討伐部隊
「どうせ無茶なことを考えてるだろ。」
「失礼ね。」
私は少し頬を膨らませた。
「ちゃんと考えたもの。」
「……聞くだけ聞いてやる。」
私は広場の奥へ視線を向ける。
ちょうど黒いローブを纏った魔術師たちが整列を始めていた。
「魔術師団よ。」
「魔術師団?」
「討伐部隊には魔術師団も同行するでしょう?」
「ああ。」
「だったら、魔術師団に紛れればいいのよ。」
フォレストは無言になった。
数秒の沈黙。
そして。
「却下。」
「なんでよ!」
「魔術師団に紛れたところで、お前がいることにアッシュが気付かないと思うか?」
「……。」
思わず黙る。
「団長だぞ。」
フォレストは呆れたように続けた。
「隊員の顔くらい全部把握してるだろ。」
「う……。」
それは、確かにそうだ。
「それに。」
フォレストは腕を組む。
「髪や服装は幻影魔法でどうにでもなる。」
「でしょう?」
「でも、それだけじゃ無理だ。」
「え?」
「歩き方。」
「立ち方。」
「言葉遣い。」
「騎士や魔術師は、そういう細かいところを見てる。」
私は思わず自分の姿勢を見下ろした。
「そんなに違うの?」
「ああ。」
フォレストは即答する。
「お前、自分じゃ平民のふりが上手いと思ってるだろ。」
「うん。」
「王都を歩く分には問題ない。」
「でも、王宮勤めの騎士や魔術師は別だ。」
「少し会話しただけで違和感を持たれる。」
「それに、幻影魔法だって魔力の高い相手なら見破られる可能性がある。」
私は少し考え込む。
「つまり……。」
「魔術師団に紛れた瞬間、アッシュに見つかって終わりだ。」
「……。」
言い返せない。
「作戦失敗ね。」
「始まる前から失敗してる。」
私は小さく肩を落とした。
その時だった。
「魔術師団、移動準備!」
広場に大きな声が響く。
私たちは同時にそちらを見る。
黒いローブを纏った魔術師たちが、一斉に隊列を組み始めていた。
その先頭へ、一人の青年が歩いてくる。
黒髪。
黒い瞳。
漆黒の団長用ローブを纏った青年。
「アッシュ。」
思わず名前を呟く。
十九歳という若さで魔術師団長へ就任した天才。
その姿には、以前よりさらに威厳が備わっていた。
「第一班は前衛支援。」
「第二班は転移魔法陣の維持。」
「第三班は後方支援。」
淡々と指示を出すアッシュに、誰一人異を唱えない。
その場にいる全員が、彼を信頼していた。
「やっぱり行くのね。」
「ああ。」
フォレストも頷く。
「王国最高峰の魔術師だからな。」
私はその隣に立つパイロへ目を向けた。
燃えるような赤い髪。
紫色の瞳。
今はまだ傷一つない、その顔。
——この討伐が、本当に原作のきっかけなら。
「……止めたい。」
自然と口から零れた。
フォレストは何も言わない。
私が諦めていないことを、もう分かっているのだろう。
その時。
「上位騎士は先行する!」
「転移魔法陣の準備完了!」
「補給部隊は十分後に出発!」
騎士の声が広場へ響いた。
補給部隊。
私はその言葉に反応する。
視線を向けると、数台の荷馬車へ食料や薬品、包帯、予備の武器などが次々と積み込まれていた。
「……あ。」
「どうした。」
私は荷馬車を指差した。
「あれよ。」
フォレストも視線を向ける。
「補給部隊?」
「ええ。」
私は小さく笑った。
「討伐へ向かうのは、騎士や魔術師だけじゃない。補給部隊だって、一緒に向かうでしょう?」
フォレストの眉がぴくりと動く。
「……まさか。」
「補給部隊に紛れれば、戦うわけじゃないもの。怪しまれにくいと思わない?」
フォレストはゆっくり両手で顔を覆った。
「嫌な予感しかしない。」
「まだ作戦を全部話してないわ。」
「その笑い方をしてる時のお前は、大体ろくでもない。」
私はくすりと笑う。
まだ思いついただけ。
成功する保証なんてない。
それでも——。
何もしないまま、パイロが傷付く未来を待つなんて、私にはできなかった。
「フォレスト。」
「……何だ。」
「付き合ってくれるわよね?」
フォレストはしばらく黙ったまま、空を見上げる。
そして諦めたように深く息を吐いた。
「……はぁ。」
「やっぱり、こうなるのか。」
その横顔に、私はにっこりと笑みを浮かべた。
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