしてくださっても」

 と、秋玲は目の前で出されている食事に箸を進めていた純を見据えた。


「そうだね。大宮警部補はたしか車で来られているでしょうし、オレも今日は車なんでね。すみませんオレと大宮警部補には軽めのチューハイで」

「運転手の方にはアルコール禁止です。たった3%であろうとアルコールに変わりはないのですから禁止ですよ」

 注文を受けた希望は冷笑した対応をする。

 運転手にアルコールを提供することが禁止されており、訴えられる場合があるからだ。

「わかりました。大宮警部補たちもこちらでご一緒されませんか?」

「でも、せっかくのデートですし、お邪魔じゃないですかね」

 葉月は秋玲と純を交互に見やる。

「それが……今日ここに来たのはどうも葉月さんたちに用事があってらしいんですよ」

 秋玲にそう言われ、忠治と葉月は純を凝視した。


「実はオレの組の若い奴が先日警察にお世話になりましてね」

「組頭としてケジメをつけるということでしょうか?」

「いえいえ、実はその野郎に問い詰めたところ、あることがわかったんです」

「わかったこと?」

「そいつが言うには、どうも大学生の女性に薬を売ったようでして」

「薬ですか?」

「もちろんそれに対してオレを捕まえるのでしたら、どうぞお構いなくここで捕まえても構いません」

 そう言いながら、純は両手を忠治の眼前につきだした。

「いやいや、こんなに堂々とされていてはね。もちろん証拠があれば捕まえなければいけませんけど」

 忠治は純の手をゆっくりと押し返す。

「というか、恋人の前でそういう啖呵を切らない方がいいですよ」

 葉月にそう言われ、純は秋玲の方を見やる。

 その秋玲は、それこそ今にも泣きそうな程に顔色を(あお)くしていた。


「白蔵主は温厚な子ですからね。知っている人が傷付くというのを見ていられないくらいですから」

「ご、ごめん……キミの前ですることではなかったか」

「い、いえ……部下を思ってのことでしょうし。でもそれなら別に忠治さんたちに言わなくても」

「いや――大宮警部補のような、瑠璃さんの知り合いでなければ信用できないと思ったんだ。あなたたちは目先の欲望に飲まれるようなことはないと思いましたからね」

「結構な僻耳(ひがみみ)だと思いますけど」

 飯塚がそう返事をした時、自分に対して一点から視線を感じ、そちらへと見やった。


「えっと、秋玲さんでしたっけ? どうかしましたか?」

 そう聞き返され、秋玲は、

「どこかでお会いしませんでした? たしか聖子ちゃんがちいさい時に」

 とたずねた。

「白蔵主、彼女は飯塚カスミ巡査長と言って、聖子ちゃんがちいさい時だと最低でも四歳くらいになるよ」

 葉月が苦笑を見せる。

「そうですね。おそらく知り合いの誰かと似ていて勘違いされたんでしょう」

 飯塚はそう言いながら、視線を秋玲に向ける。

「……っ?」

 一瞬のぞかせた人とは違う飯塚の虹彩に、秋玲は違和感を覚えた。


「それで差し支えなければ薬を買ったという大学生のお名前はわかりますか?」

 出され始めた小鉢に箸を進めながら、忠治は純に問いかけた。

「それより、こうやって当たり前のように話されてますけど、純さんは指定暴力団である榊原組の組長ですよね?」

「そうですが?」

「よろしいのですか? こうやって警察に仲間を売るようなことをして」

「売る……ですか。たしかにそうかもしれません」

 純は箸を置き、姿勢を正すや、

「仲間や部下を売るというのは、自分に害するものを駆除する行為なのだとオレは思っています。部下が不正をしたのならばそれを正してあげることが上司の、いえ杯を交わした義兄弟のすべきことでもあるとオレは考えてますので」

 と、飯塚の問いかけに応えた。

「お父上の意思ですか」

「えぇ……たとえ間違ったことをしていても、人道を見失ってはいけませんからね」

 忠治の目を真っ直ぐに見据え、純はそう応えた。


「それより純さん、先ほど言っていた大学生のことですけど」

「あぁそうでした。うちの組員に斎藤英雄(さいとうひでお)という二四の若いやつがいるんですが、そいつが言うには、筒井実緒(、、、、)という大学生に薬を売買したと言っているんです。ちょうど昨日(さくじつ)に知ったことですが」

