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竜崎くんは今日もかっこいい  作者: 紗羽


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18/21

18

 



 コンビニの通りから一本入ると、静かな住宅街が広がっていた。


 暗い道に沿って点々とある心許ない街灯が歩道のない狭い道路を照らしている。

 時々民家の玄関口にあるセンサーライトが点灯して並んで歩く二人を照らした。


「(送り届けて正解だったな。)」


 帰省ラッシュの時間を過ぎて、歩いている人の姿がほとんどない住宅街を見渡しながら、次から結衣がバイトの時は家まで送り届けようと、竜崎は密かに心の中で誓った。



 竜崎がそんな事を考えているとも知らずに、結衣は彼の隣を歩きながらどうしたものかと頭を悩ませていた。


「(私、竜崎くんにメッセージ返してなかった……!)」


 今更自分が既読スルーをしてしまっていた事を思い出した。

 本来なら彼に会ってすぐ謝罪するべきだったのに、バイト先に顔出しに来てくれた事に勝手に舞い上がって、メッセージのことを忘れてしまっていた。


 結衣は歩きながら隣を歩く竜崎を見上げた。



「あの……」


 竜崎に声をかけると、彼がこちらを向いた。

 整った顔立ちの竜崎と目が合い、自分から声をかけたにも関わらず胸が高鳴った。


 赤くなりそうな顔を必死で抑えながら、結衣は言葉を絞り出した。



「竜崎くん、その……」

「……?」


「メッセージ、返事できなくてごめんね」


 結衣が申し訳なさそうに顔を俯かせながら言った。



 竜崎は結衣の言葉に、そういえば……、と彼女と初めてメッセージのやり取りをしていたことを思い出す。


 部活が終わった後、メッセージアプリを開いた時に付けられていた既読のマーク。

 しかし、竜崎は彼女がバイト中だと分かっていたためメッセージを読んだだけで返事ができなかったのだろうと特に気にしていなかった。


 それに、結衣のバイト先に行こうと既に榛名から誘われていた後だったこともあり、メッセージの返事のことよりも結衣と直接会って話すことの方が竜崎にとって重要だった。


 竜崎は申し訳なさそうな結衣の横顔を眺めながら言った。


「気にすんな。バイト中だって分かってんだから、んなことで俺は怒らねぇよ」



 竜崎がそう答えると、結衣は少し安心したように息を吐いた。

 彼が気にしないタイプで良かったと思いながらも、結衣はメッセージの内容を思い出して胸が苦しくなる。


 竜崎から送られて来た"噂をそのままにしていてくれ"というメッセージ。



「(あの言葉に深い意味は無いんだろうけど……)」



 自分を守る為の嘘として噂を使え、という彼の優しさなのだと、そう分かっている筈なのに、何か別の意図があるのではないかと、密かに期待している自分がいる。


 そんな事あるわけがない。



「……っ」


 結衣は口を結んで自分の恋心を奥底に沈めると、前を向いて歩きながらそっと口を開いた。



「竜崎くんにお昼休みの時のこと、ちゃんとお礼言えてなかったよね。

 あの時、助けてくれてありがとう」


「……あぁ」



 結衣の言葉に、竜崎は素っ気く短い返事をした。

 結衣はそんな彼に、やっぱり、と思いながら拳を握りしめる。


 きっと竜崎くんにとって、私を助けることなんて大した出来事でも何でもないんだろう。

 単なる竜崎くんの気まぐれに、勘違いしそうになる自分に嫌気がさした。



「(やっぱり噂の事はきちんと訂正しなきゃ。)」



 ――これ以上、彼に迷惑を掛けるわけにはいかない。




 結衣は、街灯に照らされた住宅街を眺めながらそっと口を開いた。



「……竜崎くんは優しいから、噂をそのままにして私を守ってくれようとしてくれてるんだよね?」


「……!」


「ありがとう」



 控えめに微笑みながら言った結衣の言葉に、竜崎がこちらへ顔を向けたのが分かった。


 結衣は竜崎の方を見る事なく、足元のアスファルトへ視線を落としたまま歩き続けながら言った。



「でも、流石にそこまで竜崎くんに迷惑かけられないよ」

「……」

「竜崎くんにとってその噂が流れて良い事なんてないでしょ?

