変えられなかった未来
「ギィィィィィッ!!」
数体のグリフォンイーグルが、一斉にパイロへ襲い掛かった。
「にげろ!!」
周囲の騎士たちが叫ぶ。
しかし、間に合わない。
パイロは目前へ迫る一体へ大剣を振るい、鋭い一撃でその身体を斬り裂く。
だが、その死角。
もう一体が、音もなく背後へ回り込んでいた。
「後ろだ!」
フォレストが叫ぶ。
速度強化の靴で一気に距離を詰める。
あと少し。
あと少しだった。
パイロも気配に気付き、振り返る。
しかし――。
ザシュッ――。
鋭い鉤爪が、容赦なく振り抜かれた。
「ぐぁっ……!」
赤い飛沫が宙を舞う。
右目から溢れ出した鮮血が、頬を伝い、首筋を染める。
そのまま顔を大きく切り裂き、肩口から胸元にかけても深い傷を刻んだ。
衝撃で身体が大きくよろめく。
「パイロ!!!」
「副団長!!!」
騎士たちの悲鳴が響く。
それでも。
パイロは倒れなかった。
震える足で踏みとどまり、大剣を地面へ突き立てる。
左目だけで魔物を睨み付け、荒く息を吐いた。
「まだ……。」
血が止まらない。
右目は完全に閉じたまま。
それでも彼は剣を握り直す。
「まだ戦える……!」
その声に、周囲の騎士たちが息を呑む。
「駄目です!」
「副団長!!」
数人の騎士が駆け寄り、無理やりその身体を支えた。
「離せ……!」
パイロが低く唸る。
「前線が……まだ……!」
「駄目です!」
若い騎士が涙を滲ませながら叫ぶ。
「これ以上は命に関わります!」
「ですが!」
「俺たちが持ちこたえます!」
「だから、今は下がってください!」
パイロは悔しそうに歯を食いしばる。
戦場を見つめる左目には、まだ闘志が宿っていた。
それでも、流れ続ける血が容赦なく体力を奪っていく。
やがて、大剣を握る手から力が抜けた。
「……すまん。」
小さく漏れたその一言に、騎士たちは一斉に首を振る。
「謝らないでください!」
「必ず守り切ります!」
支えられながら、パイロは救護班へ向かって運ばれていった。
「……。」
私はその光景を見つめたまま、動けなかった。
変えられなかった。
何も。
目から溢れる血。
顔を大きく裂く傷。
戦場を去る背中。
全部。
全部、フォレストから聞いていた原作通りだった。
「そんな……。」
声が震える。
助けるために来た。
変えるために来た。
それなのに。
何一つ変えられなかった。
胸の奥が音を立てて崩れていく。
その時だった。
「ちっ!」
前線からフォレストの舌打ちが聞こえた。
顔を上げる。
パイロへ駆け寄ろうとしたフォレストの前へ、十数体のゴブリンが雪崩れ込んでいた。
「邪魔だ!」
剣を振るい、一体を斬り伏せる。
しかし、すぐに別のゴブリンが襲い掛かる。
さらに後ろからも。
左右からも。
完全に足止めされていた。
フォレストは悔しそうに歯を食いしばりながら、それでも目の前の敵を斬り続けるしかなかった。
私は拳を強く握り締める。
何もできない。
誰も助けられない。
そんな自分の無力さだけが、胸に重くのしかかっていた。
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