捌
時間は七月十五日、十八時……拓蔵の十年祭が終わろうとしていた頃だった。
「これでひとまずは落ち着けるわね」
弔問客を見送っていた瑠璃に、稲妻神社の主祭神である宇迦之御魂神……荼吉尼天が声をかけた。
「えぇ、後は十年ごとにですからね。正直誰が後を引き継いでくれるのかですけど」
瑠璃は振り向いた時だった。
「あ、あの……」
一人の青年が瑠璃に声をかけた。
「こ、こちらは黒川拓蔵さんの家でしょうか」
「えぇそうですよ。もしやあなたは生前拓蔵に会ったことが?」
瑠璃は青年の声を聞き、自分の心を落ち着かせる。
大切な夫を、この青年は殺めた。
だがその夫はそれを赦そうとした。
ならば自分も彼を赦そう。
殺された人間がそれを赦しているのならば、自分もそれを認めるしかないのだ。
大切な人の、罪を赦すという最後の言葉を聞かなければ、彼女は目の前の青年を憎んでいただろうから――。
「それではこちらの名簿にあるあなたの名前に記してください」
瑠璃は机の上に置かれている弔問客の名簿を開き、青年の名前が記されたページを開く。
「……ど、どうして? どうしてオレの名前が?」
名簿に記された自分の名前を見つめながら、青年――道命寺敬真は青褪めた表情で瑠璃を見つめた。
「私はあなたが誤って殺してしまった黒川拓蔵の妻です。事件当時あなたは八歳の子供だった。突然強盗事件に巻き込まれ、さらに怪我を負わされた。拓蔵が強盗犯の手から蹴り上げた拳銃を、混乱状態になっていたあなたがそれを拾い上げ、危険な状態だった」
瑠璃は淡々と言い放つ。道命寺はその時のことを思い出しながらちいさく震えながらもうなずいていく。
「それなら、オレのことを恨んでいるんじゃ? だってオレは子供の時だったとはいえ、人を……あなたの旦那さんを殺したんですよ?」
「恨まれたほうが楽でしたか?」
瑠璃は冷たい言葉で道明寺の心を穿つ。
「正直な気持ちを言いますとね、この十年ずっとあなたを無理矢理にでも御霊舎の前にひれ伏せさせて、殺された拓蔵の霊璽に何百、何千回も謝罪してもらったとしても、私自身の気持ちが救われるのかと思ったのです。でも……それができませんでした。もしそんなことをしたとすれば、すでにあなたを赦している夫の気持ちを裏切ると思ったんです。だから私もあなたを赦すことにしました」
瑠璃はジッと道明寺を見つめる。
その目は夫を殺した敵を蔑んだくすんだ虹彩というよりは、賽の河原で獄卒に甚振られている子供の霊を助け、落ち着かせようとする暖かい地蔵菩薩の虹彩であった。
「ひとつお聞きしますが、あなたは焼香をしたことは?」
「えっ……と、一度だけ親戚の伯父さんが事故で亡くなった時に」
「そうですか。ですがうちは神道ですからすこし勝手が違うんですよ」
瑠璃は道明寺の手をスッと取った。
その時、道明寺の手が震えていることに気付いた瑠璃は、
「弔問をする前に一度深呼吸をしましょうか。それこそ拓蔵にからかわれてしまいますよ」
暖かくそう言い放った。
拓蔵の霊璽が置かれた拝殿の中には、黒川家の人間以外に、希望とその双子の娘たち、信乃と浜路の姿があり、そのほかには稲妻神社に祀られている荼枳尼天と摩李、十二神将、高山の姿があった。
皆、拝殿に入ってきた瑠璃と道明寺に視線を向ける。
「仏教で言う焼香は、神道でいう『玉串奉奠』がそれにあたります。日本はほとんどが仏教ですが、葬儀は信教によって異なりますから、今後のことも考えて覚えておいて損はないと思いますよ」
瑠璃は視線を秋玲に向けるや、秋玲はスッと立ち上がり、玉串を瑠璃に渡した。
「それじゃぁ私が手本を見せようかな。そんなに難しいことでもないから」
摩李がそう言って前に出た。
摩李はまず神職である瑠璃と皐月たち遺族に一礼すると、玉串を瑠璃から両手で受け取る。
その時、右手で茎を持ち、左手で葉を支えるように持つ。
