変な旅人
翌日。
私は朝から食堂へ来ていた。
昼前だというのに店内は賑わっている。
以前の閑散としていた頃が嘘のようだった。
空席はほとんどない。
厨房では忙しそうに鍋の音が響き、おばあさんと息子さんも休む暇なく働いている。
私は思わず満足げに頷いた。
「順調ね」
「全部お嬢ちゃんのおかげだ」
息子さんが笑う。
私は首を横に振った。
「違うわ。美味しい料理を作るのはあなたたちだもの」
私は少し提案しただけだ。
本当に大変なのは毎日働く人たちである。
⸻
「エレ!」
厨房から声が飛んできた。
「三番テーブルお願い!」
「はーい!」
私はトレイを持って駆け出した。
最近はすっかり慣れている。
給仕も楽しい。
お客さんの反応を見るのが好きだった。
「ありがとう!」
「今日も美味しかったよ!」
「また来るからな!」
そんな言葉を聞くと嬉しくなる。
気付けば私はすっかりこの店の看板娘になっていた。
⸻
「エレ」
後ろから声がする。
振り返る。
そこには皿を運ぶフォレストがいた。
「何かしら」
「何かしらじゃない」
フォレストはため息を吐く。
「なんで俺まで働いてるんだ」
「手伝ってくれてありがとう。私1人でもいいのよ?」
「そういうわけにもいかないだろ。立場を考えろ」
「それは、申し訳ないわ。でも楽しくない?」
「まぁ悪くはないかもな」
お店は忙しいのだ。
人手はいくらあっても困らない。
⸻
その時だった。
入口の扉が開く。
「いらっしゃいませ!」
私は反射的に顔を上げた。
そして少しだけ首を傾げる。
見慣れない三人組だった。
旅人だろうか。
全員が簡素な旅装束を身につけている。
その中でも中央の青年が目を引いた。
黒髪。
青い瞳。
整った顔立ち。
年齢は十代半ばほど後ろには仲間らしい二人がいる。
冒険者ギルドのパーティにも見えた。
「三名様ですね?」
私は笑顔で近付く。
すると
青年が私を見たまま固まった。
「?」
どうしたのかしら。
数秒後、
青年が口を開いた。
「貴方はこちらで何を?」
私は瞬きをした。
変な質問だった。
見れば分かる。
「見ての通り、給仕として働かせていただいております」
私が答えると、青年はさらに固まった。
後ろの二人も何とも言えない顔をしている。
変な人たちね。
しばらくして、青年が咳払いをした。
「……すまない」
「はい?」
「変なことを聞いた」
「そうですね」
私は素直に頷いた。
本当に変だった。
「お席へご案内しますね」
私は笑顔で案内する。
青年は黙ってついてきた。
⸻
席へ案内し終える。
普通ならそこで終わりだ。
だが、何故か視線を感じる。
ちらりと見る。
黒髪の青年がこちらを見ていた。
目が合う。
すると何事もなかったように視線を逸らした。
変な人ね。
私は首を傾げた。
しばらくして、私は注文を取りに向かった。
「ご注文はお決まりですか?」
青年が顔を上げる。
近くで見るとやっぱり整った顔立ちをしている。
旅人には見えない。
どこか育ちの良さを感じる。
「おすすめは?」
青年が尋ねた。
言葉遣いもどこか上品だった。
私は胸を張る。
「オムライスです!」
「おむらいす?」
また知らない顔をされた。
当然である。
この世界にはないはずだった。
「人気なのよ」
「ではそれを」
「かしこまりました!」
⸻
私は厨房へ向かった。
やがて料理が完成する。
ふわふわの卵。
特製ケチャップ。
今日も綺麗に出来ていた、さすがだ。
私は満足しながら料理を運ぶ。
「お待たせしました」
青年の前へ皿を置く。
「こちらがオムライスになります」
「ありがとう」
青年が答えた。
そして少しだけ迷った後、
「……君はいつもここで働いているのか?」
と尋ねた。
私は首を傾げる。
「いつもではないですど、週三回くらいですかね?」
「そうか」
やっぱり変な人だ。
さっきから質問ばかりしてくる。
その時だった。
近くを通りかかったフォレストの足が止まる。
「……」
フォレストはゆっくりと振り返り固まった。
「……は?」
青年が一瞬だけこちらを見る。
その瞬間、何かを確信したようにフォレストは私を呼んだ。
「エレ」
低い声が飛んできた。
私は振り返る。
「なぁに?」
「ちょっと来い」
珍しい。
フォレストが真面目な顔をしている。
私は首を傾げながらフォレストの後を追った。
店の隅。
お客さんから少し離れた場所。
フォレストは額を押さえていた。
「どうしたの?」
「お前な」
「何よ」
「どうするんだ」
私は瞬きをした。
「何を?」
「面倒なことになりそうだぞ」
ますます意味が分からない。
私は店内を見回した。
お客さんは多い。
忙しい。
だがいつものことだ。
「えっ、何かあったの?」
フォレストは数秒黙った。
そして、
「お前気付いてないのか」
「だから何を?」
「……」
フォレストは黒髪の青年を見る。
私はつられてそちらを見る。
青年は普通にオムライスを食べていた。
変な人ね
それ以外の感想はない
フォレストは深いため息を吐いた。
「いや」
「何よ」
「気づいてないならもういい」
「よくないわよ」
「いいんだ」
絶対に何かある。
だが忙しいので追及は後だ。
私は肩を竦めて仕事へ戻った。




