収納ポーチ大作戦①
「第一部隊、転移準備!」
広場に騎士の声が響き渡る。
巨大な転移魔法陣が淡く光を帯び始め、上位騎士たちが次々と隊列を整えていく。
「上位騎士より順次転移を開始!」
「補給部隊は第一部隊の転移完了後、出発準備に入れ!」
補給部隊。
私はその言葉に反応し、荷馬車へ視線を向けた。
食料。
薬品。
包帯。
予備の武器。
数台の荷馬車には、大量の物資が積み込まれている。
そして、その荷物はすべて厚い黒い布で覆われ、中が見えないようになっていた。
「……。」
私は荷台をじっと見つめる。
黒い布。
大量の荷物。
そして――補給部隊。
「あ。」
頭の中で、何かが繋がった。
「どうした。」
フォレストが不思議そうに私を見る。
「……収納ポーチ?」
「アッシュが作ってくれた魔道具よ。」
フォレストは少し考えた後、思い出したように頷いた。
「あぁ、あれか。」
見た目は、ごく普通の肩掛けバッグ。
けれど、その中には時空間魔法が組み込まれていて、見た目からは想像もできないほど大量の荷物を収納できる。
私は前世のアニメで見たなんでも好きな時に取り出せるポーチのような物が欲しくて、アッシュへ「見た目より何倍も荷物が入る鞄が欲しい」とお願いした。
最初は呆れられたものの、何か月も研究を重ね、本当に完成させてしまったのだ。
さらに側面の切り替え魔道具を操作すれば、通常保存だけでなく冷蔵保存、冷凍保存までできる。
完成したばかりの試作品。
まだ販売もされていなければ軍への導入もされていない。
今、この王国で持っているのは私一人だけだった。
「……それがどうした。」
フォレストが尋ねる。
私は荷馬車を指差した。
「荷台の荷物。」
「収納ポーチへ移せる。」
「……は?」
「全部じゃないわ。」
私は黒い布で覆われた荷台を見つめながら続ける。
「私たち二人が隠れられるくらいの荷物を収納ポーチへ入れるの。」
「そうすれば荷台に空間ができるでしょう?」
「そこへ私たちが乗り込む。」
「最後に荷物を整えて黒い布を掛け直せば、外からは分からないわ。」
フォレストは荷馬車と私を交互に見つめる。
しばらく考え込んだ後、小さく呟いた。
「……理屈としては可能だ。」
「でしょう?」
「でも問題がある。」
「何?」
「収納ポーチ。」
「あ。」
思わず固まる。
今日は魔法塔へ行く予定だった。
収納ポーチは必要ないと思って、自室へ置いたままだ。
「持ってきてないだろ。」
「……そうだった。」
「それに。」
フォレストは私の姿を見て眉をひそめる。
「そのドレスで荷馬車へ近付いたら、一瞬で見つかる。」
私は自分のロイヤルブルーの式典用ドレスを見下ろした。
確かに、この格好では目立ちすぎる。
「着替えも必要ね。」
「幻影魔法も使う。」
「うん。」
私は頷いた。
「移動する部隊に近くづく直前に人目につかないところでローブを羽織れば、補給部隊の関係者に見えるかもしれないわ。少なくとも、この格好よりは目立たない。」
フォレストは深くため息を吐く。
「そこまで考えてたのか。」
「今思いついたの。」
「だから余計に怖い。」
私はくすりと笑った。
そして、もう一度広場を見る。
第一部隊の騎士たちは、次々と転移魔法陣へ向かっている。
一方、補給部隊はまだ荷物の積み込みを続けていた。
「第一部隊が先に出発するなら。」
私は静かに呟く。
「まだ準備する時間はある。」
フォレストも広場へ目を向け、小さく頷く。
「ああ。」
「補給部隊が動き出す前なら間に合う。」
私はバッグのない肩を見て、小さく拳を握った。
「まずは部屋へ戻って、収納ポーチと必要な魔道具を取りに行くわ。」
「急ぐぞ。」
「ええ。」
私たちは周囲の視線を避けるようにその場を離れ、急いで王宮の中へ駆け出した。
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