第198話 変な人
「お、お邪魔しまーす……?」
「来ちゃった、です」
来ちゃったっていうか、来ないといけなかったんですけどね。
あのお婆さん、マユも行くって聞いたら反対するかもしれないですし。
話し合いだって得意なんですから、キリハさんが行けばいいじゃないですか。リィルもいっしょに。
……別に、行くのが嫌ってわけじゃないですけど。マユにとっても大切なことなんですから。
「あの、もしもーし? いないんですか? ユッカとマユですけどー」
「鍵が開いてたからいる筈、です。聞こえてないとは思えない、のに、おかしい、ですね?」
「『――とまあ、そんなこんなで一騎当千、強力無比な力を手にしちゃったんですよね』」
(……はい?)
今の、誰の声ですか?
あのお婆さんの声じゃないですよね、絶対。もっとこう、しっかりした感じでしたよね。あの人。
「『そんなこんなを詳しくって言われましても。戦いを通じて進化した、みたいな? こっちでいう特級みたいなのと殴り合い&撃ち合いしてたって言えば伝わります?』」
しかもなんか、ちょっと聞き取りづらいっていうか……なんて? 特級? エルナレイさんの話ですか?
「『別にそれは良いんですよ? 若干あの人に執着気味な危険人物もいたわけですから。やらなきゃやられるっていうのはなーんにもないんですよね、実際』」
でもそれにしてはちょっとおかしいような……
ちゃんと声は聞こえてるのに、どこから聞こえてるか全然分からないんですけど。この前と押されたのってこの部屋でしたよね?
「な、なんの話をしてるんですかね? お客さん来てるなら言ってくれればいいのに」
「あの声、どこかで聞いたことある気がする、ですけど……」
こういうときは……そうでした。傘とか上着とか。……ないですね?
というかお客さんが来てるならあの人……名前も知らないですけど、あの人が教えてくれればいいじゃないですか。
動けないわけじゃないんですよね? あのお婆さんの声も聞こえないんですけど。
「『問題はその方法っていうか……過程? どっちでもいいですけど、手に入れるまでにちょーっと無茶が多過ぎて。元々そんなにたくさん魔力を扱える身体じゃないのにどんどん増やしちゃうんですから』」
近いはず、ですよね? 近付いてるんですよね?
さっきよりちょっと聞こえやすくなりましたよね? マユは……だめですね。やっぱり分かりませんよね。場所。
「『魔力の急速回復もあそこまで行くとデメリットしかないんですよねー。ぶっ壊れた蛇口みたいに溢れさせちゃうんですから。……その顔、なんとなくは分かりました?』」
でめ……なんて? なんて言いました?
魔力の回復? そんな、キリハさんみたいな力を持ってる人が他にもいるって――
「『――それと、あんまり盗み聞きとかしない方がいいですよ? 癖になっちゃいますからね? ストーカー希望なら止めはしませんけど』」
「ひゃぁあああっ!?」
ななななにもしてないですよ!? どこから聞こえたのか探してただけですよ!?
「な、なんですか! なんなんですか! いきなり出てこないでくださいよ! どこにいたんですか!」
「す、すみません……驚かせるつもりはなかったのですが……」
だったらいきなりにゅっ、て出てこないでくださいよ。にゅっ、て!
一体どこにいたんですか! 扉――……も、ないのに! ……ほんとにどこにいたんですか!?
「マユもびっくりしましたよね、しましたよね!? もっと言いましょう、もっと!」
「…………誰、ですか?」
「そうですそうで――…………はい? 誰って、迎えに来てくれたあの人じゃないですか。その……な、なんとかさん!」
「違う、です。……名前じゃ、なくて。そっちはマユも教えてもらってないから知らない、ですけど、とにかくあの人じゃない、です」
……どこからどう見ても本人なんですけど。
服とか髪型じゃないですよね。さっき会った時のままですし。
「『ん? ……あー……そっか、普通はそういう風に見えちゃうんでしたね。うっかりうっかり。あ、そこ離れてもらえます? ちょっとぴかーってなっちゃうんで』」
……もしかして、喋り方?
でも、さっきは普通に話してませんでした? 驚かせるつもりなんてなかったーって。
マユの言う通り、何処かで聞いたことがあるような……
そこまで言うなら離れますけどね。困るわけじゃないですし。
光るくらい、そんなに気にしなくても――
「『ぱらぱらぱら~――……っと、現界完了っ♪ 元気にしてました?」
「…………あぁあああっ!!?」
その声! その顔! やっと思い出しましたよ!
「なんでこんなところに……! またですか、また邪魔しにきたんですか!?」
「わー、敵意剥き出し。久し振りですよ? ここまで睨まれたの。もうちょっと穏便に生きましょうよ、穏便に。ほらほら武器も仕舞って」
「いきなり出てきたのはそっちじゃないですか! あんな風に隠れたりして!」
「あー……あの人本気でだんまり決め込んじゃったかー……」
まるであの女の子の中から出てくるみたいでした。
きらきら光って、ぼんやりしてた姿がだんだんはっきりして。……あんなことキリハさんでもできないですよね?
「……またって言われるなら、あんたにも原因があるんじゃないかい」
「いやいや、まっさかー。こう見えて善良の塊みたいな存在ですよ? 私と言えば平静&廉潔、なーんて言われちゃうくらいですからねー」
「どこがですかっ!」
れんけつがなんだか知りませんけど! 違うことくらい分かりますよ!?
お婆さんもお婆さんですよ。知ってたなら教えてくれてもいいじゃないですか!
「まあ事情を一から説明するのもめんどくさいんで、気になったら答え知ってる人にでもご自由に訊いちゃってください。時間は有限。ちゃんと考えて使った方がいいですよ?」
「じゃあめんどくさいとか言わずに教えてくださいよ。一番知ってるのはあなたじゃないですか」
「ところがどっこい、そうだったりそうでもなかったりするんですよね。これが。よーく思い出してみましょう? 知ってそうな人、いますよね?」
「知ってそうな人って……」
お婆さんにきけばいいんですか。こんなときに。
なんでそんなこと誤魔化すんですか。時間が大切とか言ったくせに。
「……キリハさん、ですか?」
「はい、正解♪ いいですね。冴えてますね? そんなあなたにはこちらをどうぞっ」
……なんですか、これ?
「……紙、ですか?」
「焚火を燃やすのによさそうですね」
「そういう変なとこまであの人に似なくていいですからね? 気を付けないと余計な火種になりますよ?」
「もっと燃やすために使うんですよ?」
「え、怖……なにこの子怖い……」
だってなにも書いてないじゃないですか。こんなもの渡されてもいりませんよ。
キリハさんが書き留める紙ならいくらでももってますよ。
「……一番ありそうだと思っただけ、です。キリハさん、変な知り合いも多いみたい、ですから」
「思いついただけでも上出来ですよー。……ん? 待って。ちょっと待って。今変なって言いました? 私を? 思考回路バグってますよ? エラー吐いちゃってますよ?」
「どう見てもおかしなところばっかりですけど?」
リィルが言ってたこと、やっと分かりましたよ。
この人、変です。絶対変ですよ!!
「……あんた達、何のために来たのか忘れちゃいないかい……?」




