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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VII ここにいたいと思うから
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第193話 材料を求めて

 しかし一番の問題は、辿る道の険しさ。その一点に収束する。


「――ひぃいいっ!?」


 まさに今、目の前を岩が転がり去っていったように。


「なんなんですか、なんなんですかさっきから! 誰ですか岩を落としてるのは!」


 見渡せば至る所に緑が生い茂っているような場所でありながら、この状況。

 ユッカの言い分には全面的に同意。押し返すわけにもいかない。


「意図的なものではありません。様々な条件が重なった結果、偶然――」

「やめ、やめてください……別に、そういうのを聞きたいわけじゃ、ないんですよ……ふぅ……」


 まるで整備された道のような状態になっているのも、ほぼ間違いなくああいう岩が原因だろう。


 やけに岩の残骸が散らばっていると思ったら。

 大小様々。適宜お好み。たとえ小さくても勢いがあれば十分凶器となる。


「いやー、まさかあの綺麗な街の近くにこんな……というかよく作ったよね、あんな場所に」

「元々は小さな集落だったそうです。それがいつの頃か、レティセニアの水は長寿の水、と呼ばれるようになったそうで……」

「全国各地から皆様大集結、と。まあ、いつの時代でも富と名誉を手に入れた人達が向かう先としては定番だよね」


 かといって、岩の通り道を避けようとすると今度は本当にありのままの木々の中を突き抜けることになる。


 しかもやたら刺々しい。

 いっそもう一つ、安心安全な通路をここに関わる全ての人へ贈りつけようかと思うくらいに。


「やるなよ? 絶対にやるなよ、キリハ? お前今考えてたよな、いつもみたいに突破してやろうって」

「? 何か問題が? いくらなんでも一つ目で時間を使うわけにはいかない」

「だったら余計に安全な方法にしろって!」


 安全な方法。

 なるほど、確かに。レイスの言い分も一理ある。どんな状況でも用意できるのならそれがベスト。


「――んッ! ふぅ……その安全な旅路を妨害しているのがまさにこの岩なわけだが」


 今日だけで一体何個目だろう?

