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竜崎くんは今日もかっこいい  作者: 紗羽


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「(まさか私の連絡先を聞いてくる人がいるなんて思わなかったな……)」


 結衣は図書委員の仕事を終えて廊下を歩きながら小さく溜息をついた。


 先程同じ図書委員の華菜が話してくれた、結衣の連絡先を聞かれるという内容。

 十中八九ファンクラブの子が嫌がらせをする為に連絡先を聞いて回っているのだろうと推測する。


「(でも……)」


 結衣は廊下を歩きながら、そっと周りを見渡した。



「(なんか、みんなから凄く見られてる気がする……)」



 教室や廊下、階段……。

 そこにいる生徒の多くが、結衣の方を見て立ち止まったりヒソヒソと話したりしている。



「(何か私の変な噂でも流されたのかな……)」



 結衣はそれらの視線を避けるように顔を俯かせながら、自分の教室へ向かって足早に歩き続けた。


「(周りの視線を気にしないように……っ)」


 そう何度も自分に言い聞かせて歩き続けていると、ようやく自分の教室が見えてきてホッと息を吐いた。



「(やっと教室に戻れる!)」


 そう安堵したのも束の間。




「ねぇ、君、結衣ちゃんだよね?」

「!」


 突然自分の目の前に男子生徒が割り込んできた。

 廊下の壁に手をついて、結衣の行く手を阻むように立たれ、結衣は強制的に立ち止まらせられる。


 驚いたようにその生徒を見上げると、結衣の制服の左胸に付けられている名札が見えたのか男子生徒は、やっぱりそうだ、と呟いた。


「ほら、やっぱりこの子が結衣ちゃんだよ!」

「へぇ〜、噂通り可愛いじゃん。清純派って感じ?」


 その男子生徒の後ろからもう一人、男子生徒が顔を出して結衣を見た。



「……っ」


 二人の男子生徒からジロジロと舐め回すように見られて、結衣は胸の前でギュッと両手を握りしめながら一歩後ろに下がった。

 自分の名前を知っていたということは、ファンクラブの子の関係者だろうか。

 結衣が警戒しながら二人を見ていると、最初に話しかけた男子生徒が突然吹き出した。


「そんな警戒しなくていーよ! ほら、俺ら今朝同じ電車に乗ってたじゃん!」


 男子生徒はニコッと笑いかけながら言った。

 そうだっただろうか、と記憶を思い起こすがこんな人いただろうか……。

 毎朝竜崎の隣を歩くので精一杯の結衣には、他の男子のことなんて見ている余裕なんてなかった。


 一生懸命記憶を掘り返していると、それが伝わったのか、目の前の男子生徒はニコッと笑いかけてきた。



「俺さ、噂の結衣ちゃんとずっと話してみたかったんだよね」

「え……?」

「大人しいのに勇敢で優しくてめっちゃ可愛い女の子がいるって聞いてずっと会ってみたかったんだ」



 そう言って目の前の男子生徒は結衣の髪に手を伸ばしてきた。

 咄嗟に避けるが、男子生徒の指先が結衣の髪を絡めとる。


「っ!」

「わぁ!髪サラサラだね!とっても綺麗……可愛い」


 そう言って微笑まれて、結衣は思わず頬を染めた。

 歯の浮くような言葉ばかりを見ず知らずの男子生徒から言われ、勝手に髪の毛も触られて……警戒心と嫌悪感を強めながらも好意的な内容にどう反応していいのか分からず視線を彷徨わせる。


 すると、男子生徒は結衣にそっと顔を近づけた。



「ねぇ、君の連絡先教えてくんない?もっと君のこと知りたいな」


 そう耳元で囁くように言われて、結衣は全身に鳥肌がたった。

 生理的に彼を受け付けない、無理だと思った。




 * * * *




「ほーら、早速ナンパされてんぞ~」


 廊下から聞こえてきた声に榛名は、ほら見たことか、と呟くように言った。

 教室の中から結衣の姿は見えないが、男子生徒二人の背中と"結衣ちゃん"と呼ぶ声がする。

 もうそれだけで、その場で何を言われているのかが手に取るように分かった。


「竜崎が早く行動に起こさないからこうなるんだよ。」


 蒼真も榛名と同様、呆れたように溜息をついた。

 結衣が注目を浴びる前に竜崎がアクションを起こしていれば、きっとこういう事にはなっていなかっただろう。

 学園内でも注目されている四人が一度に接触すれば結衣も注目される。

 それは最初から分かっていたことだった。

 だからなるべく竜崎が自発的に動いてくれる事を望んでいたのだが、全く動く気配がなく痺れを切らした蒼真達が動いて席替えをし、仲良くなり、そしてファンクラブ騒動があって今回のナンパへと繋がった。


