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ゲーム開始前に全部終わらせてしまいました ~悪役令嬢のはずが聖女になった王女の物語~  作者: ゆきまる


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四年後

婚約発表会から四年。


私は十二歳になっていた。


フォレストは十四歳。

アルベール殿下は十三歳。

そして、アッシュは十九歳になった。


……平和だ。


本当に平和すぎる。


「何も起きないわね。」


私がぽつりと呟くと、隣を歩くフォレストが苦笑した。


「平和なのは良いことだろ。」


「もちろんそうなんだけど。」


私は小さく肩を竦める。


「ゲームの攻略対象者、あと二人ともまだ会っていないのよ?」


「そうだな。」


フォレストも頷く。

攻略対象者は全部で五人。


アルベール殿下。

アッシュ。

フォレスト。


そして、まだ会ったこともない二人。


「本当に原作って始まるのかしら。」


私が首を傾げると、フォレストは即答した。


「始まる。」

「そんなに自信満々に言わなくても。」

「俺の記憶が正しければ、ゲーム開始はエレが十七歳になってからだ。」

「あと五年ね。」

「そうだ。」


まだ五年。

長いようで、きっとあっという間なのだろう。


「それまで何も起きなければいいんだけど。」

「俺もそう思うがそうはいかないだろうな」


フォレストは真面目な顔になる。


攻略対象者それぞれにとっての分岐点であるイベントがいつ起こるかわからないが、今のところ原作とは少しずつ違う未来を歩めている気がする。


このまま何事もなく進めば、それが一番だ。


普通に聖女アリアが誕生して更に世界が平和になる。それだけでいいのに。



アルベール殿下とは、あれから変わらず三か月に一度お会いしている。


婚約者として過ごす時間も、すっかり日常になった。


「それにしても。」


私は少し苦笑する。


「アルベール殿下、本当にお手紙がお好きよね。」


フォレストが吹き出した。


「まだ来るのか。」


「来るわ。」


最初の頃は手紙だけではなかった。


髪飾り。

焼き菓子。

花。

本。

魔道具。

ぬいぐるみ。


思い出しただけでも数え切れない。


さすがに申し訳なくなってしまい、


『今後はどうか、お贈り物はお気遣いなさらないでください。』


と何度もお願いした結果、ようやく贈り物は届かなくなった。


「良かったじゃないか。」


「そう思うでしょう?」


私はフォレストを見る。


「その代わり、お手紙の量が増えたの。」

「……。」


フォレストは空を見上げた。


「どういう理屈だ。」

「私にも分からないわ。」


最初は一週間に一通。

それが三日に一通になり。

今ではほとんど毎日のように届く。


『今日は庭の薔薇が綺麗に咲きました。』


『新しい魔道具を見つけました。』


『最近読んだ本がとても面白かったです。』


『ティアーナはもう暖かくなりましたか。』


どれも他愛ない内容ばかり。

それでも、読んでいると自然と頬が緩む。


「婚約者に対して、本当にまめな方なのね。」


私がそう言うと、フォレストは何とも言えない表情を浮かべた。


「……そういうことにしておこう。」

「?」


何か言いたげだったけれど、結局何も言わなかった。



「そういえば。」


私は話題を変える。


「アッシュも十九歳になったわね。」

「ああ。」


フォレストが頷く。


「少し前に、正式に魔術師団長へ就任した。」


十九歳。

歴代最年少での魔術師団長。


その知らせは王宮中で大きな話題になった。

普通なら何十年もの経験を積んだ魔術師が就く役職。

それを十九歳という若さで任されるなど、前例がない。


「本当にすごいわよね。」


私は素直にそう思う。


八歳の頃から知っているけれど、アッシュの魔法の才能だけは別格だった。


最年少で魔法塔へ入り、最年少で数々の功績を残し。

そして今、最年少で魔術師団長になった。

まさに天才。


その一言に尽きる。


「本人は全然嬉しそうじゃなかったけどな。」


フォレストが苦笑する。


「『面倒な仕事が増えただけだ。』って言ってたぞ。」


「ふふっ。」


思わず笑ってしまう。


確かにアッシュらしい。


