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★毎日7時、21時に更新★王女エレノーラは婚約者の正体に気づかない ~悪役令嬢のはずが聖女になってしまいました〜  作者: ゆきまる


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城下町の小さな食堂


休日だった。

勉強も礼儀作法も休みの日。


つまり自由である。


まだ8歳なので王女教育を隙間なく詰められることはないが基本的に毎日半日はお勉強である。

そのためこんな日は珍しく、最高の日だ。


「行くわよ」


朝食を終えた私は勢いよく立ち上がった。


向かいに座っていたフォレストが嫌そうな顔をする。


「どこへ」

「魔法塔」

「知ってた」


知っていたなら聞かなければいいのに。

私は上機嫌で部屋を出た。



魔法塔へ着くと、私は迷うことなく最上階近くの研究室へ向かった。


もう道も覚えている。


階段を駆け上がり、目的の扉の前へ立つ。


ローズベル・アッシュ。


そう刻まれた金属板を見て、私は満足そうに頷いた。

そして扉へ手を伸ばす。


すると。


「……帰れ」


中から声がした。

私は固まった。

まだノックしていない。


「何で分かるのよ!?」


思わず叫ぶ。

扉の向こうから小さなため息が聞こえた。


「足音」


なるほど。

私は感心した。


フォレストは感心するなという顔をしていた。



研究室へ入る。

相変わらず本だらけだった。


本棚にも本。

机にも本。

床にも本。


昨日から増えている気さえする。

よく雪崩が起きないものだ。


「おはようアッシュ」

「……」


返事はない。

私は気にしない。

慣れた。



しばらくして私は昨日見た翻訳魔道具を見つけた。


透明な水晶。

淡い光を放っている。


「ねえ」

「何だ」

「昨日の話だけど」


アッシュの手が止まる。

少しだけ興味を持ったらしい。


私はにやりと笑った。


「他国語翻訳の魔道具」

「……」

「完成したら便利だと思わない?」


アッシュは顎へ手を当てた。


「便利だ」

「でしょう?」


私は胸を張る。すると


「お前がすごいわけじゃない」


即座に言われた。


「ひどい」

「事実だ」


ひどい。本当にひどい。



それでもアッシュは考え込んでいた。


机の上の紙へ魔法陣を書いている。

何やら計算を始める。


私はその様子を興味深く眺めた。


凄い。楽しそうだ。

研究している時だけ少し雰囲気が変わる。


帰れしか言わない人なのに。


「面白いわね」


私が呟くと、アッシュはちらりとこちらを見た。


「何が」

「あなた」


数秒。


沈黙。


そしてー


「帰れ」


私は吹き出した。



昼前。

迎えの騎士がやってきた。


「お時間です」

「もう?」

「はい」


私は不満そうに頬を膨らませた。

まだいたい。

もっと見たい。


だが午後は別に行きたいところもあるし、

久しぶりの休日なのだ。


「また来るわね」


私は扉へ向かいながら言った。


「来るな」


返ってきた。

でも昨日より少しだけ声が柔らかかった気がする。

たぶん気のせいだろう。


午後。


私は変装した姿で城下町を歩いていた。


茶髪のおさげに茶色瞳。

白いブラウスに薄い黄色のスカート。


どこにでもいる平民の少女。

もちろん隣には同じく変装したフォレストがいる。


「本当に休みの日くらい大人しくできないのか」


フォレストが呆れたように言った。


「無理ね」


私は即答した。


城下町は楽しい。

石畳の道。

露店から漂う焼きたてのパンの香り。

行き交う人々の笑い声。

王城の中では味わえない活気がある。


私はこの場所が好きだった。


屋台で鳥の串焼きを食べ一息ついていた

その時だった。


がたんっ!


