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ゲーム開始前に全部終わらせてしまいました ~悪役令嬢のはずが聖女になった王女の物語~  作者: ゆきまる


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フォレストの任

「失礼いたします。」


私とフォレストは揃って一礼し、執務室へ足を踏み入れた。


「来たか。」


お父様が穏やかに微笑んだ。


「今日は良い知らせと、少し気掛かりな知らせがあって呼んだ。」


私はフォレストと顔を見合わせる。

良い知らせと、気掛かりな知らせ。

一体なんだろう。


「まずは良い知らせからだ。」

「フォレスト・クレインを、エレノーラの正式な護衛騎士として任命する。」


「……え?」


私は思わず目を瞬かせた。


「今まで違ったんですか?」


その場が一瞬静まり返る。


フォレストは額に手を当て、小さくため息をついた。


「……気付いてなかったのか。」

「だって、いつも一緒だったじゃない。」


私は首を傾げる。


「護衛もしてくれていたでしょう?」


フォレストは肩を竦めた。


「護衛はしていた。」

「ただ、あれは正式な任務じゃない。」

「じゃあ何だったの?」

「お前の監視だ。」

「……監視?」


思わず聞き返す。


「陛下から、『問題を起こさないよう見張っておけ』って命令されてたんだ。」


「ちょっと、お父様!?」


思わずお父様を見る。


お父様は悪びれる様子もなく笑われた。


「間違ってはおらんだろう?」

「城下町へ勝手に出掛けたり、騎士団へ遊びに行ったり、魔法塔へ入り浸ったり……。」

「うっ……。」


言い返せない。


「まあ、監視とは言ったが。」


お父様は笑みを浮かべたまま続けられる。


「当然、護衛も兼ねておった。」

「お前は第一王女だからな。他にも護衛はつけているが危険があれば、真っ先にフォレストが動くようにしていた。」

「じゃあ、正式じゃないだけで、今までとやってることは変わらないのね。」

「そういうことだ。」


私はほっと胸を撫で下ろした。

すると、お父様はフォレストへ視線を向ける。


「正直に言えば、フォレストをお前の正式な護衛騎士にすること自体は、もっと前から決めていた。」


「え?」


フォレストも少し驚いたように顔を上げる。


「昔から、お前の実力に不安など一切なかった。」


お父様は静かに微笑まれた。


「幼い頃から騎士団で鍛えられ、その腕は誰もが認めている。」

「エレノーラを任せるだけの力は、ずっと前から十分にあった。」


そこまで言うと、お父様は苦笑する。


「だが、一人だけ首を縦に振らない男がいてな。」


私はすぐに誰のことか分かった。


「……シリル団長ですか?」

「ああ。」


お父様は大きく頷かれた。


「フォレストの父、シリルだ。」


「『あいつは未熟です。王女殿下の正式な護衛騎士など、あと数年は認めません。』と、何度言われたことか。」


私は思わずフォレストを見る。


フォレストは恥ずかしそうに頭を掻いていた。


「父上らしいな……。」

「まったくだ。」


お父様は苦笑する。


「昔からあいつは頑固だからな。」


お母様もくすりと笑われた。


「ですが、それだけフォレストを大切に育ててこられたということですわ。」


「そうだな。」


お父様は懐かしそうに目を細める。


「私とシリルは若い頃からの親友だ。」

「だからこそ、あいつの気持ちも分かる。」


お父様はフォレストを真っ直ぐ見つめる。


「だが、先日シリルから正式に話があった。」


『もう何も言うことはありません。あいつをよろしくお願いいたします。』


「……そう言われてな。」


フォレストは少しだけ目を見開いた。


「父上が……。」


「ようやく、あの頑固者も認めたということだ。」


お父様は優しく笑われた。


「だから三日後、正式に任命式を執り行う。」

「フォレスト。」


「はい。」


「改めて、エレノーラを頼んだぞ。」


フォレストは迷いなく胸に手を当てた。


「必ず、お守りいたします。」



お父様は穏やかな笑みを収め、静かに表情を引き締められた。


「さて、フォレストをこの時期に正式な護衛騎士へ任命することにした理由は、それだけではない。」


私もフォレストも自然と姿勢を正す。


「ここ数か月、王国内で魔物の出現数が増加している。」

「魔物が……ですか?」


思わず聞き返す。


「まだ大規模な被害は出ておらぬ。」


お父様は静かに続けられる。


「しかし、これまで魔物がほとんど姿を見せなかった地域でも目撃情報が相次いでいる。」


宰相が一歩前へ出た。


「各領地の領主や騎士団支部からも、同様の報告が続いております。」

「原因は現在調査中ですが、現時点では判明しておりません。」


私はフォレストを見る。

フォレストも神妙な面持ちで話を聞いていた。


「だからこそ。」


お父様はゆっくりと私たちを見回される。


「何かが起きてからでは遅い。」

「王族の護衛体制も、今まで以上に万全なものにする必要がある。」

「フォレストを正式な護衛騎士へ任命するのも、その備えの一つだ。」


私は静かに頷いた。


「承知いたしました。」


お父様も静かに頷かれる。


「無論、過度に心配する必要はない。」

「だが、備えは王族の務めだ。」



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