半年
アルベールデンカナの初対面から半年。
……と言っても。
正直なところ、あまり久しぶりという気がしない。
「エレノーラ様、お手紙が届いております。」
朝になると、マリーが手紙を持ってくる。
数日に一度は贈り物まで届く。
花。
焼き菓子。
本。
栞。
髪飾り。
季節の小物。
「また?」
思わず苦笑すると、マリーも困ったように笑った。
「アルベール殿下、本当に熱心でいらっしゃいますね。」
最初は驚いた。
だが、半年も続けば慣れてしまう。
「高価なお品ばかりですし、申し訳ないからもう送らなくて大丈夫です、とお返事したのだけれど。」
私は積み重ねられた箱を見つめる。
それでも止まらなかった。
『君に似合うと思ったので。』
『どうしても贈りたくなりました。』
そんな言葉と一緒に、また贈り物が届く。
「……本当に不思議な方よね。」
そこへフォレストが部屋へ入ってきた。
箱の山を見るなり、肩を竦める。
「また増えたのか。」
「ええ。」
「アルベール殿下、お前に相当惚れてるな。」
「違うわ。」
私は即座に否定した。
「婚約者だからでしょう?」
「婚約者だから毎日のように手紙を書く男なんて聞いたことないぞ。」
「そうかしら?」
私は首を傾げる。
「きっと真面目な方なのよ。」
フォレストは呆れたようにため息を吐いた。
「天然って恐ろしいな。」
失礼である。
でも、もし原作のエレノーラも、こんな風に毎日のように大切にされていたのだとしたら。
好きになってしまう気持ちも分からなくはない。
……いやよくわからない。
三か月前に再会した時は、王都でちょうど花祭りが開かれていて、一緒に城下を歩いた。
色とりどりの花に囲まれた街は、とても綺麗だった。
私は花を編み、即席の花冠を作る。
「はい。」
そう言ってアルベール殿下の頭へ乗せると、驚いたように目を丸くしていた。
思わず笑ってしまう。
「ふふっ、お似合いですわ。」
あの時のアルベール殿下は、本当に嬉しそうだった。
花冠くらいで、あんなに喜ぶなんて。
やっぱり少し不思議な方である。
そんなことを思っているうちに、季節は巡った。
そして今日。
婚約発表会の日。
「……重い。」
鏡の前で思わず本音が漏れる。
何枚もの布を重ねた豪華なドレス。
首元には宝石。
髪にも飾り。
歩くだけでも一苦労だ。
「エレノーラ様、本日だけは我慢してくださいませ。」
マリーが苦笑する。
「分かっているわ。」
分かっている。
王族として必要なことだというのも。
それでも重いものは重い。
早く終わらないかしら。
婚約発表。
挨拶。
貴族たちとの会話。
考えただけで少し気が重い。
でも、一つだけ楽しみなこともある。
「今日は晩餐会がありますよね?」
「はい。」
マリーが笑顔で頷いた。
「ティアーナとカナルド、両国の料理人が腕を振るわれるそうです。」
「それは楽しみだわ。」
思わず笑みがこぼれる。
普段食べられない料理が並ぶに違いない。
「エレノーラ王女殿下は、本当に変わりませんね。」
マリーが少し呆れている。
「そう?」
「婚約発表会より、お料理の方が楽しみだなんて。」
「大事なことでしょう?」
その時。
扉がノックされる。
「失礼いたします。」
侍女が一礼した。
「アルベール王子殿下がご到着されました。」
「そう。」
私は立ち上がる。
……そういえば。
三ヶ月ぶりのはずなのに、毎日のように手紙をやり取りしていたからだろうか。
不思議と、久しぶりという気がしなかった。
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