表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム開始前に全部終わらせてしまいました ~悪役令嬢のはずが聖女になった王女の物語~  作者: ゆきまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/59

崩れゆく戦線

パイロが救護班へ運ばれてから、どれほど時間が経ったのだろう。


戦場には、相変わらず怒号が響いていた。


ただ、一つだけ確実に変わったものがあった。


士気だ。


誰も口にはしない。


それでも分かる。


最後まで戦おうとし、無理やり戦場を離れさせられた副団長。


アルカナム・パイロ。


その姿は、確実に騎士たちの胸へ影を落としていた。


「ちょっと!」


救護班の女性が振り返ることもなく叫ぶ。


「そこのあなた! 包帯取って!」


「は、はい!」


私は慌てて収納ポーチを開き、包帯を取り出して駆け寄る。


「次は水!」


「はい!」


休む暇なんてない。


負傷兵が運ばれてくるたびに包帯を渡し、水を運び、止血用の薬を手渡す。


目の前の命を助けることに必死になる。


それなのに。

脳裏へ浮かぶのは、さっきの光景だった。


右目から溢れる血。


顔を大きく切り裂かれ、それでも『まだ戦える』と立ち上がろうとしたパイロ。


「……。」


胸が締め付けられる。


変えられなかった。


原作を知っていたのに。


何も。


何一つ。


「そこのあなた!」


「はい!」


「ぼーっとしない!」


救護班の女性が焦ったように叫ぶ。


「その薬、早く!」


「ご、ごめんなさい!」


私は慌てて薬瓶を手渡した。


「しっかりしなさい!」


女性はそれだけ言うと、すぐに負傷兵の治療へ戻っていく。


私は小さく息を吐いた。


彼女の言う通りだ。


駄目。


今は考えちゃ駄目。


一人でも多く助けなきゃ。


そう自分へ言い聞かせた、その時だった。


――ゾクリ。


背筋を冷たいものが這い上がる。


思わず顔を上げた。


「……?」


何だろう。


戦場は変わっていない。


騎士たちは戦い続けている。


魔術師団も絶え間なく魔法を放っている。


それなのに、


空気が違う。

さっきまでとは、明らかに。


戦場全体が、何かを恐れて息を潜めているような。


そんな不気味な静けさが、一瞬だけ訪れた。


次の瞬間――。


「ヴォォォォォォォォン……!」


腹の底まで響くような低い咆哮が、森の奥から響き渡る。


今まで聞いてきた魔物の鳴き声とは、まるで違う。


空気そのものを震わせるような重い咆哮。


「グルルルルル……。」


「ゴォォォォォッ!」


異なる咆哮が、次々と重なる。


ズシン。


ズシン。


地面が大きく揺れ始めた。


騎士たちの動きが止まる。


「……何だ?」


「この魔力は……。」


誰かが震える声で呟く。


森の奥。


巨大な木々を押し倒しながら、黒い影が姿を現した。


全身を漆黒の甲殻で覆った巨獣。


その後ろからは、巨大な翼を広げた飛竜。


さらに別方向からも、異形の巨体がゆっくりと姿を見せる。


一体じゃない。


二体でもない。


「うそ……。」


思わず声が漏れる。


教本には、『一体につき中隊規模で挑み、ようやく互角。個体によっては隊長規模と互角の場合もある』と書かれていた。


それが今、目の前には複数体いる。


「上級モンスターだ……!」


誰かの叫びが戦場へ響く。


その瞬間、騎士たちの顔から血の気が引いた。


そして。


「魔術師団!」


アッシュの声が響く。


「上級モンスターを足止めする!」


「前衛は絶対に近付くな!」


巨大な魔法陣が幾重にも展開される。


爆炎。


雷撃。


暴風。


王国最強の魔術が次々と放たれる。


だが。


上級モンスターは、その猛攻を受けても歩みを止めない。


爆煙の中から、ゆっくりと姿を現す。


「そんな……。」


魔術師たちの表情にも動揺が走る。


そして私は初めて見た。


いつも冷静なアッシュの表情が、僅かに険しくなるのを。


「……予想以上だ。」


その小さな呟きが、戦場の絶望を何より物語っていた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

ぜひブックマーク、いいね、評価をお願いいたします!

していただいたら作者のモチベーションが上がります!

どうぞよろしくお願いいたします!(´∀`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