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★毎日7時、21時に更新★王女エレノーラは婚約者の正体に気づかない ~悪役令嬢のはずが聖女になってしまいました〜  作者: ゆきまる


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前世の幼馴染

私は木登りが好きだ。


もちろん、お父様もお母様も、お兄様も反対する。

フォレストに至っては毎回止める。


それでも好きなものは好きなのだから仕方がない。

私は木の上から見える景色が好きなのだ。


王城の庭園。

遠くに広がる城下町。

市場を行き交う人々。

小さく見える家々。

風に揺れる木々。


ここから見下ろす景色は、まるで一枚の絵画みたいだった。


そして何より、私はこの景色を見るたびに思う。

この国が好きだ、と。


「フォレストー!」


私は太い枝の上に腰掛けながら下を見下ろした。

初夏の風が髪を揺らす。

太陽の光が暖かい。

最高である。


しかし地上では、案の定フォレストが難しい顔をしていた。


「エレ! 降りろ!」

「嫌よ!」

「王女が木登りするな!」

「王女だからこそよ!」


意味が分からない、と言いたげな顔をされた。


失礼な。


私はティアーナ王国第一王女、エレノーラ・フォン・ティアーナ。


現在五歳。


将来は立派な王女になる予定である。


だからといって木登りをしてはいけない理由にはならない。

むしろ王女だからこそ、自分の国を自分の目で見たい。


そう思うのだ。


「ほら見て! こんなに高いわ!」


私は枝の上で両手を広げた。


眼下には王城の庭園が広がっている。

噴水も花壇も小さく見える。


「見てるから降りろ!」

「大丈夫よ!」

「その台詞を信用できた試しがない!」


フォレストは心配性なのだ。


少しくらい信じてくれてもいいと思う。

私は得意げに胸を張った。


そして、その瞬間だった。

足元から嫌な感触が伝わる。


ぱきっ。


乾いた音。

小さな音だった。

けれど私にははっきり聞こえた。


「あ」


嫌な予感がした。


けれど時すでに遅し。

視界が傾き、足元から枝が消える。

体がふわりと宙へ浮いた。


葉の隙間から覗く青空がやけに綺麗だった。


次の瞬間には地面が近づいてくる。


まずい。

これ、痛いやつだ。


「エレノーラ!」


フォレストの叫び声が聞こえた。


地面を蹴る音。

必死な表情。

両手を広げて走ってくる姿が見える。


無茶だ。

七歳のフォレストに私を支えられるはずがない。


そう思ったのに。


どんっ!


激しい衝撃が全身を襲った。

息が詰まる。


頭がくらくらする。

背中も腕も痛い。


「いたた……」


思わず涙目になる。


どうやら生きているらしい。

私は恐る恐る顔を上げた。


下敷きになっているフォレストも顔をしかめている。


「フォレスト!ごめん!!」


慌てて起き上がる。


「大丈夫!?」

「……たぶんな」


顔を歪めながら返事が返ってきた。


良かった。

本当に良かった。


そう安堵した瞬間だった。

頭の奥で何かが弾けた。


世界が揺れる。

知らない景色が流れ込んでくる。


ゲームセンター。

眩しいネオン。

クレーンゲーム。

制服姿の学生たち。

放課後の帰り道。

笑い声。

信号機。


車のライト。

急ブレーキ。


誰かの叫び声。


『美央奈!』


その名前を聞いた瞬間。

体が大きく跳ねた。


知らない名前ではない。

知っている。

ずっと知っていた。

忘れていただけだ。


だってそれは――


櫻井美央奈。


私の名前だから。


「っ……!」


息が苦しい。

頭が痛い。

けれど不思議と怖くはなかった。


失われた何かが戻ってくる。

空っぽだった場所に、ぴたりとはまっていく。


私はエレノーラで。


同時に櫻井美央奈でもある。

二つの記憶がゆっくりと混ざり合っていく。


ふと目の前を見る。

フォレストが呆然とこちらを見ていた。


その顔はどこか見覚えがあった。


驚いた時の顔。

困った時の顔。

前世で何度も見た顔。

私は恐る恐る口を開いた。


「……晴?」


フォレストの体がびくりと震えた。


「え……?」


その反応だけで十分だった。


胸がどくんと鳴る。


私は震える声でもう一度呼んだ。


「東條晴……?」


フォレストの目が大きく見開かれる。


信じられないものを見るような顔だった。

きっと私も同じ顔をしていたと思う。


長い沈黙の後。

彼はかすれた声で言った。


「……美央奈?」


胸の奥が熱くなる。


やっぱりだ。


私だけじゃない。

フォレストも思い出したのだ。

自分が日本で生きていたことを。

私たちが幼馴染だったことを。


そして――。


二人でゲームセンターで遊んだ帰り道、交通事故で死んだことを。


「本当に晴なの?」

「ああ……たぶん」

「たぶんって何よ」

「だって信じられないだろ」


それはそうだ。

私だって信じられない。


だって私たちは死んだはずなのだから。

なのに今、こうして生きている。


王女と公爵家の子息として。

まるで別人になったみたいに。


「ねえ、晴」

「なんだ」

「私たち……死んだのよね?」


晴は少しだけ空を見上げた。

さっきまで綺麗だと思っていた青空は、どこか遠く感じた。


「……そうだな」

「じゃあなんで生きてるのかしら」

「知らない」


即答だった。

私は思わず吹き出した。


「何よそれ」

「俺が聞きたい」


そう言って、晴も少しだけ笑った。

前世と変わらない笑い方だった。


その笑顔を見た瞬間、不思議と安心する。

知らない世界。

知らない人生。

それでも。


前世から知っている人がここにいる。

その事実だけで、少しだけ心強かった。


その時の私たちはまだ知らない。

この世界が何なのか。

私たちがどんな運命の中にいるのか。

何一つ知らなかったのだ。

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

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