自分のほうへと引き寄せる時は、葉を支えている左手をすこし叩くなるように持った。
玉串の根本が向こう側……御霊舎のほうへとなるように時計回りに持ち替えながら回していく。
「この時、亡くなった人になにを伝えたいのかを心の中で哀悼するの。手前でもう一回一礼をして、玉串をお供えするんだよ」
玉串を供えると、摩李は姿勢をただし、御霊舎に向かって、二拝・二拍手・一拝した。
「二拍手の時は音を鳴らさないようにね」
道明寺に向かってちいさく笑みを見せた。
道明寺は教えてもらったとおりに玉串を備えようとした時だった。
「……ごめんなさい。ずっと逃げていて……来ようと思っていたんです。でも家族の人たちがオレを憎んでいるんじゃないかと思って怖くて……――ごめんなさい、おそくなってごめんなさい」
それは懺悔であった。
十年間ためにためた罪の意識が、道明寺をここまで苦しめていた。
だが、誰一人として彼を責めようとはしなかった。
それは彼を赦している拓蔵を裏切ることだと、瑠璃だけでなく皆わかっていたからであった。
「たとえ相手が手の付けられない悪鬼であったとしても、そんなのどこ吹く風みたいに助けようとしていた誰かさんと一緒で、拓蔵も彼がいつか自分を訪ねに来てくれることを信じていたのかしらね」
荼吉尼天は自分の近くへと戻ってきた摩李を見据える。
その視線に気付きながらも、摩李はジッと泣き崩れている道明寺を暖かく宥めている瑠璃をジッと見つめていた。
「でも一番ホッとしたのは瑠璃だったんじゃ――」
「よしっ! そこの少年、あんた酒はいける口かしら」
シンミリとした空気はどこへやら、十二神将の一人である宮毘羅の一言でその空気は振り払われてしまった。
「えっ? オレまだ未成年なんですけど」
自分よりも幼い見た目である宮毘羅に訊かれた道明寺は唖然とした表情を見せる。
「それよりオレはみなさんの大切な――」
「だぁもうしつこいっ! 謝罪っていうのは何回もごめんなさいごめんなさいって言えばいいんじゃなくて、謝罪するその態度で決まるんだから。何回も言ってると信憑性なんて溝に捨てられるわよ」
道明寺の頭を叩くように、毘羯羅は言い放った。
「そもそも爺様はもう年齢的にもいつ死んでもおかしくなかったんだから。それに爺様はあなたを赦しているから私たちはあなたを責めようなんて思ってない。大体そんなことを気にしていたら神経がいくつあっても生きていけないよ。大事なのはその人の分まで真剣に自分の命を費やすことだから」
葉月はコップを手に取り、それにオレンジジュースを注ぎ込んだ。
「いや葉月っ! そこは日本酒でしょ?」
ギョッとした表情で宮毘羅が言い放つ。
「あのねぇ、私いちおうはもと少年事件課の刑事だからね? 目の前で未成年が飲酒したら補導しないといけないんだよ」
言い寄る宮毘羅に対して、葉月はやんわりと言い返した。
「っていっても拓蔵は十五くらいのころから呑んでたけどね」
荼枳尼天の言葉に、道明寺と弥奈と和佳以外の、それこそ拓蔵を知るモノたちは納得した表情を浮かべる。
「爺様だったらありえるかもねぇ」
「あ、あの……普通こういうのってしんみりしているのが」
周りがまったくといっていいほど淑やかでないことを、道明寺は感じ取るやそうたずねた。
「あ、そういうのは仏教とかキリスト教くらいだから。神道は祀られた神さまが楽しめれば、それこそ一緒に会食……ほら、ここにきた以上は誰であろうと、飲めや食えやの大宴会よ!」
毘羯羅は手に持ったコップを掲げるや、
「それじゃぁ、改めて黒川拓蔵翁の十年祭を祝って、カンパーイッ!」
と音頭を取った。
「カンパーイッ!」
カチンと賑やかなグラスの軽く打つかる音が拝殿に響き渡った。
「道明寺先輩」
「あれ、雅じゃないか? どうしてここに?」
突然声をかけられ、道明寺は怪訝な表情で雅を見据えた。
「ちょっと手伝いで。ところで先輩はどうしてここに?」
