五人の攻略対象者
「多くないかしら?アリアは大変ね」
恋愛ゲームというものはよく分からないが、五人は普通なのだろうか。
一人でも十分面倒そうなのに。
「俺もそう思う」
フォレストも同意した。
「それで?」
私が続きを促す。
フォレストは指を一本立てた。
⸻
「まず一人目」
「アッシュ・ローズベル」
「うん。アッシュについては前聞いたから大丈夫よ。将来的にどっかの貴族に頼まれた魔道具を作っている途中で魔力暴走を起こして体が不自由になるのよね。そうならないように、今定期的に監視してるつもりよ。まぁそうなった時の対策をどうするかも考えないといけないんだけど。」
「そうだな。今のアッシュは15歳。原作開始時は24歳。それまで9年間の間に事は起こる。どうせエレは言っても止めると聞かないだろな。頼むから危ない事はするなよ。」
「危ないことはしないわ」
私の返答になぜかフォレストは溜息をついた。
⸻
「二人目」
フォレストが指を二本立てる。
「アルベール・ヴァン・カナルド」
「婚約者ね」
私はこの前の出来事を思い出す。
最初は王子様の見本みたいな人でちょっと胡散臭いなと思っていたけれど最後は案外子供らしいところもあるなという印象をうけた。
「こいつだけは最初から覚えてた」
「どうして?」
するとフォレストが露骨に嫌そうな顔をした。
「姉ちゃんが何回も攻略してた」
私は瞬きをした。
「そんなに?」
「ああ」
フォレストは遠い目をした。
「十回以上は見た」
私は引いた。
「暇だったのね」
「姉ちゃんがな」
フォレストはため息を吐く。
「公式サイトで発表されてたんだ」
「何が?」
「アルベールには溺愛執着エンドがあるって」
私は固まった。
「何その怖い名前」
「俺もそう思う」
フォレストも頷く。
「でも姉ちゃんは何回やっても辿り着けなかった」
「見られなかったの?」
「ああ」
フォレストは苦笑する。
「結ばれたとしても毎回優しい王子のまま終わる」
私は少し考えた。
婚約者を思い出す。
執着。
溺愛。
どちらも似合わない。
「想像できないわね」
「だろ?」
フォレストが即答した。
⸻
「三人目」
フォレストが指を三本立てる。
「名前は思い出せない」
「は?」
「でも見た目は覚えてる」
「赤髪」
「ふむ」
「顔に傷」
「ふむ」
「眼帯」
「ふむ」
「以上」
私は額を押さえた。
「名前は?」
「思い出せない」
「どこの国の人?」
「忘れた」
「役に立たないわね」
「しょうがないだろ」
フォレストが言い返す。
「姉ちゃん二、三回しか攻略してないんだ。俺はテレビを占領されて、ただ隣で見ているだけだったんだ。」
なるほど、だから曖昧なのか。
「でも騎士だったと思う」
「思う?」
「かなり強かった。騎士団長とかその辺じゃないか?」
それも曖昧だった。
「顔の傷が印象的だったんだよ」
フォレストは少し考える。
「アリアに傷を治してもらうイベントとかあったんじゃないか?」
「推測?」
「推測」
私は深いため息を吐いた。
⸻
「四人目」
フォレストが続ける。
「名前は思い出せない」
「また?」
「しょうがないだろ」
即答だった。
「どんな人だったの?」
「青髪」
「ふむ」
「緑の目」
「ふむ」
「よく喋る」
「ふむ」
「以上。」
「少なっ!」
私は思わず叫んだ。
「他には?」
「覚えてない」
「どこの国の人?」
「忘れた」
「身分や地位は?」
「たぶん。どっかの王子だった気がしなくも無い。」
「なにそれ!?」
しょうがないとはいえ、最後の二人に関しては曖昧すぎる。
「あと妹がいた気がする」
「気がする?」
「たぶん仲良かった」
「全部曖昧じゃない」
「だから困ってるんだ」
私は深いため息を吐いた。
⸻
「役に立たないわね」
「だから最初に言っただろ。隣で見てるだけだったって。」
フォレストは呆れたように言う。
「アルベール以外は姉ちゃん二、三回しか攻略してないんだ」
「確かにそれは覚えきれないかもしれないわ。まぁそれにしてもわからなすぎやしないかしら。」
「俺に言うな」
正論だった。
「でもまぁ」
フォレストは少し真面目な顔になる。
「思い出したからには一応お前の耳には入れといた方がいいと思った」
私は頷く。
それは確かにそうだ。
攻略対象者なら今後関わる可能性もある。
特徴を知っておいて損はない。
⸻
そこで私はふと気付いた。
「あれ?」
「ん?」
「今ので四人よね?」
私は指を折る。
アッシュ。
アルベール。
赤髪眼帯。
青髪のおしゃべり。
確かに四人だ。
「あと一人は?」
部屋が少し静かになる。
窓の外では鳥の鳴き声が聞こえた。
夕日もだいぶ傾いている。
フォレストは何とも言えない顔をした。
嫌そうな顔。
諦めたような顔。
恥ずかしそうな顔。
全部混ざった顔だった。
数秒後。
観念したように口を開く。
「俺だ」
私は固まった。
「……は?」
聞き間違えたかと思った。
もう一度フォレストを見る。
幼い頃から知っている顔だ。
今も目の前にいる。
どこからどう見てもフォレストである。
「俺」
フォレストが繰り返す。
「攻略対象」
私は数秒考えた。
「嘘でしょう?」
「俺も気づいた時そう思った」
フォレストは遠い目をした。
「結構早くに思い出したんだが言いたくなかった」
「えっ、待って。フォレストはアリアに惚れるの?」
「それは知らん。」
「まぁでもゲームの中のフォレストはアリアを好きになるのよね?それって....ちょっとなんか面白いわね」
私は肩を震わせて笑った。
フォレストが恨みがましい目で見てくる。
「ちなみに、フォレストはどんな感じでアリアに惚れるの?」
私は必死に笑いを堪えながら聞いた。
「...ゲーム中のエレノーラはアリアに嫉妬して幼馴染のフォレストを暗殺者として仕向けるんだ。フォレストは善人の顔をしてアリアに近づき仲良くなりアリアを殺すタイミングを伺う。その中で惚れていく感じだったと思う。」
「へぇ、まぁ私はアリアの暗殺なんか頼むことはないから、将来もし惚れたのならフォレストが自力で頑張ることね。」
「やめろ。」
前世からの幼馴染がまさかゲームの攻略対象者に転生するなんて、私としては面白すぎるのでぜひアリアと結ばれてほしいと思うのであった。
⸻
私は脱力するようにソファへ沈み込んだ。
攻略対象者五人。
婚約者。
変人魔導士。
赤髪眼帯。
青髪のおしゃべり。
そしてフォレスト。
「まぁ」
「今のところ二人しか会ってないもの」
「そうだな」
「なんとかなるでしょう」
フォレストが頭を抱えた。
「その考え方が一番怖いんだよ」
「大丈夫よ」
「根拠は?」
「勘」
「最悪だな」
⸻
窓の外では夕日がゆっくりと沈んでいく。
穏やかな時間だった。
少なくとも今は。
ゲームの未来も。
攻略対象も。
聖女アリアも。
まだ遠い話のように思えた。
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