魔法塔の見学②
「エレノーラ様!」
研究室の奥から、一人の研究員が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「あら、どうしたの?」
「先日ご提案いただいた魔力節約型の照明魔道具ですが、試作品が完成いたしました!」
「もうできたの?」
思ったより早い。
「ぜひご確認いただけないでしょうか」
「もちろん」
私はアルベールへ視線を向ける。
「少しだけお付き合いいただいてもよろしいですか?」
「あぁ、かまわないよ。」
研究員に案内され、私たちは研究室の一つへ入った。
机の上には拳ほどの大きさの魔石と、小さな金属製の魔道具が置かれている。
「こちらです」
研究員が魔力を流す。
すると、部屋全体が柔らかな光に包まれた。
「綺麗……」
思わず声が漏れる。
以前よりも光量は落ちていない。
それなのに消費魔力は半分ほどになっているらしい。
「成功ね」
「はい!エレノーラ様のご助言のおかげです!」
私は首を横に振る。
「私は少し意見を出しただけよ。形にしたのは皆さんでしょう?」
「それでも、大きなヒントになりました」
周囲の研究員たちも何度も頷いている。
アルベールはその様子を静かに眺めていた。
「他にも見ていただきたいものがあります」
別の研究員が前へ出る。
「こちらは農地で使う散水補助の魔道具です」
「こちらは治療時に魔力消費を抑えるための補助具になります」
次々と試作品が運ばれてくる。
ティアーナ王国では、魔道具は戦うためだけではない。
生活を豊かにし、人々の暮らしを支えるための研究が数多く行われている。
「やっぱり面白いわ」
私は思わず笑みを浮かべた。
「完成が楽しみね」
その言葉に研究員たちも嬉しそうに笑う。
「アッシュにも見せたいわ」
私がそう呟くと、研究員の一人が笑顔で頷いた。
「ええ。遠征から戻られたら、きっと驚かれます」
「ふふ、どんな反応をするか楽しみね」
研究に夢中になると周囲が見えなくなるアッシュの姿が目に浮かぶ。
きっと徹夜で改良を始めるのだろう。
その様子を想像していると、隣から優しい声が聞こえた。
「エレノーラ王女殿下」
「何?」
「君は本当に魔法が好きなんだね」
「ええ、大好きよ」
迷いなく答える。
「私自身は魔法を使えないけれど、だからこそ憧れるの」
魔法で生活が便利になる。
誰かが笑顔になる。
そんな魔道具を見ているだけで楽しい。
「だから皆さんの研究を見せてもらうのが好きなの」
アルベールは少しだけ目を細めた。
「……そうなんだね」
その声はどこか優しかった。
研究室を一通り見学し終えると、私は窓の外へ目を向ける。
いつの間にか日が傾き始めている。
「あら」
思ったより時間が経っていたらしい。
「そろそろ戻らないと」
「そうだね」
私たちは研究員たちへ挨拶を済ませ、魔法塔を後にした。
王女宮へ戻る道中。
「今日は本当にありがとう」
アルベールが穏やかに微笑む。
「図書室も歴史資料室も、とても興味深かった。それに、魔法塔まで案内してもらえるとは思っていなかったよ」
「楽しんでいただけたなら良かったですわ」
「もちろん」
その笑顔は、最初に会った時の王子らしい作った笑顔ではない。
自然で、心から楽しそうな笑顔だった。
(やっぱり)
私は思う。
(その笑顔の方がずっと素敵なのに)
本人は気付いていないのだろうか。
少し不思議だった。
「それでは」
「また」
アルベールは軽く一礼すると、護衛とともに王宮の客室へ向かって歩き出した。
私はその後ろ姿を見送り、自分も王女宮へ戻る。
明日からはまた普段通りの生活だ。
そう思いながら、私は静かに扉をくぐった
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