第9回 論議
尹黙は二人を出迎えて言った。
「さあ、お座りください」
二人は拝礼して、座った。
尹黙が言う。
「それでは、早速、太学改革の論議を行うとしましょう。方向性としては、昨日話した通り、兵学や法学と言った実務的な勉学が出来る環境の構築、と言うことになると思いますが、張裔殿、如何でしょうか」
「その通りだと思います。まず、兵学、法学と一口に言っても、多数の書物、思想が存在します。まずは、どれを基礎として定めるのか、ということを決めるのが肝要かと」
「そうですね。譙周殿は、如何ですか」
「張裔殿のおっしゃる通りだと思います。私が諸子百家の書を避けてきたのは、その雑多な思想、考え方に辟易したというのも理由の一つですので、基礎を定めるのは重要であると思います。そして、それを学生たちに教えることのできる人材の登用も、また必要になるのではないでしょうか」
「確かに、そうですね。現在の博士、助教はあくまで儒学の専門家であり、兵学、法学に精通しているわけではない。師となり得る人材を探して、登用する必要がありますね」
「尹黙殿。基礎として定めるものについての、お考えはお持ちか?」
「はい。まず、兵学に関してはやはり孫子は外せません。それと並び称される呉子も学ぶべきでしょう。あとは、司馬法、尉繚子あたりが実践的なものであると思います」
「法学に関しては、如何かな?」
「ここはやはり、荀子、韓非子といったところでしょうか」
「なるほど。私も基本的には同じ意見です。あとは、政治の実戦的な指導書とも言える管子も加えるといいと思います」
「管仲の書ですね。まさに、今のこの世に合っていると言えますね。譙周殿、意見はありますか?」
「いえ。お二方の意見に賛成です。師となり得る人材に関しましては、一度、杜瓊殿や丞相にご意見を伺った方がいいように思います」
「そうですね。師となる人材を闇雲に探すのも難しいとは思いますので、その点はまず、今回の話の提案をするときに、お伺いするように致しましょう」
張裔と譙周は頷いた。
尹黙が言う。
「実は先んじて、杜瓊殿には明日、時間を作って頂くように既にお願いをしてあります。今日の論議の内容は私がまとめますので、また明日、こちらにお越しいただけますか」
「わかり申した。それでは、尹黙殿にお任せして、我々は退散致しまする」
張裔と譙周は拝礼して立ち去った。
こうして、太学改革の論議はひとまず終了した。
そして明日、杜瓊に提案をすることになるのである。