 純の言動を耳にするや、その場にいた秋玲以外の、大宮班の面々が、それこそ凝をつかれていた。


「あの純さん、そのことですが詳しく聞かせてくれませんか?」

 葉月の声色は完全に刑事のそれであった。

 目の前に犯人を特定するナニかがある。それこそ藁とも言える心許ないものであったが、掴まないよりはマシだという言動である。

「やはり大宮さんたちにお話して正解でした。斎藤がその筒井実緒に薬を売り始めていたのは今から半年くらい前からで、連絡が途切れたのが一ヶ月前だったんです」

「ちょ、ちょっと待ってください? 一ヶ月前から音信不通ってことは」

「いちおうお訊ねしますが、榊原さん……その斎藤さんが筒井さんと最後に会ったのは?」

「一ヶ月前とお答えしたほうがよろしいでしょうか?」

「本当ならそれが一番なんですけど、おそらくそうではないのでしょ?」

「ええ、ただこちらの期待を裏切ることかと思いまして」

 忠治は純を見据える。

「今から一ヶ月前でしたら、斎藤はオレと熊野の方で小旅行に出ていますし、写真も残しています。レシートもあれば温泉での証言もありますから調べてください」

「そこまでされてはね。そうですか」

 忠治は部下三人を一瞥する。

「あの、どうかしたんですか?」

 秋玲がただならぬ忠治たちの表情を不安気な表情で見据える。


「実はこちらに来る前、鮎川燈愛という女性から事務所に殺害予告が送られてきたという連絡があったんです」

「鮎川燈愛といえば、五年前に人気絶頂とは言わずとも一大決心をして今まで所属していた事務所をやめて芸能事務所を企業したという」

「葉月さんが昔からのファンであって、知り合いでしたよね?」

 自分が言い出したとはいえ、知り合いという言葉に、葉月は耳まで赤くしていた。

「その事務所に所属しているアイドルグループのメンバーに対して、筒井実緒さんのファンアカウントを介して殺害予告があったんです」

「ただ、それを送ったとされる筒井実緒はメールが送られた一週間前……六月二九日に亡くなっているそうなんですよ」

 忠治はそう純に教える。

「つまり大宮さんたちは斎藤がその大学生を殺したのではないかと思ってらっしゃると」

「その可能性は低いですけどね」

 葉月の言葉に、秋玲は怪訝な表情を見せた。


「あの、どういうことですか? もしかしたらその筒井実緒という女性が口を滑らせないかと思った斎藤という人が殺したという可能性だってあるかもしれないのに?」

「疑わしいという意味ではそれで合っているけど、まず薬の売人がもっとも恐れているのはなんだと思う?」

「っ? 身元がバレることですか?」

「それもあるけど、そのルートが曝されることだね。それに薬は一度でもやってしまえば、それこそ獣の罠のようにあがけばあがくほど食い込むだろうから、本人はヤメようと思っても、その苦痛と渇望は一生ついていくんだよ。それこそ死ぬまで骨の髄まで食われるのよ」

 そう話す葉月の寂しげな表情に、秋玲のみならず、純も彼女の心境を悔やんだ。


「いつの時代も甘い水を吸いたくなるものかもしれませんね」

「その点純さんのところは……」

「白蔵主、さっき純さんが言っていたこともう忘れたの? 彼の組員がその筒井実緒さんに薬を売ったことが事の始まりなんだけど?」

 普段ならば笑って済ませられるが、葉月は警官として険しい口調で言い放った。

 本人は自覚がないとはいえ、いくら自分が好意を寄せている相手であったとしても、事件が起きている以上、そのような甘いことは許されない。

「うぅ、それはそうですけど……でもそれならなんで鮎川燈愛さんのところに殺害予告が来たんですか? いくらファンだとしても亡くなったのはメールが送られた一週間前ですよね?」

「いちおうそれに関してはすでにむこうで解決しているみたいなんだけど、やっぱり死んだ人からメールが届いているということだろうね」

「こっちに来る時にもう一度燈愛さんに確認を取ったのだけど、殺害予告があったのは先日のライブでだったみたいで、それについては杞憂だったみたいだし、事務所内では気味悪がる人もいれば、ただの悪戯だっていう人もいるみたいだよ」

 葉月はそう言いながら、飯塚を見据えた。

 その飯塚は先程からスマホをいじっていたのである。


「なにか気になる記事でもありましたか?」

 声をかけられ、飯塚は葉月を見据えた。

「いいえ、その殺害予告に記されていたライブのことなんだけど、それだけの事があったということが記事になっていないのがどうもね」

「たしかに、メンバーの一人が薬をやっていたという噂は予予(かねがね)聞いてはいたが、殺害予告に関しては今日はじめて聞いたことだったからね」

「恐喝は部所が違うから、僕たちが知らなかったと言われてしまえばそれまでだけどね」

 飯塚、岡崎、忠治の順番に言葉を交わしていく中、

「あの、純さん……? その斎藤英雄という組員に薬を売買した人物については聞いてらっしゃるんですよね?」

 と、葉月が純にそうたずねた。

「ええ。ただまだ隠しているところもあるみたいですけど」

「……その中に荒木薫という男性の名は出ませんでしたか?」

 そう訊かれ、純は頭を振るった。

「でも殺害予告の標的(ターゲット)がその荒木薫っていうのも不思議なものですね」

「たしかにそうだけど、その殺害予告と薬の共通点はまだ見えないけどね」

 いちおう頭の隅に入れておこう。

 忠治はそう皆に言った。



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