「あらまっ!」


大きな音に私は振り返った。


坂道を上っていた荷車が大きく傾いている。

年配の女性が慌てて持ち手を掴んでいた。


車輪が石畳の隙間に引っかかり、積まれていた荷物が次々と崩れ落ちていく。


人参。

玉ねぎ。

芋。


通りのあちこちへ散らばっていく。


「危ない!」


私は思わず駆け出した。


「エレ!」


後ろからフォレストの声が聞こえる。

けれど止まらない。

目の前でおばあさんが困っているのだ。

放っておけるわけがない。


「フォレスト!」


私は叫んだ。


「お願い!」


フォレストが盛大に顔をしかめる。


「やっぱりか!」


そう言いながらも、すでに走り出していた。


荷車へ飛びつく。

ぎしり、と木が軋む音がした。


十歳になったフォレストは同年代の子供より頭一つ大きい。


毎日騎士の訓練を受けているだけあって力も強かった。


傾いた荷車を両腕で支える。


「っ……!」


坂道で踏ん張る姿は年齢以上に頼もしく見えた。

おばあさんが目を丸くする。


「坊や!?」

「今のうちに荷物を!」


フォレストが叫ぶ。


「分かったわ!」


私は慌てて転がった野菜を拾い始めた。


石畳の隙間へ入り込んだ人参を引っ張り出す。

転がった玉ねぎを追いかける。

袋から飛び出した芋を抱える。


思ったより大変だった。

野菜は意外と転がるらしい。


「そっちは任せた!」

「こっちにもあるわ!」

「坊や!俺も支えるぞ!」


通りを歩いていた人たちも手伝い始めた。


「お嬢ちゃん、これもだ!」

「ありがとう!」


私は野菜を抱えながら走り回る。

気付けば額に汗が滲んでいた。



しばらくして、

全ての荷物を回収し終えた。


フォレストもようやく荷車から手を離す。


「ふぅ……」


私は息を吐いた。


おばあさんは何度も頭を下げている。


「助かったよ。本当に助かったよ」


皺だらけの顔がほっと緩んだ。


「怪我はない?」


私が尋ねると、おばあさんは何度も頷いた。


「大丈夫さ」


そう言った後、困ったように笑う。


「この荷物を駄目にしたら大損するところだったよ」


私は首を傾げた。


「お店をやっているの?」

「小さな食堂さ」


おばあさんは荷車を見ながら答えた。


「昔は賑わっていたんだけどねぇ」


その声は少し寂しそうだった。


「最近は客も減っちまって」


私は思わずフォレストと顔を見合わせる。


「食堂?」

「そうさ」


おばあさんは笑った。


「助けてもらったお礼に何かご馳走したいんだけどね」


私はぱっと顔を上げた。

食堂。

つまりご飯である。


「行くわ!」


即答だった。

フォレストが頭を抱えた。


「お前はもう少し警戒心を持て」



案内された食堂は城下町の端にあった。

木造の小さな建物。

看板は少し色褪せている。


店内は綺麗だった。

掃除も行き届いている。


けれど、誰もいなかった。


昼時を少し過ぎているとはいえ、客が一人もいない。


私は少し驚く。


「本当に誰もいないのね」


思わず口から漏れた。

おばあさんが苦笑する。


「正直、もう店を畳もうかと思っていてねぇ」


奥から一人の男性が顔を出した。

三十代くらいだろうか。

優しそうな顔をしている。


「母さん、帰ってきたのか」

「あぁ、この子らに助けてもらったんだよ」


事情を聞いた男性は深々と頭を下げた。


「ありがとう。坊やとお嬢ちゃん」

「気にしないで」


私が答えると、男性は少しだけ笑った。


「お礼に何か食べていってくれ」



しばらくして料理が運ばれてきた。

私はスプーンを手に取る。


一口。


そして目を丸くした。


「美味しい」


本当に美味しかった。

優しい味だ。


王城の豪華な料理とは違う。

けれど心が温かくなる。


フォレストも静かに頷いている。


「普通に美味いな」

「でしょう?」


おばあさんが嬉しそうに笑った。

私は不思議だった。


これだけ美味しいのに。

どうして客が来ないのだろう。


そう考えながら食事を続ける。

その時だった。


ふと前世の記憶が蘇る。


オムライス。

ハンバーグ。

親子丼。

カレー。


日本で食べていた料理たち。

私は顔を上げた。


「そういえば」


フォレストが嫌な顔をする。


「何だ」

「この世界にない料理があるわ」

「始まったな」


失礼である。

私は真面目だ。


「ねえ」


料理人の男性を見る。


「新しい料理を作ってみない?」


男性が首を傾げた。


「新しい料理?」

「ええ」


私は頷く。


「この世界では見たことがない料理よ」


おばあさんと男性が顔を見合わせる。


当然である。

怪しい。

私でも怪しいと思う。


「お嬢ちゃんが料理できるのかい?」


おばあさんが不思議そうに尋ねた。


「できるわ」


正確には前世の知識だけれど。


「週に二、三回なら教えられると思うの」


今度は男性が困ったように笑った。


「いや……気持ちは嬉しいんだけどな。お嬢ちゃん、何歳だい?」

「八歳」

「だよなぁ……」

「でも本当に美味しい料理なのよ」


私は身を乗り出した。


「それに私はこのお店が気に入ったの」


店内を見回す。

木の机。

磨かれた床。

優しそうなおばあさん。

真面目そうな料理人。


私はこういう場所が好きだった。


「なくなったら嫌だもの」


二人が少し驚いた顔をする。


「あと、このお店で働いてみたいわ」

「は?」


フォレストが真っ先に反応した。


「何よ」

「何よじゃない」


額を押さえている。

いつものことだ。


「お前、自分の立場分かってるか?」

「分かっているわ」


私は頷いた。


「でも面白そうじゃない」

「理由がそれか」


失礼である。重要な理由だ。


すると料理人の男性が困ったように頭を掻いた。


「いや、お嬢ちゃん……」

「何?」

「さっきから気持ちは嬉しいんだけどな」


その表情はどこか申し訳なさそうだった。


「うちは今こんな状態だろ?」


店内を見回す。確かに客はいない。

一人も。


「正直、かなり厳しいんだ」


息子は苦笑した。


「働いてもらったとしても給金は出せないかもしれない」


おばあさんも小さく頷く。


「むしろ手伝わせておいてお金も払えないなんて申し訳ないくらいさ」


私は瞬きをした。

なるほど。

そういう心配か。


「別にいらないわよ?」


私があっさり答えると二人は固まった。


「え?」

「だって働いてみたいだけだもの」


前世でもお店屋さんごっこは好きだった。

実際のお店は初めてだけれど。


少し楽しそうだと思ったの。


「それに、お客さんがどんな顔でご飯を食べるのか見てみたいの」


美味しいと言われた時の顔。

嬉しそうな顔。

そんなものを見てみたかった。


「料理を作るだけじゃ分からないでしょう?」


おばあさんと男性は顔を見合わせる。

そして少しだけ笑った。


「変わったお嬢ちゃんだねぇ」

「よく言われるわ」

「自覚あるのかよ」


後ろでフォレストが呟く。

もちろん聞こえている。


「あるわ」


私は胸を張った。


「だからお父様たちを説得するの」

「待て」


フォレストが即座に止める。


「何よ」

「まず許可が下りる前提で話を進めるな」


私は少し考えた。

そして結論を出す。


「大丈夫よ」

「何がだ」

「きっと何とかなるわ」


フォレストは天井を見上げた。

ものすごく疲れた顔だった。


「その台詞が一番信用できないんだよな……」

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

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どうぞよろしくお願いいたします!(´∀`*)

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