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ゲーム開始前に全部終わらせてしまいました ~悪役令嬢のはずが聖女になった王女の物語~  作者: ゆきまる


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絶望の果て


フォレストは私の心配も気も止めず次から次へと襲い掛かる魔物を一人で迎え撃っていた。


「くそっ!」


剣閃が走る。


飛び掛かってきたゴブリンが二体まとめて吹き飛ぶ。


着地と同時に身体をひねり、フォレストウルフの牙を躱す。


そのまま首筋へ一閃。

鮮血が舞う。


「まだ来るか。」


息は乱れている。

額には汗が滲む。

それでも剣筋は鈍らない。


幼い頃から積み重ねてきた鍛錬。

専属騎士として受けてきた教育。

その全てが、今の一太刀一太刀に現れていた。


「すごい……。」


思わず声が漏れる。


一人で、これほどの魔物を相手に互角以上に戦っている。

やっぱりフォレストは強い。


けれど。


「右から!」


誰かの叫び。


フォレストは反射的に身体を沈める。


頭上をアーマービートルの鋭い脚が掠めた。


その隙を狙い、背後からゴブリンが飛び掛かる。


「邪魔だ。」


振り返ることもなく剣を振るう。

ゴブリンが地面へ崩れ落ちた。


だが。


次の一体。


また次。


終わりが見えない。


倒しても倒しても、新たな魔物が押し寄せる。


「援護!」


近くの騎士が叫ぶ。


「駄目です!」


別の騎士が悲鳴のような声を上げる。


「こっちも手一杯です!」


援護へ向かおうとした騎士の前へ、フォレストウルフが立ちはだかる。


さらに別方向ではアーマービートル。


誰も近付けない。


本当に完全に分断されていた。


「くっ……!」


私は思わず一歩踏み出す。


助けなきゃ。


今度こそ。


収納ポーチへ手を伸ばす。


護身用の魔道具。


拘束用。


閃光。


煙幕。


アッシュが今まで作ってくれた魔道具。


どれを使えば助けられる。


考えろ。


考えなきゃ。


「……っ。」


手が止まる。


届かない。


どの魔道具も、この距離じゃ間に合わない。


投げても届かない。


使っても巻き込んでしまう。


「どうして……!」


何もできない。


また。


また私は見ているだけなの?


その時だった。

ズシン。


地面が大きく揺れた。


誰もが息を呑む。


漆黒の巨体。


ベヒモス。


他の魔物とは比べものにならない威圧感を放ちながら、ゆっくりと首を巡らせる。


赤黒い瞳が戦場全体を見渡した。


そして。


その視線が止まる。


「……。」


フォレストだった。


「っ!」


背筋が凍る。


ベヒモスがゆっくりと前脚を踏み出した。


ズシン。


地面が揺れる。


また一歩。


ズシン。


その度に小石が跳ね、木々の葉が震える。


狙われた。


そう直感した。


「フォレスト!」


私は叫びながら走り出す。


お願い。


逃げて。


早く気付いて。


でも。


フォレストは気付かない。


いや、気付けない。


目の前ではゴブリンが剣を振り上げ、

横からフォレストウルフが飛び掛かり、

背後ではアーマービートルが迫っている。


その全てを捌くだけで精一杯だった。


「っ!」


ゴブリンを斬る。


身体を沈めて牙を避ける。


返す刃でフォレストウルフを斬り裂く。


だが、その瞬間。


アーマービートルの体当たりが肩を掠めた。


「ぐっ!」


体勢が崩れる。


すぐに立て直す。

それでも、一瞬の隙が生まれる。


ズシン。


ベヒモスは、もう目の前まで迫っていた。


フォレストがようやく異変に気付く。


振り返る。


「……!」


巨大な影。


見上げるほどの巨体。


赤黒い瞳が、真っ直ぐ自分を見据えている。


反射的に剣を構える。


だが。


その一撃を受け止められる相手ではないことを、本能が理解していた。


「くそっ……!」


周囲には、まだ魔物。


逃げ道もない。


「フォレスト!!」


私は必死に走る。


収納ポーチから魔道具を取り出す。


何でもいい。


一瞬でもいい。


時間を稼げれば。


そう思った、その時。


ベヒモスが大きく右前脚を振り上げた。


その巨大な爪が陽光を鈍く反射する。


戦場の誰もが、その光景を見上げていた。


「やめてぇぇぇぇっ!!」


私は叫びながら手を伸ばす。


届いて。


お願い。


届いて。


その願いが届くより早く――。


世界が、白く染まった。


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