 ここまで多いのはおかしい。いくらなんでもおかしい。


 毎日このペースだったとすると、あの地面に転がっていた残骸と計算が合わない。

 岩を食べる魔物でもいるなら知らないが。


「だからって足で受け止めるなよ!?」

「そうそう。見えた時点で壊しちゃえばいいんだよ。その方が早いし。キリハ君ならできるでしょ?」

「レアムもさぁ!?」


 レティセニアから馬車でおよそ三時間。

 そこから更に徒歩で一時間。


 街道から大きく逸れたその場所から小高い丘を越え、更にしばらく。

 ようやく辿り着いた山はまだ序盤だというのに、ちょっとした修羅場。


 ここを修行場にする冒険者がいるというのも今ならなんとなく頷ける。

 周囲に魔物がいないのは、それだけ転がる岩が脅威であるということ。


 その証拠に、飛ばした《小用鳥》は次々撃墜されていた。新しく用意する身にもなったらどうだ。


 爆破魔法を仕込むだけでもひと手間。

 魔結晶の回収は非現実的。かといって、目的の品が見つかるわけでもない。


「『あー、あー……まーたやりたい放題やっちゃって……』」

「……はい?」


 今日は俺一人というわけでもないのに。


「あの、今なにか聞こえませんでした? 変な声。しましたよね?」

「さあ……どうでしょう。少なくとも私は何も……」

「いえ、俺も何も聞こえませんでしたよ。……なあ、ユッカ。何かの物音を聞き間違えたんじゃないか?」

「そう……なんですか? でも、キリハさんが聞こえてないなら、まあ……」


 実際にはユッカが正しい。

 とはいえ、感覚の共有を受け入れている方もこの反応。当面は伏せておけばいいということだろう。


 リィル曰くユッカも面識はあるそうだが印象は微妙なところ。

 それならこんなタイミングで迂闊に引き合わせない方がいい。


「『よかったですね? 素直でかわいげのある教え子ちゃんがいてくれて。普通あんなにあっさり信じてくれませんよ?』」

「どこかの誰かが迂闊なことを言わなければよかっただけの話だがな」

「『それなら誰かさんが無茶苦茶な暴れ方しなきゃいいだけなんで問題ナッシングですねー』」


 問題の薬品を用意する上で、最もハードルが低いとされるのがこの山の中にあるそれ。


 それでもいつものように全員で、とはいかなかった。アイシャ達には他にやってもらいたいこともあった。


 唯一想定外だったのは、世話役を務める少女が同行させてほしいと言い出したこと。

 ヘレンから何かを言われたわけでもなく、だ。


「お化けの時間にはちょっと早いよね。だからきっと気のせいだよ。気のせい」

「レアムの基準はどうなってるんだよ……」


 その気持ちは分からないでもない。ないのだが……正直、誤算だった。


 てっきりあの町にいるものだと思って、そういう前提で計画を立てていた。

 ……さすがに、夜まで付き合わせるつもりはないが。ヘレンが手を貸していることに変わりはない。


「『……ちなみに、こんな無茶しちゃった原因とか聞かせてもらえます? あのお婆ちゃんとの話ももう忘れちゃいました? ボケが始まるような歳でもないのに』」

「だから全員では向かわなかった。ここにいる面子を見れば分かるだろう」

「『誰かさんが一人で突撃した方が早そうですけどねー』」


 俺とユッカと、レイスとレアム。


 マユには一度残ってもらった。

 少なくとも今のところは。こればかりは本人の希望を叶えるのは難しい。


 今危険な地帯に向かえば最悪、怪我だけでは済まなくなる。

 それは俺としても避けたい。正直、向かう組み合わせを決めるまでにもかなり時間がかかった。


「時間があればサーシャさんにもしっかり話を聞いてもらうつもりだったんだがな。あの人ならそう言う事情にも詳しいだろうから」

「『わー、また女の子の名前。やめてくれません? こっちに八つ当たりとんで来たら全部そっちに押し付けますよ?』」

「せめてもう少し実際に起こりそうな可能性を持ち出したら考えておく」


 はっきりしているのは山の中ということだけ。


 おそらく大枚をはたけば手に入れられないこともないだろうが、ある程度の労力で手に入れられるのなら自分の足で向かった方がはるかに早い。


 所謂本格的な登山にならなくとも、しらみつぶしに探せば手に入る可能性は十分にある。

 うってつけの魔法があるからこそできること。


「そういうお前はどうなんだ。持ち主の同意があるにせよ、お前がこっちに来たら……」

「『あのお婆ちゃんが危ないって? さすがにそれはわたしのこと侮り過ぎですよ。軽く侮辱罪いっときます?』」

「誰もできないとは言ってない。ただ……負担が大きいだろう。お前でも」

「『だからそれです。そういう発言です。よーく思い出しましょう? そのくらいどうにでもなるってこと』」

「それはお前が際限なしに力を行使したらの話だろう。治癒の力もそこまで強くないのに」


 本来、ヘレンは戦闘よりの能力を与えられている。


 治癒も出来ないわけではないが、特化した力を与えられたものに比べれば大きく劣ってしまうのは疑いようのない事実。

 まるでできない俺からしたら、羨ましいのはあるが。


「『はー? 肉弾戦よりのステ振りになってるだけで別にできますけど? 全然弱くないですけど? ここにいる全員の疲れとるくらいちょちょいのちょいですけど?』」

「ただし一名を除く」

「『疲弊した様子のない人からぼったくるのが当店のルールでーす』」


 それ以上に、どことなく遠い昔を思わせるやりとり――たとえそれがわざとだったとしても――が、いくらからか気を紛れさせてくれていた。

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