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ゲーム開始前に全部終わらせてしまいました ~悪役令嬢のはずが聖女になった王女の物語~  作者: ゆきまる


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収納ポーチ大作戦②


荷台へ身を潜めてから、しばらく。


荷物の隙間に身体を丸めたまま、私は小さく息を吐いた。


「……案外、上手くいったわね。」


私が小声で呟くと、向かいに座るフォレストが苦笑する。


「奇跡だな。」

「もっと褒めてもいいのよ?」

「褒めてる。」


そう言って肩を竦める。


「まさか本当に荷馬車に紛れ込めるとは思わなかった。」


「私もよ。」


収納ポーチのおかげで荷物を少しだけ移し、二人が隠れられる空間を作る。


思いついた時は勢いだったけれど、案外どうにかなってしまった。


「……でも。」


私は小さく笑う。


「ここからが本番ね。」


フォレストも真顔に戻った。


「ああ。」


その時だった。


「第一部隊、転移開始!」


号令が響く。


直後、身体がふわりと浮いた。


「っ……!」


私は必死に声を抑える。


次の瞬間には荷馬車が再び揺れ始めた。


「……これが転移魔法陣。」


王宮で何度も見たことはある。

でも、実際に転移するのは初めてだった。


身体が宙へ投げ出されるような、不思議な感覚。


不思議な感覚に、思わず胸が高鳴った。


そう思った瞬間、私ははっとした。


……何考えてるの。


今は魔物の大量発生で、多くの騎士が命懸けで戦場へ向かっている。


楽しいなんて思うなんて、不謹慎だ。


私は小さく首を振った。


しかし、その考えはすぐに吹き飛ぶことになる。


二度目。


三度目。


四度目。


転移魔法陣を経由するたびに、身体の奥がぐるぐるとかき回される。


「ぅ……。」


胃が持ち上がる。


気持ち悪い。


「エレ、大丈夫か……。」


フォレストの声も弱々しい。


顔を上げると、彼も荷物にもたれ掛かったまま顔色を失っていた。


「フォレストこそ……。」

「俺は……もう駄目かもしれん……。」

「しっかりして……。」


励ます私も、今にも吐きそうだった。


それから何度転移したのか分からない。


もう数える余裕もない。



ガタン。


荷馬車がゆっくり止まる。


「最終転移完了!」


「補給部隊、救護班はこの場で待機!」


「前線部隊は騎乗し出発!」


外が一気に騒がしくなる。


私は黒い布をほんの少しだけ持ち上げた。


周囲には大きな転移魔法陣。


補給部隊。


救護用の天幕。


そして、慌ただしく走り回る騎士たち。


どうやら魔物の発生地点から少し離れた前線基地へ到着したようだった。


「……今なら。」


私は周囲を見渡す。


荷下ろしに夢中で、こちらを見ている者はいない。


「行ける。」


フォレストも頷く。


私たちは荷台から音を立てないよう飛び降り、そのまま近くの物陰へ身を隠した。


「っ……。」


着地した瞬間、ぐらりと視界が揺れる。

思わず近くの木へ手をついた。


「エレ。」


フォレストがすぐ支えようと手を伸ばす。


「……大丈夫。」


そう答えたものの、全然大丈夫ではなかった。


胃の奥がむかむかする。

身体の中身がまだ揺れているような感覚が消えない。


「うぅ……。」


思わず口元を押さえる。

転移酔いが、まだ抜けていない。


「無理するな。」


フォレストも顔色は真っ青だった。


「フォレストもまだ気持ち悪いんじゃないの?」

「……否定はできない。」


いつもの余裕はどこにもない。


額には薄く汗が滲み、呼吸も少し荒い。


どうやら、相当我慢しているらしい。


私は苦笑した。


「騎士でも転移酔いするのね。」

「初めて……あんな何回も転移したからな。」


フォレストは深く息を吐く。


「もう少し休めば動ける。」


私はこくりと頷いた。


「ええ……。」


深呼吸を繰り返す。


少しずつ。

少しずつ気持ち悪さが落ち着いていく。


その時だった


「前線部隊、出発!」


馬のいななきが響く。


フォレストが思わず呟いた。


「まずい。馬がないな。走って追い付くしかないな。」


「こんな時のためにちゃんと用意してあるわ。」


私は自慢げに収納ポーチを開き、中から二足の靴を取り出す。


「何だ、それ。」


「足が速くなる魔道具。」


フォレストは嫌そうな顔をした。


「またアッシュか。」


「そう。」


私は笑いながら頷く。


前世の私は運動神経が本当に悪かった。

徒競走ではいつも後ろの方。

だから今世では決めていた。

いつか王都のみんなが楽しめる運動会のような催しを開いてみたい。

そしてその時は、一度くらい一位になってみたい。


そんな軽い気持ちでアッシュへ相談したら、本当に作ってしまったのだ。


私はもう一足をフォレストへ差し出す。


「はい。」


「……俺の分?」


「私の護衛なんだから。」


私は当然のように答えた。


「走る時は一緒に走るでしょう?だから最初からフォレストの分もお願いしたの。」


フォレストはしばらく黙って靴を見つめる。


そして、大きくため息をついた。


「……いや。色々とおかしいだろ。というか用意周到だな。まさか....」


「そう!何が必要かわからないからアッシュに今まで作ってもらった魔道具を全部持ってきたわ」


私は誇らしげに言った。



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