第11話 婿の腹痛
プロジェクトの進行作業をしているのか、甲斐がカタカタとキーボードを打つ。
「いやぁ~甲斐君頑張ってるねぇ~」
敦がニコニコしながら、コーヒーを持ってやって来る。
「……何ですか?冷やかしならやめてください」
「冷やかしなんて~そんなこと部下にするはずないだろ?」
甲斐の机にコーヒーを置く。炊き立てのようだ。
「疲れてるだろう?ゆっくりしな」
「これぐらい平気です」
「まぁまぁそう言わずに。一旦コーヒーでも飲んでリラックスしな」
ニコニコして言いながら、その場を去った。
(なんなんだ?)
敦の真意が分からないまま、渡されたコーヒーを飲む。
(そんなことより今は仕事だ)
マグカップを机に置き、再びカタカタとキーボードを打ち始めた。
夜。家に戻ると、美味しそうな匂いが漂っていた。
「おかえりなさい」
「いい匂いですね……もしかしてカレーですか?」
「正解です。もうできてますよ」
キッチンを見ると、しえはエプロンを着けて炊飯器を開ける。
「ご飯の量どれぐらいにしますか?」
「お腹空いてるので……多めで」
「分かりました」
いつも仕事から帰ってきた頃に美味しいご飯を作ってくれている。
そのことに甲斐はいつも感謝していた。
「しえさん。いつもありがとうございます」
「私も……一緒に居てくれてありがとうございます」
しえがニコッと微笑むと、甲斐の心が穏やかになる。
(しえさんの笑顔見ると疲れも吹き飛ぶなぁ……)
洗面所で手を洗い、リビングに向かうと美味しそうなカレーが用意されている。
「食べましょうか。お腹空きました」
「私もです」
席に座り、お互い手を合わせる。
「「いただきます」」
甲斐がスプーンでよそい、口に入れる。
「うん!美味しいです」
「よかったです」
「最近、料理の腕が上達してません?毎回初めてとは思えないですよ」
「そんなことないですよ。ただレシピ通りに作ってるだけです」
しえはカレーを食べながら、少し疲れた顔をしている甲斐を見つめる。
「最近帰り遅いですけど……お仕事忙しいんですか?」
「大きなプロジェクトが進んでて……企画担当なのでやることが多くて」
「大丈夫ですか?ゆっくり休んでくださいね」
「ありがとうございます」
しえに出会う前まで、いつも何の為に仕事しているんだろう?と思っていた。
ただ自分がご飯を食べて生きていくことしか、お金の使い道がなかった。
でも今は違う。目の前に自分の妻になりたいって言ってくれた自分がいる。
0日婚でお互い知らないこともまだあるけど……
もっと仲良くなるためにデートとかもしたいし、旅行したいなって思ってる。
これが恋愛感情かは分からないけど……『好き』なのは間違いないかもしれない。
「……甲斐さん?私の顔に何かついてます?」
「いえ!何でもないです!」
感情を隠すように、カレーをバクバク食べる。
(……今のところ狼の獣人に遭遇していないみたいね)
『無撃の力』は今も発動している。オーラを傷つけられた形跡もない。
(よかった。このまま続くといいな……平和な時間が)
自然と笑みを浮かべながら、スプーンを口に入れた。
翌朝。しえはいつも通り早起きして朝食を準備していた。
(甲斐さん起きてこない……いつもこの時間に起きるのに……)
今日は出勤が遅いのだろうか。
でも出勤が早い時や遅い時はいつも前日に教えてくれる。昨日は特になかった。
(一応声かけよう)
部屋のドアをノックする。
「甲斐さん。起きてますか?」
「はい……起きてます……」
反応は返ってきたが、声がしんどそうだ。
「……失礼します」
ドアを開けると、甲斐がしんどそうにベッドに座っていた。
「どうかしましたか?」
「お腹が……痛くて……」
「動けますか?」
「立つのがしんどくて……座るのがやっとです……」
腹痛……原因は何だろう……
「……じっとしててください」
しえが甲斐のお腹に触れると、手が輝き始める。
「すぐよくなりますから」
手の輝きがなくなると、甲斐の苦しそうな表情が変わった。
「あれ?痛くない……」
「腸内に水分が溜まってて、それが原因で腹痛が起きてたみたいです」
「そうですか……ありがとうございます」
立ち上がり、両腕をぐ~んと上に伸ばす。
「凄いですね。腹痛も治せるなんて……」
「この程度なら……今の体調は?」
「しえさんのおかげで元気になれました。大丈夫です」
歯磨きしてきますと言うと、部屋を去る。
(……ただの体調不良だといいけど)
しえの顔は心配の表情と共に、疑念に思う表情を浮かべていた。




