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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VII ここにいたいと思うから
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第184話 豪華な広間で

「おぉお……すっげー……」

「いい歳してそわそわしてんじゃねーですよ。目立ってんでしょーが」

「目を輝かせながら言っても説得力無いよ? イルエちゃん」


 一体全体、どうやってこれ程のスペースを確保したのだろうか。


 ゴンドラの中央。ちょっとした舞踏会でも開けそうな広間だった。


 そこには瑞々しい野菜のサラダに香ばしい肉料理、その他、各地ならではであろう料理の数々。

 まさによりどりみどり、なんでもござれ。


 飛行船のゴンドラと言えば小さいもの、なんてイメージもどこかへ吹き飛ばされてしまった。

 乗った時点で薄々感じていたが、やはり大きい。とんでもなく大きい。


 おそらく問題を解決できる何かがあるのだろう。さすが異世界と言うほかない。


「食事については最初からプランの中に含まれていますのでご心配なく。好きなだけ食べて いただいて構いませんよ?」


 つまるところ、バイキング。

 違う意味で目を疑いたくなるような光景がそこには広がっていた。


「……食べ切れます? これ」

「何、元は貴族様の超えた舌を満たすために用意されたんだろう。考えるだけ無駄だ、無駄」

「その、キリハ? 前から思ってたんだけど、そういう人に恨みでもあるたの……?」

「いやいや、まさか。これっぽっちも?」

「嘘おっしゃいよ」

「顔を見れば分かる、です」


 勘違いも甚だしい。何も、全く、微塵もない。


 そういう風に見えたのだとしたら、それは光の当たり方の問題だろう。

 何か妙な影でもできていたのかもしれない。


 不満なんて、まして楯突くなんて。そんな恐ろしいことはとてもとても。

 それに、一冒険者のことなど高貴な方々は歯牙にもかけないだろう、きっと。


「なんの話かと思えば……そんなことですか? あの姉様が信頼している業者なんですよ? そんなことがあると思いますか? ありませんよ? 不敬ですよ?」

「お姉さんのことまで話を飛躍させた覚えはありませんけどね?」

「今の流れで姉様について一切触れないとは何事ですか」

「これほど理不尽な流れは久し振りですよ」


 今の話と微塵も関係のないナターシャさんをどう称えろと。

 新しい宗教でも開く気か、この人は。……解釈違いでものの数か月の内に空中分解しかねないような。


 少なくとも人は集まるだろう。


 これでも、俺なりにナターシャ・ロクアニク・ソーアリッジという人物について調べはした。


 その上でまずひとこと言えるのは、確かに、憧れる人が後を絶たないのも納得できる人だということ。


 尾ひれがついているにせよ、噂だけでそう思えるほどの人物などそういない。

 表に出ていないような話も山のようにあるだろう。


 そして、サーシャさんはある意味それを最も近くから見ていた。

 これまでのサーシャさんの言動を思い返せば、納得のいかない部分について徹底的に議論を繰り広げる姿が容易に想像――


「はい、減点五」

「お姉さんがらみにしては随分少ないですね?」

「いいえ違います。内容は分かりませんが、いま何か失礼なことを考えていましたよね? 私の目は誤魔化せませんよ?」

「ああ、だったら仕方がないですね。読心術のない俺にはやはり厳しいということで、ここは一つ」


 サーシャさんのことだ。俺に減点が何の脅しにもなっていない事くらいとっくにわかっている筈なのに。


 もし、仮に、万一、何かの数奇な巡り会わせで受けることになったら手遅れの状態に陥っているのは事実だが。

 向こうもあの調子だから仕方がない。こうなるのは自然な流れと言える。


「そろそろ見飽きたから止めろってんですよ、その漫才。もっと新しいネタくらい用意したらどーですか」

「そういうことならここは是非、イルエに手本を」

「じゃあやってこいです、トーリャ」

「言われたんだから、お前がやれ」


 別に漫才をやっているつもりなんて微塵もない。

 まして、[ラジア・ノスト]に喧嘩を売りながらやるようなものじゃない。


「ね、ねぇキリハ……今日はもう休んだら? なんかちょっと変だよ?」

「ここにきて酔ったなんてベタな展開――……あぁでも、キリハ君ならありそうだよね。どうなの、リィルちゃん?」

「あたしに訊けばわかると思ったら大間違いよ?」


 何を言っているんだか。

 今更酔うわけがない、なんて言えばフラグになるかもしれないが、これでも体調管理には最低限注意を払っている。


「生憎父親も母親も揃って酒飲みだ。悪いな、お約束を裏切ってしまって」

「シラフでそれならそれはそれで問題だと思うけどね?」


 ましてこんな伸び伸びとした空間で、賑やかな雰囲気をぶち壊すようなことなどできる筈がない。






「んっ……」


 船舶のデッキのようなその場所は、夜の風をほぼそのままに感じる事ができた。


「……速いものだな」


 時には雲の中すら突き破っていきそうな勢い。


 周囲は真っ暗で何も見えない。

 潮風ではなくても、気分は船乗りだった。 


 遠く、はるか下。

 軽い気持ちで眺めてみて、思わず息を呑んだ。


 大地に灯る僅かな明かりは、小さくとも確かな存在感を放っていた。

 町を、そこに住まう人々を誇示するように。


 それらも風で揺らいで、気付けば見えなくなってしまった。

 そこから消えたわけでもないことくらい分かっているのに、ついつい探してしまう。


(どうせなら皆を……起こさない方がいいか、今日は)


 一歩間違えば真っ逆さま、なんて知れば止められるかも。


 そうでなくても今日は疲れているだろう。

 盛り上がっていたとはいえ、空の上であることに変わりはない。


 どことなく表情に固いものがあった。

 もう少し気の利いたセリフでも言えたらよかったのだが。


(……明日になれば少しは慣れるか、きっと)


 今日の残り――そもそもあんな大量の料理を食べ切れる筈がないのだが――も使うと聞いている。


 そういう庶民的なところを見れば、少しは気も楽になるだろう。


「……なんて、それもこれも明日までに消化が間に合えばの話か」


 さすがに俺も少し食べすぎてしまったかもしれない。


 料理が上手いとどうしても箸が進んでしまう。

 普段、ストラでは食べ慣れない味となれば猶更。


 それに、気のせいではないだろう。

 懐かしい味、というにはやや大げさな、しかしどことなく覚えのある風味の料理も少なくなかった。


 場を和ませる目的もすっ飛ばして、つい余計な言葉が口から飛び出してしまった。

 密かに浮かれてしまったのも、きっとそのせいだろう。


「そういうことで、お互いさっきのことは水に流しませんか? サーシャさん」

「だったらいきなり声をかけるべきではありませんでしたね。落ちたらどうするんですか」

「そうなる前に俺がちゃんと捕まえますから。その点はご心配なく」


 この空間で床から足を離す恐怖など、俺にはないに等しい。

 あくまで俺個人がそうなるのなら、という場合に限るが。


「それにもし、万一間に合わなかったとしても……この程度の高さならどうにでもなりますよ。すぐに追い駆けて掴まえに行きます。絶対に」

「だといいんですけどね」


 実演しましょうか、などと戯言をこんな雰囲気の中で口走れる筈もなく。


 その後に待ち受ける結末まで考えたら背筋が伸びる。

 ここだけの話では絶対に終わらない。断言してもいい。


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