「いや、実はさ……昨夜オレのアパートに小中学生くらいの女の子が突然来たんだよ。十年前オレがやったことを全部言い当ててさ。オレはどうしてそんなことを知ってるんだって聞いたら、『私もあなたと同じで人を殺したことがある。私は赦してもらえないだろうけど、あなたはまだ間に合うって』って言われたんだ。それで今日法事だって聞いて……もし今日を逃したら十年、五十年先になって、次第に罪の意識が薄れてどうでも良くなってしまうからって」
それを聞くや、瑠璃は道明寺の前に現れた少女が誰だったのか察した。
たしかに彼女がしたことは赦されないことだろう。
自分を守るためとはいえ、両親を殺め、結局は自分の命さえも捨ててしまったのだから。
だが道明寺はまだ暗闇の中を照らしてくれる光がある。
死んだあとに自分の行いを悔やんだ少女と違い、彼はまだちいさな光が道標となっているのだから。
「たしかに神道の法事は十年祭を過ぎると十年ごとに祭事を執り行ない、五十年祭をもって『まつりあげ』をしますからね。もちろん十年後もこうやって集まれたらと思いますけど、まぁ難しいというのが現状でしょうね」
瑠璃が食事を盛ったお皿を手に持ち、それを道明寺に渡す。
「あ、ありがとうございます」
「そんなに畏まらなくても大丈夫よ。そもそも本当に私たちがあんたのことを憎んでいたとしたら、こんな賑やかな空気になるわけがないんだし、まぁあんたが罪の意識もなんもなく、暢気に生きていたとしたら、ここらへんの神仏妖怪に殺されていただろうけど」
毘羯羅は手に持ったお神酒を一口で飲み干し、
「拓蔵に対して罪の意識を持っていたことは私たちも知っていたから。今日はあなた自身の足で来てくれたことが一番嬉しいのよ」
そう言いながら道明寺の背中を叩く。
「そもそもこういう直会というのは御霊の好きなモノを一緒に食べることに意味があるしね」
荼吉尼天は酒を飲み交わしている宮毘羅たちを見据える。
「もしその人のことを思うのでしたら、その人がどう喜んでくれるのかを察してあげることも直会のひとつだと思いますよ」
瑠璃は拓蔵の写真で顔を隠し、
「『来てくれてありがとう。今日は存分に楽しんでいってくれ』。彼もそう言うと思いますよ」
と拓蔵の声色で言った。
「……っ? 皐月、ちょっと席を外せる? できれば信乃と希望も来てほしいんだけど」
毘羯羅はスッと立ち上がり、食饌の取り分けをしていた皐月たちに声をかける。
「どうかしたの?」
「ちょっとね……」
一瞬険しい表情を見せる毘羯羅を皐月たちは怪訝に思いながらも、彼女の後をついていくことにした。
毘羯羅は稲妻神社の駐車場がある大通り側の鳥居へと皐月たちを連れて行く。
「連れてきたわよ」
鳥居の笠木を見上げながら、毘羯羅はそこに坐っている少女に声をかける。
少女は落ちるように身を乗り出すと、両翼をひろげゆっくりと地面に足をつけた。
「久しいわね、皐月」
そう声をかける少女……黒川栢は皐月たちを見据える。
「『久しぶり栢。もしかして爺様の祭事に来てくれたの?』」
「えぇ、あとで参拝させてもらうわ。ところであなたたち坂本曜生って男は耳にしたことがある?」
そう訊かれ、皐月たちはうなずいてみせた。
「すこし前にあった市長選挙に当選したのがその坂本曜生だけど、それがどうかしたんですか?」
「ここに来る前にちょっとあってね。だけど皐月たちが知らないってことはまだ悪さをしていないってことかしら?」
一人考えこむ栢を、皐月は
「『もしかしてなにか悪いことが起きようとしてる?』」
とたずねた。
「……そういえば湊が生まれてから皐月の声は他の人達には聞こえていなかったのよね? それだったらまだ起きていないといえるし起きているとも言えるわ」
「えっと、それってどういう意味?」
