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ゲーム開始前に全部終わらせてしまいました ~悪役令嬢のはずが聖女になった王女の物語~  作者: ゆきまる


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幕間 フォレスト・ヴァンス

俺は昔からエレに振り回されている。

前世からだ。



東條晴(とうじょう はる)

それが前世の俺の名前だった。


櫻井美央奈(さくらい みおな)

それがエレの名前だ。


出会ったのは小学校。

別に最初から仲が良かったわけじゃない。

ただ気付けば隣にいた。

気付けば世話を焼いていた。

気付けば振り回されていた。



「晴ー!」

「何だよ」

「ゲーセン行こう!」

「昨日も行っただろ」

「私が好きなキャラのフィギュアが発売されたの!」



こんな感じだった。


昔から行動力だけはあった。

思い立ったら止まらない。

考える前に動く。

本当に迷惑だった。


それでも、放っておけなかった。


妹みたいなものだったからだ。


実際は姉2人なので心のどこかで妹か弟が欲しかったのかもしれない。



そして。


あの日。


事故が起きた。



今でも夢に見る。


トラックの音。

悲鳴。

伸ばした手。

届かなかった指先。



俺は死んだ。

エレも死んだ。



そして、気付けばこの世界にいた。


最初に記憶を思い出した時。


正直ほっとした。

エレも生きていたからだ。


だから決めた。

今度こそ守る。


前世では守れなかった。

なら今世では守る。


それだけだった。


だが、問題がある。

エレは昔からエレだった。


「魔法塔行くわ!」

「待て」

「城下町行くわ!」

「待て」

「食堂で働くわ!」

「待て」


全部聞かない。

本当に聞かない。


ゲーム開始前だというのに好き放題やっている。

俺は正直不安だった。


ゲームには強制力があるかもしれない。


俺たちの存在は既に原作を壊し始めていると思う。


アッシュとも出会った。

食堂も始めた。

城下町にも出ている。


もし、もし本当に運命みたいなものが存在するなら。


その皺寄せはどこへ行く?

エレに来ないか?


それが怖かった。


だから止めたい。止めたいのだが。


「大丈夫よ!」

と言われる。


何が大丈夫なんだ。

俺が聞きたい。


そんなことを考えながら。

俺は今日も皿を運んでいた。


いや、何でだ?


「フォレストー!」

「何だ!」

「四番テーブルお願い!」

「何で俺なんだ!」


俺は食堂で働いている。


意味が分からない。


だが、少しだけ楽しい。


エレは昔からそうだった。

誰かを笑顔にする。


本人は気付いていないけどな。



その時だった。

店の扉が開く。


旅人が三人。

最初は気にしていなかった。


よくあることだ。


だが、声を聞いた。


「ありがとう」


足が止まる。


聞き覚えがあった。


俺はゆっくり振り返る。


黒髪。

青い瞳。

顔も違う。

雰囲気も違う。


だが


声。

骨格。

視線の逸らし方


騎士は人を見る。


相手の癖。

体格。

重心。


そういうものを覚える。


だから分かった。


嘘だろ


エレノーラの婚約者アルベール殿下だった。


何をしているんだ。


俺は思わず額を押さえた。


「エレ」

「なぁに?」


のんきな声だった。


俺はエレを店の隅へ連れていく。


「どうしたの?」

「お前な」

「何よ」

「どうするんだ」

「何を?」

「面倒なことになりそうだぞ」

「えっ、何かあったの?」


俺は固まった。


まさか、

「お前気付いてないのか」

「だから何を?」


俺はアルベール殿下を見る。

エレも見る。


そして、エレは不思議そうな顔をした。


まじか。

俺は天井を見上げた。


何で気付かないんだ。


昨日一番長く喋っていただろう。

城下町も歩いただろう。

輪投げもしただろう。


なのに、気付いていない。

本当に気付いていない。


俺は深いため息を吐いた。


「いや」

「何よ」

「もういい」

「よくないわよ」

「いいんだ」


説明する気力がなくなった。


そして思う。


俺は今世でも、こいつに振り回され続けるんだろうな。


そんな未来だけは、嫌になるほど想像できた。


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