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ゲーム開始前に全部終わらせてしまいました ~悪役令嬢のはずが聖女になった王女の物語~  作者: ゆきまる


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幕間 恋煩いの王子

ティアーナ王国から帰国して三日。


私は執務室の机へ向かい、一枚の便箋を前に腕を組んでいた。


「……違う。」


書き終えた手紙を丸め、横へ置く。

もう何枚目か分からない。


「これでは堅すぎる。」


書き直す


「いや、こちらでは軽すぎるか……。」


また書き直す。


気付けば机の横には、丸められた紙が山のように積み上がっていた。


「アル。」


後ろから呆れた声が聞こえる。


「さっきから何時間書いてる?」


振り返ると、深い緑色の髪に黒い瞳を持つ青年が、腕を組んで立っていた。


ラグナル・ラインハルト。


ラインハルト公爵家の嫡男。


父親同士が主君と側近だった縁もあり、幼い頃から私の側近を務める唯一の親友だ。


「もう昼だぞ。」

「そうか。」

「そうか、じゃない。」


ラグナルは机の上を覗き込む。


「……何だこれ。」


丸められた紙の山。


「誰に書く手紙なんだ?」


私は少しだけ照れ臭くなりながら答えた。


「婚約者だ。」

「婚約者?」


ラグナルが瞬きをする。


「エレノーラ王女殿下へ。」


一瞬、部屋が静かになった。


「…………。」


ラグナルは私と便箋を交互に見つめる。


「……それだけ?」

「?」

「婚約者に送る手紙だろ?」

「そうだが。」

「そんな何十枚も書き直す必要あるか?」

「ある。」


即答だった。


ラグナルは額を押さえる。


「いや、ない。」

「ある。」

「いや、普通ない。」

「ある。」

「……。」


ラグナルは深くため息を吐いた。


「どうせアルなら、理由は何であれ相手はすぐ惚れるだろ。」


その言葉に、私は思わず眉をひそめた。


「ラグナル。」

「ん?」

「彼女は他の女性とは違う。」


部屋が静まり返る。


ラグナルはぽかんと口を開けた。


「……は?」


私は続ける。


「彼女は見た目や肩書きで人を判断しない。」


「…………。」


「贈り物一つとっても、本当に喜んでくれる物でなければ意味がない。」


「…………。」


「だから妥協はできない。」


「…………。」


ラグナルは数秒黙ったまま私を見つめた。


やがて。


「えっ。」


それしか言えなかった。


「お前……。」


私は首を傾げる。


「何だ?」


「まさか。」


ラグナルは信じられないものを見る目をした。


「お前……惚れて帰ってきたのか?」


その言葉を聞いた瞬間。


ティアーナでの日々が脳裏を過る。


パンナコッタを作ってくれたこと。


ポテトチップスを頬張りながら笑っていたこと。


魔法塔で目を輝かせていたこと。


自然と口元が緩む。


「……重症だ。」


ラグナルがぼそりと呟いた。


「自覚あるか?」


「ある。」


私は小さく笑った。


「私は彼女が好きだ。」


迷いはなかった。


ティアーナで、自分の気持ちにはもう答えを出している。


だからこそ。


この手紙一枚にも妥協したくなかった。


ラグナルは椅子へどさりと腰を下ろす。


「いやぁ……。」


頭を掻きながら苦笑した。


「十年以上一緒にいるが。」


「?」


「お前がこんな顔するの、初めて見た。」


「そうか?」


「ああ。」


ラグナルは笑う。


「これは面白くなってきた。」


「何がだ?」


「エレノーラ王女殿下。」


ラグナルは窓の外を見ながら呟いた。


「一体どんな女性なんだろうな。」


まだ会ったこともないアルベールの婚約者。


だが。


アルベールをここまで変えた女性。


その存在に、ラグナル・ラインハルトは純粋な興味を抱き始めていた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

初回投稿から半月経ったので一旦更新速度を落とさせてもらいます!毎日21時更新とさせていただけると嬉しいです。


ぜひブックマーク、リアクション、評価をお願いいたします!

していただいたら作者のモチベーションが上がります!

どうぞよろしくお願いいたします!(´∀`*)

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