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★毎日7時、21時に更新★王女エレノーラは婚約者の正体に気づかない ~悪役令嬢のはずが聖女になってしまいました〜  作者: ゆきまる


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悪役令嬢の気持ち

私はベッドの上に寝転がりながら天井を見上げた。


王女の部屋らしく、天蓋付きの大きなベッド。

白を基調とした家具。

壁には繊細な装飾が施され、窓辺には季節の花が飾られている。


前世の私が見たら、きっとお姫様の部屋だと騒いだだろう。


けれど今は違う。

見慣れてしまった。


前世の記憶を思い出してから数日。


そしてフォレストから、この世界がゲームかもしれないと聞かされてから二日。


この世界は『聖女アリアの奇跡』というゲームの世界かもしれなくて。


そして私は――悪役令嬢らしい。


「嫌ね」


改めて口にしてみても嫌だった。

悪役。

響きが良くない。


私は誰かをいじめた覚えもないし、これからもその予定はない。

それなのに悪役令嬢。

理不尽である。


「エレノーラ王女殿下」


侍女の声に顔を上げた。


「フォレスト様がお見えです」

「通してちょうだい」


しばらくして部屋へ入ってきたフォレストを見て、私はベッドから起き上がった。


窓の外では春の陽射しが庭園を照らしている。

穏やかな午後だった。


「座りなさい」

「命令か?」

「王女だから」

「便利な言葉だな」


ぶつぶつ言いながらもフォレストは向かいの椅子へ腰掛けた。


私は早速本題へ入る。


「フォレスト」

「なんだ」

「一つ聞きたいのだけれど」

「おう」

「そのゲームのエレノーラは馬鹿なの?」


フォレストが固まった。


数秒後。


「いや、そういう感想になるのか」

「だってそうでしょう?」


私は首を傾げる。


「婚約者を取られたからって人を殺そうとするのよ?」

「まあ……」

「普通はしないわ」

「それはそう」


フォレストも否定しなかった。

私は腕を組む。


「やっぱり馬鹿なのでは?」

「違うと思う」


珍しくフォレストは真面目な顔をした。

私は少し驚く。

彼がそんな顔をする時は大抵何か理由がある。


「どういうこと?」


フォレストは少し考えるように視線を落とした。


「たぶんだけど」

「うん」

「原作のエレノーラは追い詰められてたんだと思う」


私は黙って続きを待った。


「お前、婚約者がいるだろ」

「いるらしいわね」

「隣国の第一王子」

「王子様ね」


それだけで少し気が重くなる。

会ったこともないけれど。

何となく面倒そうだ。


「原作のお前は、その王子に一目惚れしたらしい」


私は思わず顔をしかめた。


「趣味が悪いわね」

「会ったこともない相手によく言うな」

「だって王子様よ?」

「お前も王女だ」

「それとこれとは別よ」


フォレストは諦めたようにため息をついた。


そして話を続ける。


「でも原作のお前は違った」

「ふむ」

「婚約者として認めてもらうために努力してた」


私は少し意外に思った。


原作の私はもっと傲慢な人だと思っていたからだ。


「王妃になるために?」

「ああ」

「そう」


王族は国のために生きる。

それは私も知っている。

生まれた時から教えられてきたことだ。


だから少しだけ。ほんの少しだけ。

原作のエレノーラに親近感を覚えた。


「でもそこにアリアが現れる」


私は黙る。

フォレストの声も少し低くなった。


「六百年ぶりの聖女」

「……」

「魔物が多い隣国にとっては喉から手が出るほど欲しい存在だ」

「それで?」

「国王陛下はアリアを養女にする」


私は思わず目を見開いた。


「お父様が?」

「ああ」

「どうして?」

「国益になるから」


言葉に詰まった。

反論できなかった。


だってそれは王として正しい判断だから。


「そしてアリアを隣国へ嫁がせる」


静かな部屋に沈黙が落ちた。

私は窓の外へ視線を向けた。

春風に花々が揺れ平和な光景だった。


もし、

もし本当にそんなことが起きたら。


好きだった婚約者を失い、王女としての価値を失い、

国のためと言われて、父にも反対されて、味方が誰もいなくなったら。


胸の奥が少しだけ苦しくなる。


「……少しだけ」


フォレストがこちらを見る。


「少しだけ、気持ちは分かるかもしれないわ」


フォレストは何も言わなかった。

私は小さく息を吐く。


「もちろん人を殺そうとは思わないけれど」

「だろうな」

「でも悲しいとは思うもの」


フォレストは静かに頷いた。


「俺もそう思う」


原作のエレノーラは悪人だったのだろうか。


それとも。

ただ不器用だっただけなのだろうか。

少なくとも今の私には分からなかった。

しばらくして私は顔を上げる。


「でも私はならないわ」

「何がだ?」

「悪役令嬢」


私は笑った。


「だって私はまだ婚約者を好きでもないもの」


フォレストが吹き出した。


「それはそうだな」

「それに」


私は少し考える。


ゲームの主人公。

聖女アリア。

どんな子かは知らない。


けれど。


「もし良い子なら仲良くなりたいわ」


私がそう言うと、フォレストは少しだけ考え込むような顔をした。


「仲良くなりたい、か」

「何よ」

「いや」


フォレストは頬杖をつく。


「もしそのアリアって子が俺たちみたいに前世の記憶を持ってたり、この世界がゲームだって知ってたりしたら面倒だなと思って」


私は思わず瞬きをした。

確かに。

前世の記憶持ちが三人になったら大変そうだ。


「その可能性もあるのかしら」

「分からない」


フォレストは肩を竦める。


「でもゼロじゃないだろ」


私は少し考えた。

そしてすぐに結論を出す。


「まあ、その時はその時よ!」

「お前らしいな」

「でしょう?」


だいたい悩んだところで仕方がない。

起きていない未来を心配するより、今を楽しんだ方がいい。


私はにっこり笑った。


「それに、もしアリアが王子を欲しいと言うなら熨斗を付けて差し上げるわ」

「は?」

「だって私は別に欲しくないもの」


フォレストは呆れた顔になった。


「まだ会ったこともないのにすごい言われようだな」

「王子様なんて面倒そうじゃない」

「それは偏見だ」

「そうかしら?」


私は首を傾げたのだった。


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