城下町の1日①
庭園を歩いている最中。
私は真剣に考えていた。
肉じゃがか。
コロッケか。
いや。やはり。
「そうね。次は唐揚げにしましょう」
ぽつりと呟く。
「からあげ?」
隣から声がした。
私は固まる。しまった。
声に出ていた。
アルベールが首を傾げている。
「唐揚げとは何でしょうか」
「え?」
「今おっしゃっていましたよね」
まずい。
非常にまずい。
前世料理である。
説明が面倒だ。
「その……」
私は咳払いをする。
「新しい料理ですわ」
嘘ではない。たぶん。
「料理ですか」
アルベールが興味深そうに微笑む。
「エレノーラ王女殿下は、ご自身で料理をなさるのですか?」
私は少し考えた。隠すほどでもない。
「まぁ、少しくらいは」
するとアルベールの目が少しだけ細められた。
「それは興味深いですね」
嫌な予感がした。
返答を間違えた気がする。時間を巻き戻したい。
「一ヶ月も滞在するのです」
アルベールは穏やかに続ける。
「せっかくですから、一度くらい王女殿下のお料理を頂いてみたいものです」
私は固まった。
何を言っているのだろう。
王子様とはこんなことを言う生き物だっただろうか。
「そうですね。まぁ機会がありましたら」
私は満面の笑みで言った。
そして即座に話題を変える。
「ところで、そろそろ戻りませんか?」
アルベールが瞬きをした。
「まだ来たばかりですが」
そうだった。
私は空を見上げる。
助けてほしい。
誰か。
もちろん誰も助けてくれない。
遠くではフォレストが面白そうにこちらを見ていた。
裏切り者である。
するとアルベールがふと口を開いた。
「よろしければ昼食の後、城下を案内していただけませんか」
私は固まった。
城下。
今。
城下と言った。
午後くらいゆっくりさせて欲しい。
そうか。今日は殿下が来るから礼儀作法の授業がお休みだったのか。ただの休みだと思って浮かれていたのに。
「でしたら」
私は即座に言った。
「私の騎士がおります」
遠くにいるフォレストを指差す。
「彼が詳しいので」
完璧である。
しかし。
アルベールは微笑んだ。
「王女殿下ご自身に案内していただきたいのです」
嫌な予感がした。
「フォレストも優秀ですわ」
「存じております」
「彼の方が詳しいかと」
「王女殿下ほどではないでしょう」
「そんなことは」
「ぜひお願いしたい」
笑顔だった。
笑顔なのに。
逃げ道がない。
私は気付いた。
この人、意外と強い。
「……分かりました」
負けた。
⸻
昼食後。
私はアルベールと共に城下町へ来ていた。
もちろん護衛付きである。
フォレスト。
侍女たち。
アルベール側の護衛たち。
少しだけ離れた場所から見守っている。
城下町へ足を踏み入れると、人々が私たちに気付いた。
「あれは……」
「エレノーラ王女殿下だ」
「なんと可愛らしく、お美しい。将来安泰だな」
ざわりと人々が道を開ける。
私は小さく微笑んだ。
すると近くにいた果物屋の店主が頭を下げる。
「エレノーラ王女殿下。本日はお越しいただきありがとうございます」
「こんにちは」
私は立ち止まった。
「商売は順調ですか?」
店主は少し驚いた顔をした。
「はい。おかげさまで」
「それは良かったわ」
私がそう言うと、店主は嬉しそうに笑った。
少し進む。
今度は子供たちがこちらを見ていた。
私が手を振ると、
「王女殿下だ!」
「お姫様だー!」
と元気よく手を振り返してくる。
とても可愛らしい。私は思わず笑った。
その様子を見ていたアルベールが言う。
「随分慕われているのですね」
私は首を傾げた。
「そうかしら?」
「はい」
アルベールは周囲を見渡す。
人々の表情は明るい。
恐れているわけではない。
媚びているわけでもない。
自然な敬意だった。
「お父様が良い国を作ってくださっているからだと思うわ」
私はそう答えた。
本当は1話のつもりでしたが、思いの外長くなったので2話分けさせてもらいます!
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