第23回 北伐、再び
二回目の北伐が敢行されることが決まった。
今回も諸葛亮自らが指揮を執り、楊儀はその本営に帯同する。そして、王平は前線へ将軍として出陣する。
この間は当然、講義は行われない。
今回は学問官僚と学生全員で楊儀と王平を見送ることにした。楊儀が言う。
「見送りかたじけない。学生諸君、私の留守の間は、今一度書に当たり、その基本、根底が何であるのかをしっかりと突き詰めておくように。戻ってきたら、すぐに試験を実施するので、そのつもりで」
王平が言う。
「私は今回も最前線にて戦う。君たちに教えることにより、私も兵学の基本を思い出せたり、その表裏に改めて気づかされた部分もある。今度こそ、勝利をこの蜀漢に持ち帰るために、死力を尽くす。君たちは、しっかりと将来の国を背負うことを自覚して、勉学に励んでくれ」
二人の挨拶が終わると、全員が拍手で送り出した。
この北伐において、諸葛亮率いる本軍は祁山へ、別動隊は陳倉城の攻略に向かった。
結果、陳倉城に向かった別動隊は、曹魏の名将である郝昭の堅守を崩せず敗退。祁山では、こちらも曹魏の名将である張郃と諸葛亮の睨みあいとなったが、大きな戦いが起きることなく、補給の問題で撤退を余儀なくされた。今回も、蜀漢の敗北である。
勝利を収めて国威発揚といきたいところであるが、実際はかなり難しい問題であった。何といっても、曹魏と蜀漢ではその国力格差が大き過ぎるのである。諸葛亮が采配をしていることで、最小限の敗北で何とか留まっていると言っていいであろう。
学問官僚たちも、今回の敗戦を聞き、残念がった。
譙周が聞く。
「杜瓊先生。これで、我が国は再び破れたわけですが、今後も北伐は行われるのでしょうか?」
「もちろん、行われるであろう。北伐をして漢を復興させるのが、この蜀漢の宿願であるのだから」
「そうですね。我々も、自分たちが出来ることをやらねばなりませんね」
「そういうことだ。来年には、まず、私塾と郡学における試験を行いたいと思っている。このためには、我々で試験問題を作ること、その試験の監督を各郡の官僚に頼んでやってもらう必要がある。時間があるようで、それほどない。急がねばなるまい」
「はい。試験問題の作成に早速取り組みたいと思います」
「頼むぞ。まずは勧学従事の二人で私塾における試験問題を作成してくれ。その問題をもとに、郡学での試験問題は私と尹黙殿で作成する」
譙周は、拝礼して退出した。
杜瓊が敢えて分業にしたのは、勧学従事である張衛と譙周に、学問官僚として今後も育っていてほしいとの考えからで、自分や尹黙が口を出しすぎるのは良くない、と考えたためであった。
譙周と張裔は、張裔の官舎にこもりきりで、試験問題の作成に没頭した。郡学へ上がるための試験になるので、簡単すぎず、難しすぎずの調整が、思いの外、難航した。しかし、何とか一〇日程でその草案は出来上がり、杜瓊と尹黙に提出をすることになった。
杜瓊と尹黙は、じっくりとその試験問題を確認した。
一言一句、しっかりと熟読するので、かなりの時間を要したが、杜瓊が口を開く。
「うむ。よくやってくれた。私の方からは特に意見はないが、尹黙殿はどうだ?」
「そうですね。私塾の学生に受けさせるには、程よい内容だと思います。よくぞ、ここまで吟味されましたね」
張裔が言う。
「ありがとうございます。もっとも、譙周殿に頼りきりで、私はほとんど役に立ちませんでした」
「何をおっしゃいますか。私が作る問題は難解であると、ほぐして調整してくれたのは張裔殿ではありませんか。本当に、心より感謝をしております」
「よし、尹黙殿。次は我々の番ですぞ。これをもとに、太学に入るに必要な学識があるかどうかの確認をする試験を作成しましょう。お二人がそうしたように、我々も官舎に詰めて集中しましょう。後で、私の官舎にお越しくだされ」
「かしこまりました。伺わせて頂きます」
―二〇日後―
杜瓊と尹黙による、太学へ入るための試験問題が完成した。
張裔と譙周は確認させてもらったが、全く非の打ち所の無いものであった。
こうして、まずは試験問題の作成が完了したのである。
そして、試験実施に向けて、各郡への根回しに入ろうとしたところ、三度目の北伐の敢行が決まったのである。




