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★毎日7時、21時に更新★王女エレノーラは婚約者の正体に気づかない ~悪役令嬢のはずが聖女になってしまいました〜  作者: ゆきまる


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研究室

「帰れ」


扉の向こうから聞こえてきた声に、私は思わず吹き出した。


やっぱり面白い。


「帰らないわ」


私は即答した。

隣でフォレストが呆れている。


「エレ」

「何?」

「帰ろう」

「嫌よ」


私は扉を見つめる。

ここまで来て帰る理由がない。

だって私はまだ研究室を見ていないのだ。


「アッシュ」

返事はない。


「開けるわよ」

返事はない。


「返事がないから開けるわね」

「帰れ」


六回目だった。


私は満面の笑みを浮かべる。


「失礼します!」


そう言って扉を押し開いた。



次の瞬間。私は思わず目を見開いた。


「わぁ……」


研究室だった。まさに研究室だった。


広い部屋の中には本棚が並び、その全てが本で埋まっている。


机の上にも本。椅子の上にも本。

私は部屋の中を見回した。


すると机の上に置かれた奇妙な魔道具が目に入る。


透明な水晶だった。

淡く光を放っている。


「何これ?」


私が指差すと、アッシュが顔も上げずに答えた。


「翻訳魔道具」

「翻訳?」


私は思わず身を乗り出した。

どうやら魔道具に関することは答えてくれるらしい。


「古代文字を現代語へ変換する」

「えっ」


私は固まった。

もう一度魔道具を見る。

そして、もう一度アッシュを見る。


「本当に?」

「本当だ」

「全部?」

「全部ではない」


アッシュは少しだけ眉をひそめた。


「古代語の資料を学習させている途中だ」

「すごいじゃない!」


私は目を輝かせた。現在、私は王女として古代語の勉強をしている。王族は古い文献を読む機会も多いからだ。


正直に言おう。

難しい。

とても難しい。

眠くなる。

ものすごく眠くなる。


「これがあれば勉強しなくていいじゃない!」


私が叫ぶと、隣にいたフォレストは呆れた顔をした。


「駄目だろ」

「どうして?」

「自分で読め」


正論だった。だが納得はできない。


「便利なのに」


私はぶつぶつ言いながら魔道具を眺める。


そして、ふと一つの考えが浮かんだ。


「ねえアッシュ」

「何だ」

「これって応用できない?」


アッシュの手が止まる。


「応用?」

「ええ」


私は前世の記憶を辿りながら説明する。


「文字じゃなくて言葉」

「言葉?」

「例えば」


私は両手を広げた。


「そうね、大陸で1番難しい言語とされるリタ語ってあるじゃない?大陸の北西部出身の人が話す言葉よ?わかるかしら?そこの出身の人が話した言葉をそのままティアーナ王国の言葉に変換して話してくれるの」


部屋が静かになった。


アッシュが初めてこちらを見る。

黒い瞳がじっと私を見つめていた。


「続けろ」


私は少し嬉しくなった。興味を持ったらしい。


「逆もできるわ」


私は説明を続ける。


「こちらが話した言葉を、相手の国の言葉に変換して発声するの」

「……」

「そうしたら他国語を覚えなくても会話できるでしょう?」


アッシュは黙り込んだ。


考えている。

すごく考えている。


私は少し不安になる。

変なことを言っただろうか。


すると。


「理論上は可能だ」


アッシュがぽつりと呟いた。


「本当に?」

「音声認識の術式と翻訳術式を組み合わせればいい」


ぶつぶつ。

ぶつぶつ。


独り言が始まる。

完全に研究モードだった。


「エレ」


隣からフォレストが小声で言った。


「何?」

「お前」

「何よ」

「今の結構すごいこと言ったぞ」


私は首を傾げた。そうなのだろうか。

前世の感覚だと普通に思いつくことだった。


その時だった。


「おい」


アッシュがこちらを見る。


「何?」

「お前」


私は少し身構える。また帰れと言われるのだろうか。

しかし返ってきた言葉は予想外だった。


「邪魔じゃない時もある」


私は目を丸くした。

フォレストも固まる。


そして、

「それ褒めてるの?」

「知らない」

即答だった。



結局。


気付けばニ時間近く研究室にいた。

私は魔道具を見て回り、アッシュは研究を続け。


フォレストは疲れた顔で壁にもたれていた。


「そろそろお戻りください」


迎えに来た侍女がそう言った時には、もう昼が近かった。


「えー」


思わず声が出る。


「お食事の時間です。」

「分かったわ」


私は渋々立ち上がった。

そしてアッシュを見る。


「また来るわね」


アッシュは本を読んでいる。

返事はない。


「聞いてる?」

「来るな」


即答だった。

私は笑う。


「また明日!」

「早く帰れ」


七回目だった。



帰り道。

魔法塔の長い階段を下りながら私は上機嫌だった。


「楽しかったわ」

「そうか」


フォレストの返事は薄い。


「それに」


私はにやりと笑う。


「作りたい魔道具ができたの」


フォレストの足が止まった。

嫌な予感しかしないという顔をしている。


「やめろ」

「嫌よ」


即答だった。私は胸を張る。


「だって異世界なのよ?」


魔法があるのだ。

魔道具があるのだ。


作りたいものなんて山ほどある。

フォレストは深いため息を吐いた。


「魔法塔の平和が……」


私は聞こえないふりをした。

だって明日が楽しみだったから。          

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