 好きでもない私なんかの彼氏だなんて噂されて……」




 ――……そう、竜崎くんは私の事なんて好きじゃない。



 自分で言いながら心がズキズキと痛んだ。


 結衣はゆっくりと息を吐くと、震えそうになる口を無理矢理開いた。



「…だから、やっぱり噂の内容は違うって私ちゃんとみんなに言っていくよ…、だから竜崎くんも――……」




 突然パシン、と乾いた音と共に手首に感じた圧迫感に、結衣は言葉を止めた。


「!」


 驚いて顔を上げると、いつの間にか立ち止まっていた竜崎が結衣の手を掴んでいた。



「……竜崎くん…?」



 そっと名前を呼ぶが竜崎から返事はなく、彼の表情も街灯の逆光になっていてこちらからは見えない。

 何も言わずに立ち止まっている竜崎に、結衣は戸惑いながら彼を見上げた。



「どうしたの……?」



 そっと声を掛けると同時に一台の車がこちらに向かって走ってきて、それに合わせて竜崎の横顔が車のヘッドライトによって徐々に照らされていく。



「――……っ」


 そこでやっと、彼が自分の顔を真っ直ぐ見据えていることに気付いた。

 車のライトに照らされた彼の唇がゆっくりと動き出す。



「俺は迷惑だなんて思っていない。」


「!」



「それに俺は、


 お前の事好きじゃねぇなんて、言った覚えはねぇよ。」




 車が二人の横を通り過ぎていき、また辺りが暗闇に包まれた。


 しかし、そんな暗闇の中に響き渡っているのではないかと思うくらい、結衣の心臓は忙しなく動いていた。


 ライトに照らされていた時の竜崎の瞳が熱を帯びていたように見えたから。



「……っ」


 車のライトのせいだ。


 そう分かっているのに、竜崎がまだ自分を真っ直ぐ見据えているのが街灯の淡い光でも分かって、彼から視線を逸らせずにいた。




 自分の顔にどんどん熱が集まっていくのが分かる。

 早く顔を逸らさなければと思うのに、それすらもできずに、ただ竜崎の顔を見つめ続けた。


 そんな結衣の手首を掴んでいた竜崎の手がスルリと動いて、結衣の手を包み込むように握り締められた。

 結衣の掌の感触を確かめるように優しく触れる。



「……お前は、俺の彼女だって言われんのは迷惑か?」




 そっと尋ねられた言葉に、結衣は戸惑いながらも小さく首を横に振った。

 そこでやっと竜崎から視線を逸らすことが出来て、結衣は顔を俯かせた。


 すると、頭上から小さくゆっくりと息を吐く音が聞こえた。



「……なら、噂は訂正するな。」



 竜崎はそう言うと、また歩き出した。


 彼に握られたままの自分の手が優しく引かれて、結衣も自然と歩き出す。




 もう何も考えられなかった。


 繋がれた手から彼の熱が伝わって来て、頭がふわふわする。




 竜崎の言葉は、一体どういう意味なのか……。


 それを聞きたいのに、そんな勇気がある訳もなく、ただ彼に手を引かれるまま歩き続けた。







「……あ、私の家、ここ……」



 いつの間にか自分の家に着いていた。

 途中で別れるつもりが、結局家まで送り届けてもらってしまった。



「………」


 竜崎は握っていた結衣の手を離すと、肩にかけていた結衣の鞄を肩から下ろして差し出した。

 そこで彼にずっと自分の鞄を持たせてしまっていたことに気付く。



「あ……、鞄持ってくれてありがとう……」


「あぁ」



 そっと竜崎から差し出された鞄の持ち手を握ると、その拍子に指先が竜崎の手に触れてドキッとした。

 そんな自分の気持ちに気付かれないように平静を装って、そのまま鞄を受け取った。



「…………」



 何か言わなければならないのに、言葉が出てこない。


 心臓が喉から出てくるのではというくらい音を立てていた。




 竜崎はそんな結衣を静かに見つめた後、そっと手を伸ばして彼女の頭に乗せた。



「……!」


「……また連絡する」



 囁くように言われた言葉に顔を上げると、竜崎が優しく自分を見下ろしていた。


 途端に胸が苦しくなる。


 頭に乗せられている彼の手が優しく左右に動かされた後、そっと離れていった。





 竜崎の温かさが無くなった自分の掌と頭に夜風が触れて、彼の温もりを奪い去っていく。


 途端に彼が恋しくなって、踵を返して歩き出そうとした竜崎に慌てて声をかけた。



「竜崎くんっ……」


「……!」



 結衣の声に竜崎がこちらを振り返った。

 彼の瞳がまた自分に向けられた事に恥ずかしさと嬉しさが心を満たす。


 結衣は胸の前で自分の手を握り締めながら口を開いた。



「あの、送ってくれてありがとう……、気をつけて帰ってね」



 なんとか言葉を絞り出した。


 本当はもっと別の言葉を言いたかったけれど、そんな言葉を言うことができず……



 ただ、少しだけ自分の恋心を乗せて、彼にそっと微笑んだ。




 気づかなくていい。

 勘違いだって分かってる。


 でも、それでも溢れる想いが多過ぎて、少しだけ相手に渡して気持ちを軽くしたかった。



「…!」


 竜崎は結衣の顔を少し驚いたように見つめた後、小さく笑った。



「……あぁ、またな」



 踵を返して歩き出した竜崎の後ろ姿を見つめる。


 来た道を戻っていく竜崎に少し申し訳なさを感じながらも、幸せなひとときをくれた彼に感謝した。




 * * * *



 後ろでガチャン、と玄関の扉が開けられ、そして同じ音を立てて閉じた。

 そっと顔をそちらへ向けて結衣が家に入った事を確認すると、竜崎は住宅の角を曲がった。




「ハァーー……」



 それと同時に竜崎はズルズルとしゃがみ込んでゆっくりと息を吐いた。

 途端に顔に熱が集まり、抑えていた感情が溢れ出す。



「なんだよ、あの顔……っ、可愛すぎだろマジで……」




 別れ際に微笑み掛けてくれた結衣の顔を思い出してまた息を吐く。


 思わず彼女を抱き締めてしまいそうになった。



 結衣と手を繋いだ事も、自分の感情が抑えきれなくてやり過ぎてしまったと思っていたのに、抱き締めるなんて事をしたら彼女に嫌悪感を与えてしまうかもしれないと理性を働かせて何とか踏みとどまった。




『竜崎くんにとってその噂が流れて良い事なんてないでしょ?

 好きでもない私なんかの彼氏だなんて噂されて……』



 結衣の言葉を思い出して竜崎は髪をぐしゃりと握り締めた。



「んなわけねぇだろ、馬鹿……っ」



 俺がどんな思いでアイツらに"手を出すな"と言ったか知らねぇだろ。


 どんな思いでお前の隣を歩いていたか、


 お前の手を握っていたか……




「……っ」



 好きだ。



 早く伝えなければ。


 もう抑えられない……




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