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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VII ここにいたいと思うから
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第199話 理屈か気持ちか

 約束の時間になってもユッカとマユが戻って来ることはなかった。


 かといって、事件に巻き込まれたわけでもない。

 万一に備えてユッカに預けた緊急信号は機能せず、その上、二人の気配はしっかりとこの家の中から感じることが出来たのだから。


 何かあった、というより悪い予感が的中した程度。

 力をほとんど感じられないということは、今はヘレンは引っ込んでいるのだろう。


 ほんの僅かな残滓は、先程まで存在していたことの証明。

 それもこの濃さからして、よりはっきりと。少女の身体を一時的に借りるのではなく、より鮮明に。


(さては……いや間違いなく逃げたな。また逃げたな、あいつ……)


 勘付かれたような気はしていた。

 屋敷に近付く途中、ふと覚えのある感覚が肌を撫でた。おそらくあいつの探知用結界か何かに触れたのだろう。


 相変わらず、隠れるのがとにかく上手い。

 今の俺では探り当てるのも難しいほどに巧妙な手口。


(まさかユッカ達の前に姿を現して……今度は何を考えているんだか)


 宙を舞う先導者の速度に合わせ、音を立てないようにゆっくりと。


「……あんた、こうなることくらい分かってたんじゃないの?」


 それでもリィルの疑問に答えないという選択肢は、俺にはなかった。


「まあ、可能性の一つとしては。しかしまさかここまで長引くとは……なあ、リィル。ものは相談なんだが」

「却下」


 こちらもこちらで判断が早い。

 日に日に速まっているような気さえした。……それだけ慣れられてしまったということか。大問題だ。


「あんた、どうせまた自分が行くからとか言うつもりだったんでしょ? あの二人がいるから、とかなんとか言って」

「そこまで見抜かれるとは……もしやリィル、サーシャさんから読心術を? 一体いつの間に」

「なわけないでしょ。見てたら分かるわよ。そのくらい」


 単純な能力を横に置いても、経験値が違い過ぎる。

 人の手によって意図的に罠が仕掛けられた数々の施設とは違った厳しさ。


 贔屓目に見てもリィルやマユ、アイシャ達が同等以上の経験を積んでいるとは言えない。

 むしろ年齢を思えばあの二人が異常なくらい。……サーシャさんの姉と言うことはそこまで離れていない。筈。


 事実、[ラジア・ノスト]の構成員はサーシャさんと大きく年の離れた者が多い。圧倒的に。

 それだけの事情があるということ。そういう意味ではマユに通じる部分もあると言える。


(……マユの気持ちを尊重するのなら、あまり選ぶべき手ではないが)


 しかし、それで命にかかわる怪我をしてしまっては元も子もない。

 それらを都合よく解決するなど不可能に等しい。どちらを選ぶかという話だ。


「マユの気持ちもって最初に言ったのはあんたなんでしょ? あの子言ってたわよ。嬉しかったって。今更裏切らなくたっていいじゃないの」

「マユが、そんなことを……」


 そしておそらくマユが選ぶのは、危険の多い道。


 自らの手で助けることにこだわっているわけではない。

 少なくとも俺にはそう見えた。


 であれば、マユが直接向かう必然性はないのだろう。が、そういう問題ではない。

 それをうまい具合に言葉に出来れば、また違うのかもしれないが……今はもう一つ。


 単純明快な解決策。

 それが出来れば苦労はしないと言われるような、無茶苦茶なアイデア。


「……確かに、そういうことなら裏切れないな。俄然やる気が出てきた。深海の底に眠る秘宝だろうとなんだろうと獲れる気がする」

「やめなさいよ? ……絶対やるんじゃないわよ!?」


 同時にそれは、俺にとって馴染みの深いもの。


 実現できるかどうか。それはもう俺だけの問題ではない。


「そのくらいの意気込みは必要だろう? 今回は状況が状況だ。リィルも覚悟だけはしておいてくれ。……時と場合によっては、一旦退いてもらうかもしれないが」

「残っていつまでも足止めするのはなしだからね」

「そうそう、その意気。相手の先手を潰すくらいの心構えで」


 まさに今、俺に対してそうしたように。

 今までの攻撃が通じない敵には相応のものを用意してやればいい。


 幸い、現地に到着するまでの時間は十分にある。

 ルーレイアまで渡ったように長距離を高速で行き来しようと思ったら、誰からも却下されるあの方法しか残っていない。


「…………やっぱり考えてたんじゃないの!!」

「はてさて、俺には何のことやらさっぱり」


 アイシャの魔法は既に逸れる余地がない段階まで到達している。

 既に威力の上昇と、軌道操作が考慮に入れられるほどに。


 一番の問題である魔力のつまりは依然として完全な解消には至っていない。

 しかし魔法の使用頻度に合わせた施術の効果は俺の想像以上。


「あんたいま認めたじゃない! 誤魔化せると思ったら大間違いよ!?」

「まあまあ、その話は後だ、後。あのお婆さんの説得を済ませないことには何も始まらないじゃないか」

「……確かにその方が時間もたっぷり作れそうねぇ? 夜とか」

「こんな状況じゃなければもう少し雰囲気も出ただろうに」

「それもこれもあんたのせいでしょうが!」


 お説教ばかりではさすがにリィルにも呆れられる。

 あくまでも、あくまでも万一の最終手段として。使わないに越したことはない。最初からそのつもりではあったが。


「――そこをなんとか! お願いします!」


 今その議論を続けるだけの余地はないだろう。


「ほら、ユッカもあの通り」

「どう聞いても関係ないでしょ。……あんた日に日に変なこと言う回数増えてない? ちゃんと休んだら?」

「こう見えて色々と緊張しているんだ。馬鹿な冗談でも言わないと息が詰まる」

「だったらせめてもうちょっとそれっぽい表情しなさいよ……」


 真面目な話、あそこまで難航しているのなら、悠長なことも言ってはいられない。

 ……お婆さん的には約束を反故にされたようなものか。


「俺が辛気臭い表情をしていたらそれはそれで心配をかけるだろう? 俺でも対処できない問題が発生したんじゃないか、と」

「だからそうなる前に相談しなさいってば。あたしでも、誰にでも。……もう、なんでこんな当たり前のこと……」


(……実際、当たり前のことなんだろうな。本当に)


 その当たり前すら一度放棄していたのだから刺さる刺さる。槍の様に刺さる。


「――お婆さんとしては、以前の約束を保護されたも同然だから余計に納得ができない、と」


 耳の痛い言葉だからこそ、一層気は引き締まった。


「……今また一つ増えたよ。あんたどうやって入ったんだい。鍵だって閉めた筈だよ?」

「鍵なら内側から……ああ、この子が。ついてこいと言わんばかりに飛んでいたのでそのまま後を」


 その一言でお婆さんも答えに至ったのだろう。


「……ひとこと言ってほしかったね。全く」

「も、申し訳ございません……皆様の言い争いが見ていられなくて……」


 視線は左へ、世話をしてくれている少女へと向けられた。


「以前の話を覆すような提案だということは承知の上です。……ほんの少しだけ、俺と二人で話をしてもらえませんか?」

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