第6回 語らい
散会した後、張裔と譙周は改めて話をした。張裔が言う。
「譙周殿の父君のお名前は、私も存じております。尚書、図讖、天文の大家と聞いております。譙周殿も、やはりそこが専門か?」
「父は私が幼い時に亡くなりましたので、あまり記憶は無いのですが、父の学問を兄が引継ぎ、兄に師事しておりましたので、専門としているのはおっしゃっていただいたものになります」
「なるほど。私は皆さんと多少毛色が違うのだが……」
「と、申されますと?」
「全ての基礎だと思っている儒学はもちろん学んでいるが、どちらかというと、民政の実務の経歴が長い。だから、最初はこの人事は間違いなのではないか、と疑ったほどだ」
「左様でございますか。しかし、その実務の視点も重視しての丞相のご判断になるのでしょうね」
「うむ……。私も、そう思うようにはしている。差し当たって、譙周殿の興味のあるものは何かな?」
「そうですね……。私は太学を知りませんので、一度見ておきたいと思っています」
「なるほど。それは、いいかもしれんな。それでは明日は、太学の視察に参ることにしよう」
「わかりました。それでは、また明朝に」
譙周は丁寧な拝礼で張裔を見送った。
そして官舎に帰ると、尹黙が待ちわびていたかのように出てきて言った。
「譙周殿、思ったより、お戻りが遅かったですね」
「はい。散会した後、張裔殿と今後について少し話をしておりましたので」
「そうですか。張裔殿はただの学者ではなく、民政の実務家の側面も持っている。その張裔殿を譙周殿の指導役に抜擢したのは、さすが丞相、という感じですね」
「そうですね。学問だけではなく、実務も学べ、ということで理解をしております」
「さすがは、譙周殿。さあ、それでは一献参りましょうぞ。私の官舎に、酒食を用意したので、どうぞこちらへ」
「本来なら、私が支度すべきところ……。本当にありがとうございます」
「さあ、遠慮なさらず、こちらへ」
譙周は、誘われるがまま、尹黙の官舎に入った。
尹黙が言う。
「簡単なものしかありませんが……。さあ、お座りください」
「お気遣いをいただき、ありがとうございます」
「まあ、ひとまず乾杯といきましょう」
「はい」
二人は盃を空けた。
尹黙が言う。
「譙周殿。初めての任官と言うことで、何をするのか、どういうことをするべきか、などわからないことが多いでしょうが、何かお考えはお持ちかな?」
「はい。張裔殿にも聞かれましたので、まずは太学を見てみたい、とお伝えしたところ、では明日早速伺おう、ということになっております」
「太学をですか。よろしければ、私がご案内しましょうか?太学に関することは、私の管轄になりますので」
「そうですね。是非、お願いしたいところです。私は太学に通ったことはありませんので、これから世に出る方々がどのように学問に接しているのか、非常に興味があります」
「なるほど、初めての太学ということであれば、そうなりますでしょうな。これから、大袈裟に言えば、大鉈を振るった改革をしなければ、と考えているところですが……」
「大鉈を振るう……。現状は、それほど芳しくないのでしょうか?」
「いや、全てがそうではありません。いずれにしても、明日、ということにいたしましょう。さあ、今宵は友としての初の宴、大いに飲みましょうぞ」
こうして二人は、仕事の話はここまでとし、お互いの故故郷やこれまでやってきたこと、家族の話などをし、楽しい時間を過ごしたのである。