「力が弱まっているとはいえ、あなたたちも警戒だけはしといたほうがいいってこと。それから師匠、おとうとおかあはちゃんと成仏したんですよね?」
不安げな表情で栢は毘羯羅を見据えた。
「したと言えばしたとも言えるし、していないといえばしていないともいえるかしら」
「それってどういう……」
「栢とおりん……朧の父親である黒川浬拌の遺体が発見されたのは朧が殺されたその日の朝だったことは栢は知っているわよね? それを殺したのは栢本人だからね」
事情を知っている皐月たちはただ顔をうつむかせている栢を見据えるだけでなにも言わない。
「閻魔王の浄玻璃鏡でその時のことを見せてもらったから、私がやったということは間違いない……けどその時のことをあまり覚えてないの。村の人がおとうとおかあが殺されたって聞いた時は疑心暗鬼だったし、遺体を見る前に災害が起きて、わたしとおねえちゃんは巻き込まれてしまったから」
「その時の記憶が曖昧ってこと?」
信乃がそうたずねるや、栢はちいさくうなずく。
「空川の手に落ちていた誰かが朧を貶めようとして嘘言した。あの時襲われる危険性があった朧を鳴狗神社の伏魔殿に匿うために荼枳尼天と一緒に行動していたからね。アリバイがない彼女が犯人だと言われても仕方がなかったとしか言えない。それに理解がされやすいなっている今と違って、当時の世相を考えても朧に対しては村の人間は誰一人……あ、いや、別に栢とおりんがそれに含まれているわけじゃないからね。なんだかんだであの子が妖怪以外で人の目を見て話してたのは栢とおりん……腹違いの妹だけだったから」
栢の薄暗い表情を感じ取るや、毘羯羅は慌てて言葉を濁らせた。
「でも、問題は今の人間がどうして黒川浬拌や栢、朧のことを知っていたのか……しかもその坂本曜生はそれを黒川鯉伴本人から聞いているって言ったのよね?」
「はい。それともうひとつ――人間であるにもかかわらず私と同じ空気がする少女が一緒にいました」
「栢さんと一緒って……妖怪に取り憑かれているってこと?」
希望が栢にそう問いかけるや、
「『ノンノ、栢は自分と同じって言ったんだよ? ということは妖怪だって言ってるのと一緒ってことじゃ』」
と皐月が声をかけたが、その声は毘羯羅と栢にしか聞こえておらず、信乃と希望は皐月が口を動かしたとしか見えていなかった。
「人間であるにもかかわらず妖怪と同じ力を持っている……か――栢、もし可能なら人間に化けて、その坂本曜生に近付くことはできないかしら?」
毘羯羅がそう提案する。
「それは少々無理がありますね。私の行動権限は顕仁さまに委ねていますから、あの方の許可が下りない限りは、こちらに手を貸すことができないんです」
栢は皐月たちを申し訳ない表情で見据える。
「言ってみただけよ。それに……その坂本曜生にすこしは教えてあげたほうがいいかしらね?」
皐月たちは毘羯羅の、彼女の本来の姿である破壊神カーリーの化身であるヴィカラーラの悍ましい顔を覗かせた空気に背筋を凍らせる。
「黒川の名を騙る人間もそうだけど、朧を貶したってことは、この福嗣町の神仏と妖怪を敵に回ていると思って相違ないと見て構わないってことになるからね。間違ってましたじゃ済まされないわよ」
事件が起きてから三日ほど経った七月十七日のことであった。
「橘が通院していた病院に聴き込んだところ、雅くんの推理どおりコーヒーと一緒に呑んではいけない胃腸薬の服用をしていたようだ」
大宮班はホワイトボードの前で会議をしていた。
「それから脳挫傷は間違いないけど、毒薬の反応はなかったわ。そうなるとやはり飲み合わせによって意識が朦朧として事故を起こしたと思っていいわね」
月にそう言われ、忠治はすこし考えて、
「それでは和泉さんは偶然巻き込まれたと考えたほうがいいんでしょうか?」
とたずねた。
「彼女に殺意がなければ……だけどね」