彼が団長になって忙しくなった今でも、私は定期的に魔法塔へ通っている。


新しい魔道具の話を聞くのも好きだからだ。


忙しいと言いながらも時間を作ってくれるのだから、なんだかんだ優しい人なのである。


フォレストが再び口を開いた。


「最近はどうなんだ?」

「何が?」

「王女教育。」

「あぁ……。」


思わず遠い目になってしまう。


私が十歳になってから、本格的な王女教育が始まった。


礼儀作法。

政治。

外交。

歴史。


そして――将来嫁ぐことになるカナルド帝国についての勉強。


「思っていた以上に覚えることが多いのよ。」


私は小さくため息をつく。


「ティアーナとカナルドでは礼儀作法も少し違うでしょう?」

「ああ。」

「舞踏会での立ち位置や挨拶も少し違うの。」

「それは大変だな。」

「本当に。」


私は苦笑した。


「ようやく覚えたと思ったら、『カナルドではこちらが正式です』って教えられることもあるし。」

「頭が混乱しそうだ。」

「毎日混乱してるわ。」


思わず笑ってしまう。

でも、それも未来のため。

将来、カナルド帝国へ嫁ぐのであれば必要な知識だ。


だから文句を言うつもりはない。

……ただ。


「もし。」


私はぽつりと呟いた。


「アルベール殿下とアリアが結ばれるのなら。」


フォレストも静かに私を見る。


「私が今頑張って勉強していることは、全部必要なくなるのよね。」


カナルド帝国の礼儀。

皇族としての立ち居振る舞い。

皇太子妃として必要な知識。

全部。

全部、無駄になる。


「……そうなるな。」


フォレストは静かに頷いた。


「だから、早くアリアに会いたいのよね。」

「は?」


フォレストが素っ頓狂な声を上げる。


「普通そこは嫌がるところじゃないのか?」

「だって、アリアがアルベールと結婚するのなら早く現れて私の代わりにカナルド帝国のお勉強を頑張って欲しいわ」

「お前は本当に危機感がないな。」


フォレストは呆れたように笑った。


「そうかしら?」

「そうだ。」

「普通、自分の婚約者を奪うかもしれない相手を楽しみに待つ奴はいない。」

「そうかもしれないわね。」


アルベール殿下がアリアを好きになるのなら、それが運命なのだろう。


私はその邪魔をするつもりはない。


その時だった。


フォレストがふと空を見上げて言った


「まぁ、聖女アリアは最終的に攻略対象たちと一緒に魔王を倒すことになるからな。」

「……え?」


私は思わず足を止める。


「魔王?」

「あ。」


フォレストも足を止めた。


「そういえば。」


頭を掻きながら苦笑する。


「言ってなかったか。」

「いや、だいぶ重大なことじゃない?」


私は思わず声を上げた。


「そんな話、一度も聞いてない気がするんだけど。」

「……確かに。」


フォレストは少し考える。


「話したような、話してないような……。」

「すまん。」


「謝って済む話じゃないわよ。」


私は呆れてため息をついた。


「ってことは。」


嫌な予感がする。


「この世界には、いつか魔王が現れるってこと?」

「いや。」


フォレストは首を横に振る。


「現れる、じゃない。」

「?」

「原作では五百年ぶりに魔王が復活したって話だった。」

「復活?」

「つまり。」


フォレストは真っ直ぐ私を見る。


「今、この世界のどこかに魔王がいる可能性は十分ある。」

「…………。」


思わず言葉を失う。

さっきまでの平和な気分が、一瞬で吹き飛んだ。


「それなら……。」


私は小さく息を呑む。


「尚更、聖女アリアの覚醒は絶対に必要なのね。」

「ああ。」


フォレストは静かに頷いた。



「エレノーラ王女殿下、フォレスト様。」


その時だった。

後ろから聞き慣れた声がした。


振り返ると、侍女のマリーがこちらへ歩いてくる。


「お二人をお探ししておりました。」

「マリー?」

「陛下がお呼びです。」


お父様が?


私はフォレストと顔を見合わせる。


「何かあったのかしら。」

「さあな。」


フォレストも首を傾げる。


「とりあえず行くか。」

「ええ。」


私たちはマリーの案内で、お父様の待つ執務室へ向かった。



第二章の始まりです。

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