最初のお客様
オムライスを教えてから数日後。
私は食堂のテーブルに頬杖をついていた。
店内には客がいない。
昼時だというのに。
見事なくらいに。
いない。
「暇ね」
「そうだな」
フォレストが即答した。
窓際の席ではおばあさんがため息を吐いている。
厨房では息子さんが食器を磨いていた。
オムライスは好評だった。
味には自信がある。
実際、おばあさんも息子さんも絶賛していた。
なのに。
「誰も食べに来ないわ」
私は呟いた。
「そもそも客が来ないからな」
フォレストが言う。
それが問題だった。
新しい料理を作ったところで、食べる人がいなければ意味がない。
⸻
「ビラを配る?」
私は提案した。
「新作料理あります!って」
息子さんが困ったように笑う。
「それで来てくれりゃ苦労しないんだけどな」
確かに。
私だって知らない料理があると言われても少し警戒する。
ましてお金を払うならなおさらだ。
「そうよねぇ」
私は腕を組んだ。
どうしたものか。
その時だった。ふと私は思い出す。
「そういえば」
おばあさんが顔を上げる。
「何だい?」
「この前、荷車を助けてくれた人たち」
おばあさんが目を丸くした。
「ああ」
「何人くらいいたかしら」
「十人くらいかねぇ」
私はにやりと笑った。
⸻
翌日。
食堂にはいつもより多くの人が集まっていた。
この前、荷車を助けてくれた人たちである。
「今日はありがとうねぇ」
おばあさんが頭を下げる。
「お礼なんて気にしなくていいのに」
「そうそう」
皆が笑う。
良い人たちだった。
私は少し離れた席から様子を見守る。
そして料理が運ばれる。
いつもの人気料理。
スープ。
パン。
煮込み料理。
その中に。
一皿だけ。
オムライスが混ざっていた。
⸻
「あれ?」
一人の男性が首を傾げる。
「見たことない料理だな」
「新作だよ」
おばあさんが笑う。
「試作品なんだ」
息子さんも続けた。
「よかったら感想を聞かせてくれ」
男性は興味深そうにオムライスを見る。
そして一口。
⸻
沈黙。
私は少し緊張した。
まずかっただろうか。
そう思った瞬間。
「うまい!」
男性が声を上げた。
⸻
それを聞いた周囲の人たちも食べ始める。
「本当だ」
「なんだこれ」
「卵が柔らかい」
「中のご飯も美味いな」
「子供が好きそうだ」
「いや俺も好きだぞ」
あちこちから声が上がる。
私は思わず拳を握った。
成功である。
⸻
帰り際。
男性の一人が言った。
「今度は家族も連れて来るよ」
「俺も」
「うちの嫁が好きそうだ」
「明日また来る」
おばあさんと息子さんが驚いた顔をする。
私は少しだけ胸を張った。
⸻
数日後。
食堂には以前より人が増えていた。
「あれが噂のオムライスか」
「売り切れる前に頼もう」
「子供が食べたいってうるさくてな」
そんな声が聞こえてくる。
店内は以前よりずっと賑やかだった。
おばあさんも笑っている。
息子さんも忙しそうに動いている。
私はその光景を見ながら満足げに頷いた。
「よかったわ」
「そうだな」
フォレストも珍しく素直に頷いた。
私は窓の外を見る。
口コミ。
前世では当たり前だったもの。
けれど人の口から人へ伝わる力は、この世界でも同じらしい。
その時。
「次は何を作るんだ?」
息子さんが尋ねた。
私はにっこり笑った。
「任せなさい」
前世の料理は、まだまだたくさんあるのだから
次回、いよいよ、王子登場です!
お待たせしました(o^^o)
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