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ゲーム開始前に全部終わらせてしまいました ~悪役令嬢のはずが聖女になった王女の物語~  作者: ゆきまる


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家族だけの晩餐


私たちは大広間を後にし、王族だけが使う晩餐室へ向かった。


先ほどの煌びやかな大広間とは違い、晩餐室は落ち着いた雰囲気だった。


柔らかな灯りに照らされた室内の中央には、大きな楕円形の食卓が置かれている。


席に着くのは、お父様、お母様、お兄様、私、そしてアルベール殿下。


アルベール殿下の側近であるラグナル様も、賓客として少し離れた席へ案内されていた。


給仕が椅子を引く。


私は腰を下ろし、小さく息を吐く。


「やっと座れました……。」


思わず本音が零れる。


その瞬間、お母様がくすりと笑った。


「今日は一日頑張りましたものね。」

「はい……。」

「途中から少し疲れた顔をしていたぞ。」


お兄様が楽しそうに笑う。


「そうでしたか?」

「分かる者には分かる。」

「もう、お兄様。」


少し頬を膨らませると、お兄様は肩を竦めた。


「冗談だ。」

「最後まで立派な王女だったよ。」

「ありがとうございます。」


そう言われると少し照れてしまう。

すると、お父様も穏やかに頷いた。


「よく頑張った。」


その一言だけで、今日一日の疲れが少し軽くなった気がした。



「お待たせいたしました。」


給仕たちが温かな料理を運び始める。


先ほど大広間に並んでいた立食用の料理とは違い、こちらは出来立てを一皿ずつ提供する形式らしい。


ふわりと湯気が立ち上る。


「美味しそう……。」


思わず呟くと、お母様が微笑んだ。


「今日は朝からほとんど食べていないものね。」

「はい。」


私は素直に頷く。


「身支度が思った以上に時間が掛かってしまいました。」

「婚約発表会ですもの。」

「仕方ありませんわ。」


お母様も苦笑する。


「エレノーラ王女殿下。」


隣からアルベール殿下が声を掛けてきた。


「ようやくお食事ですね。」

「ええ。」


私は思わず笑ってしまう。


「実は、とても楽しみにしておりました。」

「そうでしょうね。」


アルベール殿下も笑う。


「先ほどから何度も料理をご覧になっていましたから。」

「気付かれていましたか。」


少し恥ずかしくなる。


「つい……。」

「お気持ちはよく分かります。」


アルベール殿下は優しく頷いた。


「私もティアーナのお料理を楽しみにしておりました。」

「では、お互い様ですね。」

「そうですね。」


自然と笑みが零れる。


婚約発表会の最中とは違い、ようやく肩の力を抜いて話すことができた。


「それでは。」


お父様がグラスを手に取る。


「改めて、アルベール殿。」

「本日は遠路はるばるありがとう。」

「そして、これからも娘をよろしく頼む。」


アルベール殿下も静かにグラスを持ち上げた。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


二人のグラスが軽く触れ合う。


私はその光景を見ながら、小さく微笑んだ。


「それでは、いただきましょう。」


お父様の言葉を合図に、ようやく食事が始まった。


私は目の前に運ばれた前菜へ視線を向ける。


彩り豊かな野菜に、薄く切られた魚介。


香草の香りがふわりと鼻をくすぐる。


一口いただく。


「……美味しい。」


思わず頬が緩んだ。


「お気に召しましたか?」


アルベール殿下が穏やかに尋ねる。


「ええ、とても。」


私は素直に頷いた。


「ティアーナとはまた違った味付けで、新鮮です。」

「こちらはカナルドの料理人が作った前菜です。」

「そうなのですね。」


だから少し香草の使い方が違うのか。


私はもう一口いただく。


「とても好きなお味です。」

「ありがとうございます。」


アルベール殿下が嬉しそうに笑う。


「殿下がお礼を言うことではありませんでしょう?」


思わず笑うと、アルベール殿下も笑った。


「確かにそうですね。」


「ですが、自分の国の料理を褒めていただけるのは嬉しいものです。」


「そのお気持ちは分かります。」


私も頷いた。


「ティアーナのお料理を褒めていただけると、私も嬉しいですもの。」

「では、お互い様ですね。」

「ええ。」


穏やかな空気が流れる。


婚約発表会の間はゆっくり話す時間などなかった。

こうして落ち着いて話せるのは初めてかもしれない。


次の料理が運ばれてくる。

私は目を輝かせながら料理へ手を伸ばした。


その様子を見ていたお母様が、小さく笑う。


「エレは、本当に美味しそうに食べるわね。」

「美味しいものは、美味しくいただくのが一番ですもの。」

「それはそうだ。」


お父様も笑う。


「見ているこちらまで嬉しくなる。」


そう言われると少し照れてしまう。



食事も半ばを過ぎた頃だった。


「そういえば。」


私はふと三か月前を思い出した。


「花祭り、とても楽しかったですね。」


アルベール殿下の表情が柔らかくなる。


「私も忘れられません。」

「街中がお花でいっぱいで、とても綺麗でした。」

「ええ。」

「子どもたちも楽しそうでしたね。」

「皆、花冠を被っていました。」


そう言うと、アルベール殿下が優しく目を細める。


「あの時いただいた花冠は、今でも大切にしております。」


思わず聞き返してしまった。


「まだお持ちなのですか?」

「はい。」


迷いなく頷く。


「私にとって、大切な贈り物ですから。」

「でも、生花でしたでしょう?」

「保存魔法を施しました。」

「保存魔法まで?」


そこまでするとは思わなかった。


私は少し考えてから、小さく笑う


「アルベール殿下は、花冠がお好きなのですね。」


一瞬だけ。

アルベール殿下の動きが止まった。


少し離れた場所でラグナル様が肩を震わせて笑っている気がする。なぜだろう。


「……そう、ですね。」


そして少し困ったように笑った。


「好きなのだと思います。」


そうなのね。


私は納得して頷いた。


「来年の花祭りでも、お作りしましょうか?」

「……よろしいのですか?」

「もちろんです。」


私は笑う。


「花冠でしたら、いくらでもお作りできますもの。」


アルベール殿下は、とても嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。」


その笑顔は、婚約発表会で見せていた王子としての笑顔ではなく、心から嬉しそうな自然な笑顔だった。


やっぱり。

こちらの笑顔の方が素敵だわ。


私はそう思いながら、デザートへ手を伸ばした。



食事も終わり、温かい紅茶が運ばれてくる。

ゆったりとした時間が流れていた。


「アルベール殿。」


お父様が穏やかに口を開く。


「今日は疲れただろう。」

「いえ。」


アルベール殿下は首を横に振る。


「とても楽しい一日でした。」

「それは良かった。」


お父様も満足そうに頷いた。


「次に会うのは三か月後だったな。」

「はい。」


アルベール殿下は静かに答える。


私は紅茶を一口飲みながら頷いた。


三か月なら、きっとあっという間だろう。


季節も変わっているはずだ。


「またお会いできる日を楽しみにしております。」


そう伝えると、アルベール殿下は優しく微笑んだ。


「私もです。」


今日一日、婚約発表会は本当に大変だった。


けれど。

こうして無事に終えることができて良かった。


私は満足しながら、最後の一口の紅茶をゆっくりと味わった。

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