月は岡崎の隣にいる飯塚を見据える。毒入りのカップに被害者の唾液がついているにもかかわらず、カップの側面から検出されたのは和泉結愛の指紋しか出なかった。
「和泉結愛さんに事件当時のことをたずねたところ、家に戻ったのは夜の九時になっていたそうで、マンションの管理人がその時間和泉さんが戻っていたという証言もありました」
「岡崎から事件の報告を受けたのもそのあたりだったな」
「被害者の身体から毒素が検出されていないとなれば、本来殺されようとしていたのは和泉結愛さんだったと考えるべきでしょうか?」
葉月はホワイトボードを見ながら、指で橘と和泉を交互に通わせる。
「しかし妙な話ですね。だって彼女の子供が老人を殺したとして、彼女にはなんの非もありませんから」
飯塚はその場を離れ、自分の机に坐った。
「おいっ! まだ会議中だぞ」
岡崎が怒号を飯塚に放つ。
「岡崎、すこしいいか」
忠治は岡崎をなだめながら、彼の意識を自分に向けさせる。
「いいのか大宮、あの態度はさすがに」
「僕もあの態度はいただけない。でも和泉結愛さんの子供が老人……拓蔵さんを殺したことを知っていたのは今まで月さんとアニラさん、波夷羅刑事部長以外はその事件を捜査していた捜査三課以外、この福嗣署にいる警官は誰一人いなかったんだ。僕と葉月ちゃんは今回の事件、和泉結愛さんが関わったことで彼女の過去を知る前に月さんから教えてもらったんだ」
「で、でも……それならどうして彼女がそれを知っているんだ?」
唖然とした表情で岡崎は忠治たちに言い返した。
「それだけじゃないわ。それだってこっちは決定的に秘密裏にしていたことにもかかわらず、拓蔵さんが公安部にいたことも彼女は知っていた」
「どこからそんな話を聞きつけてきたのかはわからないけど、彼女には警戒したほうがいいわね。すくなくとも私達の目があるうちは」
月は、自分の机でネイルの確認をしている飯塚を見つめた。
「それともうひとつ、毘羯羅を通して栢からの報告ですが、和泉結愛を誘い出した坂本曜生の近くに自分と同じ空気がする少女がいたそうです」
「栢って……鴉天狗の?」
栢の名を聞くや、葉月と忠治は目を見開いた。
「いや、それよりも坂本曜生がどうして和泉結愛と接触しているんですか?」
岡崎がそう聞き返した。
「そこはまだ調査中としか言えないわね。栢も先日拓蔵さんの十年祭の参拝をするために、ともに旅をしている崇徳天皇――顕仁の許可をもらってだったらしいから」
「この町で妙なことが起きようとしている……いいえ、すでに起きているみたいなことを言っていたみたい。それと本来、この福嗣町に住んでいる神仏と妖怪以外、それこそ皐月さんと関わりのない人間が知らないはずの朧の名前も出てきていたわ」
葉月は月とアニラを交互に見据える。
その不安げな表情に、
「大丈夫よ。朧の怖さを知っているのは彼女と接して初めてわかるものだから」
とアニラは苦笑を見せた。
「簡単にいえば、拓蔵さんもそうだし、皐月さんも似たようなものだから」
それを聞いて、葉月と忠治はどことなく理解ができた。
「発見されたカップには和泉さんの指紋しか検出されなかったから、彼女が車の中で自殺しようとしていたとすればだけど……カップには被害者の唾液がついていたとなれば、彼女が殺していた可能性も否定出来ない」
忠治がその先を言おうとした時だった。
突然刑事部で電話の音が鳴り響き、飯塚がそれを取った。
「……こちら刑事捜査一課大宮班――はい、わかりました、そのようにお伝えします」
飯塚は一言、二言言葉をかわすと受話器を置いた。
「飯塚刑事、誰からでしたか?」
「交通捜査課の群岡刑事からです。『和泉結愛が亡くなった』とのことです」
それこそ青天の霹靂という言葉がもっとも当てはまっていただろう。飯塚以外の大宮班の表情は目の前のことが信じられないと言った表情を見せていた。
第七話終了。そしてまったくといっていいほど予定なし。