「ちょっと私、結衣を助けてくる」


 そう言って美月が椅子から立ち上がろうとすると、それよりも先に、ガタッと椅子から立ち上がる音がした。


 顔を上げると、竜崎が廊下を睨みながら立っていた。



「…………」


 竜崎はそのまま何も言わずに廊下の方へと歩いて行く。

 その様子を見て蒼真はやれやれと首を横に振った。


「さっさとそうしてれば良かったんだよ」

「本当ね……」


 美月はそう言いながらまた椅子に座り直した。




 * * * *




 結衣は目の前の男子生徒を見上げてまた一歩後ろに下がると、更に手を強く握りしめながら言った。



「ごめんなさい、教えられません……っ」



 結衣は必死に声を絞り出した。

 いくらこの男子生徒が自分に好意的に接してくれたとしても、噂になっているからという理由だけで接触してきて、こちらの許可もなしに人の体に触れてくるような人に自分の連絡先を教えたくなかった。

 言葉と態度で拒絶を表している結衣に、目の前の男子生徒は少しムッとした顔をした。


「なんでダメなの?教えてよ」

「い、嫌です……」

「いいじゃん、君と仲良くなりたいだけなんだし」


 グイグイと離れた分だけ迫ってくる男子生徒に結衣がまた一歩後ろに下がろうとすると、

 突然横から綺麗な黒髪が視界を横切った。


 それと同時に体を押されて近距離にあった壁へと追いやられる。



「おい」



 近い距離で低い声が響く。

 そっと顔を上げると、そこには結衣を男子生徒から庇うように壁に肘をついた竜崎が立っていた。



「りゅ、竜崎……!」



 男子生徒が顔を引き攣らせながら彼の名前を呼んだ。

 壁と竜崎の体に挟まれ、自分の腕に触れる彼の逞しい体に、結衣は胸がどきりと鳴った。


 竜崎はギロッと男子生徒二人を睨んだ。




「お前ら、誰の女口説いてると思ってんだ。」


「っ!」



 竜崎がそう言うと、男子生徒二人は息を呑んだ。



「やべっ!この子竜崎の彼女だったのかっ!?」

「んな話聞いてねぇよ……っ!!」



 男子生徒達が小声で言い合っていると、竜崎が更に目を細めて二人に鋭い視線を向けた。

 すると、男子生徒二人が瞬ぎながら後ろに下がって行った。



「わ、悪いっ! そんなつもりじゃ……っ」

「竜崎の彼女だって分かってたら口説いてないって……!」



 体の前でぶんぶんと手を振りながら後ずさっていく二人に竜崎は舌打ちをした。



「……さっさと散れ。二度とコイツの前に来るな。」


「「はっ、はい!!」」



 竜崎に唸るような声で言われ、男子生徒二人はバタバタと廊下を走って行った。





 結衣は、顔を真っ赤にして俯かせた。

 竜崎の言葉と男子生徒達が言った"彼女"という言葉に羞恥心が湧き上がってくる。


 自分を助けるための口実だって分かってるのに、それでも嬉しい気持ちが溢れてきて胸が苦しくなった。


 竜崎の体がそっと離れると、周りの状況が見えるようになった。



「あの子竜崎の彼女だったのか……」

「どおりであの時ブチ切れてたわけだ」


 いつの間にか人だかりができていたらしく、男子生徒達と竜崎のやり取りを聞いていた生徒達からヒソヒソと囁く声が聞こえてきて更に結衣は顔を俯かせた。


 視線が痛いくらいに突き刺さる。


 ……でも、本当は違う。

 私は竜崎くんの彼女でも何でもない。



 結衣はゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、そっと竜崎を見上げた。


「あ、あの……助けてくれてありがとう」

「あぁ」


 竜崎は眉間に皺を寄せたまま言った。


「(超絶不機嫌だ……)」


 竜崎の背中から漂うドス黒いオーラに、結衣を含め野次馬達は冷や汗を流した。



「ほらほら雅人!そろそろ落ち着きなさいっ!」

「!」

「結衣もみんなも怖がってるじゃない」


 パンパン、と手を打ち鳴らしながら美月がこちらに向かって歩いてきながら言った。

 美月の姿に、結衣はホッと息をつく。


 それと同時に、彼女が竜崎と付き合っているかもしれないという事を思い出して、気持ちがサァー、と冷静になっていった。




 * * * *




「大丈夫だった?」


 美月にそっと顔を覗き込まれて、結衣はこくりと頷いた。


「うん、竜崎くんが私を助けるために機転を効かせてくれたから大丈夫だったよ」


 そう言って微笑むと、美月は少し驚いたように目を見開いた。

 美月の後ろから付いてきていた蒼真と榛名も同様に結衣を見ている。


「(あれ……?)」

「(なんか普通だね……)」

「(反応が薄いな……)」


 竜崎の彼女だと囁かれているのだから、もっと照れていたり恥ずかしがったりしてもいい筈なのに、結衣は普段通り微笑んでいる。

 どちらかというと雰囲気も安定していて冷静なように見える。


 これってもしかして……



「「「(脈なし!?)」」」



 美月、蒼真、榛名の三人は雷に打たれたように驚愕した。


「?」


 驚いている三人の視線を受け、結衣は小首を傾げながらキョトン、とこちらを見ている。


 そんな結衣に、美月は「何でもないよ」と言うと彼女の頭を優しく撫でた。




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